少し前にBCLについて書いたけど、ラジオの話題は続く。
手元には、SONYのICF-2001Dを筆頭に、据え置き、ポータブル、名刺サイズまで10台近くある。それらのラジオは置き場所が決まっているが、この記事を書くにあたって同じ場所で受信や音質の比較なども行なった。遠方の放送局はともかく、強電界の地元放送局を聴くにはどれも大差ないことがわかった(中距離以上や弱電界、コミュニティFMになると性能差が出てくる)。

テレビのヴァラエティ番組は20世紀末ぐらいから見た記憶がない(時間のムダ、というか見るのが苦痛。芸能人の名前は両手に余るぐらいしか出てこない芸能界音痴)。テレビは数年見ていないが、ラジオは毎日点ける。特に食事の準備や食事中、清掃などで聴くことが多い。また、早朝や深夜の番組も聴く。ネットラジオは聞き逃し配信を利用することがある。
いずれにしても目を酷使しがちな日常で、音だけというのは好ましく感じる。特に聞きたいと思っていなくても、ついつい放送を聴き入ってしまうことが多々ある(続きを聴きたいが移動しなければならないなど)。テレビの情報に比べて話し手の個性や主張が明確に伝わるのも長所。
前回は海外の短波放送というマニアックな話題であったので、身近な放送局を快適に聴くためのラジオ、そして防災ラジオという観点で書く。
ゲリラ豪雨による氾濫、土砂災害、内水被害などは日常的に高い頻度で起こるようになってきた。J-SHIS 地震ハザードステーションを見ると近年は南海トラフ地震の発生確率も上がっている。企業はどのように自然災害、感染症、サイバー攻撃に向かい合うのかについての勉強会を開催しており、対策を考えたいという企業には無料で助言を行なっているところ。
そのなかでラジオの位置づけ、通信確保の手段や能登半島での教訓などを交えてお伝えしている。災害時は音声通話が不通となり、グループLINEなどのSNS援用の安否確認もサーバーが落ちると予測する。SNSは日常的に活用できるので災害時も親和性が高いのだが、通信が集中すると機能しないことは確実なので代替手段を確保して日常的に使うことを勧める。
災害伝言ダイヤル171は、日常的に利用しないといざというときに役に立たないし(サービスは普段は閉じているが、月に2回はNTTは試用ができるようにサービスを開放する。契約キャリアも問わない)。しかし広範に停電すればこれも使えない。メール(メーリングリスト)は見落とされる可能性が高く、Gmailなどはセキュリティ強化で不達の怖れがある。音声通話と比べてデータ通信(メールやWebブラウジング)はまだ活用できる可能性が高いものの、激甚災害時に輻輳は避けられない(メールが数日後に届く、URLをクリックしても開かないなど)。
ラジオも万能ではなくAM電波の到達距離(地形にもよる。山間部や谷間は入感しにくい)、FMやコミュニティFMは出力にもよるが受信エリアがAMよりは狭いという不利な点はあるものの、災害時のためにラジオは少なくとも1台は確保しておくべき。ただし自宅が放送局から遠い山間部や谷間でラジオが入感しない地区は、スマートフォン(ラジオ専用に廉価機種を確保する)+ラジオアプリ+モバイルバッテリーの環境構築で。
災害時に使えるラジオの条件とは以下のとおり。
・汎用性の高い乾電池が使えること。特殊な充電池を用いる(中華製に多い)ラジオは避ける。被災時は充電できない可能性があるうえ、ラジオの上に物が落ちてきた時に充電池が破損すると発火のリスクがあるからである。 これに対し、乾電池式は乾電池が手に入れば使える上に、破損しても発火のリスクは低い。
・多機能は避ける(中華製に多い)。非常時には信頼性がもっとも大切である。よくありがちな手回し発電機付の災害ラジオは基本性能が低い(多目的は無目的になりがち)。Bluetooth接続など不要な機能は消費電力の増加、複雑な機構は故障の原因となるなど。
・乾電池で最低でも100時間は使えること。
・持ち運びできること。大きすぎると持ち運びが不自由になるが、小さすぎると受信感度の低下、電池寿命の短さ、音量の小ささ、操作のしにくさがある。軽量で適切な大きさのサイズ(以下「ポータブル型」という)を選ぶ。
・子どもから高齢者まで(知らない人でも)使えること。テンキーやメモリ選局は操作がわからない人も出てくる。つまみやスイッチが少なすぎると、操作性が犠牲になり使い勝手が悪化する。
・スピーカーからある程度の音量が出ること、深夜でも聴くためにイヤフォン端子が付いていること。
これまでも災害対応ラジオのおすすめ機を紹介してきたが、モデルチェンジや廃番などで2025年時点で入手できる機種に絞って、実際に受信や音質比較を行なったうえでお示ししようと考えた。
(よくあるアクセス稼ぎのような「災害時に使えるラジオ○選」などの胡散臭い情報提供ではない)。
東芝 TY-HR4

・単一3本で450時間と電池寿命が長い(おそらくは入手できるラジオのなかで最高)。付けっぱなしで20日弱は驚異的。普段は電灯線で使い、非常時は電池という使い方もできる。
・必要最小限のつまみが揃っているので操作性が良い。この点では現在市販されているラジオで本機がベスト。電源スイッチ(ボリュームの最小から切る機種もある)、バンド切り替え(電源オンと兼ねている場合は操作性が悪い)、音量調整、選局ダイヤルが独立している。LEDライトが専用の点灯スイッチも色を変えて設定。
・アナログダイヤルの選局で直感的に誰でも使える。
・独立した音量調整ツマミは、急激に音量が上がらず使いやすい(回転ダイヤルの操作性+適切なボリュームカーブで微調整しやすい)。
・内部的にはダイヤルを回しながらDSP(デジタル信号処理)により選局を行なう。ほとんどがICチップ化されて内部が小型化簡素化、経年変化も少なくなる。AFC機構で放送局をダイアルを回して同調(最適点を探す)する際に、ある程度近寄れば内部で周波数を合わせてくれる(今回のおすすめ3機種はすべてこの方式)。
・スピーカーの口径が9センチと大きいため、音割れしにくく、音楽も愉しめる。長時間聴ける好ましい音質。
以上のように、音質、操作性、乾電池寿命など総合力で抜けている。これらは実際に操作、受信すればわかるが、本機はなぜか人気がないため入手しやすいのも利点。数年ごとにモデル変更(内部仕様の改良)が行なわれており、東芝はラジオを捨てていないと感じさせる。

アナログチューニングが面倒でプリセット選局したい人は、TY-SHR4(短波受信もできる)でも性能はほぼ同じ。
パナソニック RF-2450
・単三乾電池4本駆動で64時間と電池寿命は東芝と比べてかなり短いが、単3という汎用性が高い。
・10センチスピーカーで音質がよい。豊かな実在感のある音質は今回のなかでもトップクラス。
・感度、選択度は上記の東芝と同等。
・バンド切り替えと電源スイッチが兼用となっており、中間に位置するFMに設定する場合、ずれやすく力加減が微妙。
・ボリュームは埋め込み式の円盤のギザを回す方式。東芝は側面に円筒つまみのボリュームが使いやすいが、埋め込みダイヤルも慣れれば使いやすい。ただし音量が急激に上がるタイプで微調整しにくい(特に枕元で鳴らすなど小音量にしたいとき)。
・選局ダイヤルの感触がやや悪く、バックラッシュ(手を離すとわずかに戻る傾向)が東芝やELPAより大きい。
・音質の良さで選ぶ機種で、普段使いは電灯線で愉しめる。
→ 基本設計は良いのにブラッシュアップされていない。
ELPA ER-H100
・FMワイドが76〜95MHzと現実に即して受信帯域が設定されたことで前二者(76〜108MHz)より使いやすい。現時点では日本では意味のない95MHz〜108MHz(※)があるのは海外向けとの共用のためだろう。しかし今後のFM補完放送のNHK参入などを想定した場合、国内では周波数が拡充される可能性がある点に留意(※)。
・スピーカーの明瞭度は3機種でもっとも高いが、長時間の聴取では高域が耳に付くこともある。音が籠もりがちなAMでも聞き取りやすさがあり、高齢者がニュースを明確に聞き取りたい場合に向いている。
・同調を示すインジケーターが付いていない点が惜しまれる。DSPでは帯域幅が広いため、音が聞こえる時点でチューニングを停めずに最適点を探すときにわかりにくいのがこのラジオの欠点だが、価格の割には大手にひけをとらないまじめにつくられた製品。
・電源はACのほか、単1乾電池3本で200時間と電池寿命は東芝の半分程度。
※現在では使われてないV-Low 帯域(95MHz〜108MHz)について、NHKのFM補完放送開始の可能性、狭い周波数帯域で大出力局と小出力局(コミュニティFM)が混在する弊害、防災等を考えると中継局の増加等への対応が不可欠となるため、FM放送に割り当てることが望ましいと考える。総務省でもそのような検討が進められているようだ。よって、FMの周波数帯は、本機のような76MHz〜95MHzではなく、76MHz〜108MHz(現在でも大半のラジオが受信可能)仕様を選んでおくことが賢明かもしれない。
ところで、ソニーが推薦リストに入っていないではないかと言われる人もいるだろう。同クラスだと、ICF-506があるが、価格は2倍弱、デザインはよいが、音質はこの3機種のなかで潤いに乏しく耳になじみにくい。強いて購入する理由はないように思う。
ソニーはトランジスタラジオを実用化した企業でラジオでは世界のリーディングカンパニーである。ぼくの手持ち機種にもソニーが多い。オールバンド受信機ICF-2001Dを筆頭に、アナログラジオの名機ICF-801、テレビの受信ができるXDR-56TV、FMやAMのステレオ放送にスピーカーで対応したSRF-A300、レトロな外観で父が愛用していたICF-9250、ポケットラジオの傑作ICF-R351など、どれも性能に満足している。
ソニーのラジオは通信機としての優れた性能を小型化して機能的なデザインにまとめ上げるという点では世界一のメーカーだが、ここ数年はラジオから撤退しているように見える(少なくとも経営資源は投入しての開発は行なわれていない)。高性能なポケットラジオなどは今後も需要が見込まれるのに、廃番後に後継製品は発売されず、インターネットでは信じられない価格で中古や新品が売られていたりする。
売れる分野や将来性のある分野に経営資源を集中する(経営資源の選択と集中)ことで、短期的な収益性が改善するので株価は一時的に上昇する。 しかし、これは前時代的な経営手法で、良い事業だけを残す発想が長期的には収益性も悪化させる。なぜなら、企業は多様なスキルや製品群の中からそれらを組み合わせたり、それらの技術を変革に用いることができる(企業生態系の多様性)。VUCAの時代こそアイデアのゆりかごが必要で、強みだけに絞り込むと予定調和の未来しか出てこなくなる(冗長性の排除は事業ポートフォリオに限らず不確実性が高く複雑で予測困難な社会ではリスク要因だ)。
秋田の十和田オーディオでつくられたメイド・イン・ジャパンのソニーICF-801。いまでも名機との呼び声が高い。FM放送で聴かせる深々としてチェロの余韻はラジオの域を抜けていた。アナログラジオの傑作

売れる売れないにかかわらずファンが存在するが、売れないからこの分野は切るというのではファンは離れてしまう。短期的な利益の追求のみでは顧客の信頼を失い、長期的な利益を失わせる(顧客価値の喪失)。今回のおすすめにソニーが含まれないのは観念的なことだけでなく、実際に店頭で操作して音を聴いて判断しているが、現時点でおすすめできるSONYのラジオはない。
パナソニックも優れたラジオを数多く販売している。いまになってみれば、あの機種を買っておけば良かったと思うものが数機種ある。古くは、BCLラジオのクーガ115、上級機のクーガ118である。知人が所有して仕事の合間にいつも聴いていた横長の携帯ラジオRF-U06(PLLシンセサイザー方式)など受信性能に優れて音質も良い機種があったし、ポータブルにおいては高感度なRF-U99など枚挙に暇がない。松下のラジオは通信機に振っておらず、家庭で楽しむラジオに徹している点がソニーにはない美点である。
パナの現存機種では、ポータブルラジオでもっとも音が良いと思われるRF-2450(今回のおすすめ機種のひとつ)がある。スピーカーの口径が10cmと大きいこともあるが、音のまとめ方が松下ならでは。ただし防災仕様と見た場合に、単1を使う東芝に対して、単3乾電池の4本仕様というのは不利である(東芝は社外品のアダプターを介して単3を使うことも可能)。
手持ちの機種(シャンペンゴールドの小型ラジオ)ではRF-U170がすばらしい。単2乾電池で170時間と長時間駆動ができるうえ、音質の明瞭度と豊かさ、やわらかさが両立している。このラジオから流れる人の声は自然で長時間浸れる。現行機種では、RF-U156が後継で防災ラジオとしてリュックサックにも入れられる大きさでおすすめできる。手元のU170はバリコン方式のアナログラジオで電池寿命が長いのだが、近年のこのシリーズはDSP化されて電池寿命が短くなっている。それでも単2アルカリ乾電池で110時間程度は稼働する。ただし最新のモデルチェンジ後はACアダプターは使用不可となっており普段使いには電池専用というのがもったいないところ。まあ、災害時にACは使えない前提だし、そもそもこのラジオをACで使う人は少ないと思うので致命的ではない。

中波放送が2028年で停波の予定なので、今後のラジオはFMでの音質や選択度、選局性を確保しておく必要があるが、DSP方式はFMに有利と言われている。推薦の3機種は、いずれもDSP方式でかつAC(普段使いの電灯線)と乾電池駆動(災害時)で使えて、居間や食卓で普段から使えるところが良い。アナログチューニングながら選局はAFC(ある程度ダイヤルが放送局の周波数に近づくと自動で同調する)。ただしそのお節介な機能が災いして3機種とも遠方の放送局や弱い電波の局、混信の中から目当ての局を聴くというマニアックな用途には向かない。けれどそれは防災ラジオには必要ない要素である。
手持ちのXDR-56TV(白いラジオ)は、DSPではなくPLLシンセサイザー方式の良さが出ていると思われ、アンテナを使わなくてもFMを受信でき、微弱な電波のFM局や混信にも明らかに強く上記3機種より優れている。なによりテレビの1〜3chの音声が受信できる。映像のない音だけを聴いて意味があるのかと思われるだろうが、テレビ放送ではラジオと異なる切り口で放送されることがあり、環境音とともに流れると背景が音声だけでも伝わってくる。高感度と選択度と音質を両立させているのは4〜5千円の上記3機種にはない長所で、価格差は感じられる(ソニーがまだラジオを開発していた時代の製品)。製造中止後年数が経過しているがAmazonでも入手できる。しかし、中古が当時の新品より高く販売されている。それだけの価値はあるとは思うが、強いて購入するかどうかは…。
災害対応では、ポケットラジオも持っておくと良い。 仕事用のカバンにICF-R351を百円均一のハードケースに入れて持ち歩いている(これまでも出張時に被災している。3.11も県外出張中だったが、このラジオからの情報が役に立って無事帰宅できたことがある)。

このポケットラジオが信じられないぐらい高性能である。感度や選択度はここに上げた4千円クラスの筐体の大きなポータブルより良好で、移動中の列車内でも電波を確実にノイズレスで鮮明に捉えてくれる。 選局は簡単でPLLシンセサイザーで周波数も安定している。この機種の最新型SRF-R356は数年前に製造中止となってしまい、求める人が後を立たず中古市場でも高騰しているようだ。そうはいってもパナソニック(RF-ND380R)や東芝(TY-SCR70)で代替品はあるので高値の中古を求める必要はない。でも、ソニーにはラジオ市場に復帰して欲しい。
どの製品でも購買者のレビューでは感度が良い、悪いの両極端が見受けられる場合があるが、これはラジオの使いこなしの差と思われる。AM放送は窓際が有利でラジオ本体の向きを変えてもっともよく入感する方向に置く。このときパソコンなどのデジタル機器から離すことも重要。FMではアンテナの向きや角度を変えることはもちろん、ラジオ本体の場所(高さも含めて)を変えること。FM受信は場所に敏感で数十センチ動かすだけでまったく入らなかったものが朗々と受信できることがある。
災害はいつ起こるかわからない。そのために災害対応のラジオについて書いてみた。自宅にあるのにわざわざ買うことはないが、ラジオは複数必要と思う(少なく各部屋といわずとも各階には必要だろう。おすすめ機種はいずれも5千円でお釣りが来る)ので追加購入を検討してみては?
災害用というよりは普段からラジオの放送に親しんでみてはというのは本音。ラジオ100年を迎えてますますラジオは愉しめるのではと考えている。
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