泊まりの会議が松山市内であり、
会場が道後温泉近傍の大和屋本店であったことから
道後温泉本館で湯浴みしてみることにした。
前回入浴したのはいつだったか思い出せないが
有名な割に小さな風呂との印象があった。
(若かったのだろう)
道後には頻繁に足を運んでいるが、
本館周辺を散策するだけで入浴は避けていた。
今回は宿泊が本館のすぐ近くであり
6時からの一番風呂に入ることができる。
道後もご多分に漏れず
東アジア、アメリカ、ヨーロッパからの観光客でいっぱいである。
本館には神の湯と霊(たま)の湯の2種類の湯がある。
休憩室、提供される飲食、サービスの組み合わせでプランがある。
観光で来られた方は迷うことなく最上級のプランで入浴しよう。
霊の湯 三階個室 大人1550円 小人770円(利用時間1時間20分)
セット内容:霊の湯、神の湯、貸浴衣、貸タオル、お茶、坊っちゃん団子、又新殿観覧
(選択の余地なしですよ)
湯としての道後温泉の歴史は千年を超える。
明治27年に道後湯之町の初代町長「伊佐庭 如矢」(いさにわ ゆきや)の英断で
いまの本館が建てられた。町の命運を左右する大勝負の投資だった。
(いかに政治家の資質が未来を左右するかがわかる)
それが奏功して今日の道後温泉、松山市がある。
その本館も建築後120年を越えた。
耐震性に問題があっても観光への影響が大きいため
改修が先送りとなっていた(改修には7年を要する)。
そのため、外湯の「椿の湯」を充実させ、
さらには「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉」を整備することで
本館改修の影響を緩和しようとしている。
(新しい施設で本館と同じ湯の雰囲気が味わえるのでこちらも選択肢に)
それでも本館が魅力的なのは今回行ってみて納得できた。
建物が狭く動線が曲がりくねり、
しかも立体(階をまたいで)に交錯している。
最上級プランでは神の湯と霊の湯を行き来できるが
スタッフに聞かないと辿り着くことも
部屋に戻ることもままならない。
階段は狭い上に急で、
これまでに転落事故が起きているのではないかと想像する。
これが自宅であればストレスがたまるだろう。
(各地で人気の古民家の宿も頭を打たないよう敷居をくぐるなど不便。非日常だからよいのだ)
でもこの雰囲気に浸りながら複雑な通路を経て
たどりつく湯への期待が高まる。
この構造だと人を随所に配置する必要があるので人件費がかかる。
そこがまたよいのだ。
はるばる道後までやってきて客人としてもてなされている、と感じる。
(千と千尋の雰囲気そのもの)。
きょうはしばし世俗を離れて湯につかりたい。
曲がりくねった長い廊下と地階に降りる階段をすり抜けると
ようやく霊(たま)の湯。
庵治石でつくられた中国王朝を思わせる図柄や曲線の造形が
伊予にいながら異国情緒をかきたててやまない。
アルカリ性単純泉の湯は肌触りがやわらかく
それでいて古い角質を溶かしてしまうほど(PH9を越えるという)。
久しぶりの本館の湯に感激した。
これが混み合っていたら
これほどの感慨にはならなかったかもしれない。
朝一番は意外にも混んでいるが
時間制限の関係で7時頃から空いてくる。
午後の昼下がりの道後温泉本館

改修された椿の湯

新設された別館 飛鳥乃湯泉

大街道から銀天街もL字だが
道後商店街もL字である。
会議の後、松山市在住の山本聡子さんにご案内をいただいている。

六時屋のアイスもなかを奨められた。
歩きながら食べる。

坊っちゃん団子はどこで買っても同じではない。
ぼくも以前からこちらで買っている。
元祖だから、ここでしか買えないからという理由だけではない。
団子の口溶け感、上品な風味が他と違うのだ。
(みやげもの用とは一線を画する。この良さがわかる人にだけ買ってもらいたいと思うほど)

家に持って帰ったら来客があってその日のうちになくなってしまった。
(賞味期限が短いのもいい)
自宅へ持ち帰ってからの写真


夜の本館はいよいよ妖しさを増して千と千尋の湯屋になっていく。



道後温泉本館の全貌

(道後温泉公式サイト提供
https://dogo.jp/download)
朝が来た。
6時に玄関を開ける本館の前にはすでに行列。
今回は三連休の初日だけど台風がこの日襲来することになっていたので
宿泊客が少なかったのでは。
やがてドンドンと太鼓がきこえてきた。

道後温泉振鷺閣の刻太鼓は
環境省選定「残したい日本の音風景100選」のひとつ。
一番の湯浴みをめざす来客がどんどん入っていく

ぼくも躊躇することなく一番いい切符を買う。
まずは3階の個室に通されてそこで着替えて階下に降りていく。
曲がりくねる廊下、小さな部屋が連続する構造、
すれちがうことは不可能な狭く急な階段だけど、
そこがまたいい。
人が近く感じられるから。
霊の湯(公式サイト提供)

神の湯(公式サイト提供)

同(公式サイト提供)

3階に上がっていくと個室が用意されている。
これが80分以内で取って置いてもらえる。
(これで1550円は高いですか?)


花瓶にはホトトギスが生けられている
(正岡子規にちなんだもの。気付く人は気付くだろう。さすが道後温泉)

窓の外は本館の敷地内。増築され入り組んだ建屋の構造がうかがえる

湯上がりを報せると
坊っちゃん団子と茶が運ばれてきた。

3階には漱石の間があって見学できる。

漱石の間の左前(障子がある部屋)がさっきまでいた処

さらに申し出れば本館内の見学ができる(皇室ゆかりの部屋などがある=写真撮影不可)
皇室専用の又新殿と浴室(公式サイト提供)


道後温泉から12分で大街道。降りたところで坊っちゃん列車とすれちがう。
車掌が手を振る先には東アジア系のツアー客
(双方が手を振り合う。こんなところから外交は始まっているんだね)

大街道から北へロープウェイ街を歩く。

ところで松山市の都市経営は四国随一だろう。
停滞することなくまちが進化している様子が伝わってくる。
ロープウェイ街は10年ほど前に商業地で全国一の地価の上昇率を示した街区。
(エリアマネジメントができているんだね)
「霧の森大福」は本店のある新宮村(現四国中央市)と
松山ロープウェイ街の支店だけで手に入る。

10時開店前だが、帰りに通りかかるとすでに行列ができていた。
(地元で採れる茶葉を活かす視点がぶれていないところが見事。苦みと甘みで個性をつくったのが成功。まずい、という声が多いほど熱烈なファンも多いということ)
愛媛県では水道の蛇口をひねるとみかんジュースが出てくる。
だから水は買っているそうだ。
(香川県ではうどんの出汁、高知県では辛口の日本酒か麒麟麦酒、徳島県ではポカリスエットが出てくることはよい子のみんなは知っているよね←本気にしない)

道後温泉は日本の宝である。