大都会に住んでいるとマーケティングの渦に巻かれて暮らしている。
春が来ると(季節の先取りとして通常1〜2週間前)
春の季語に載せて購買意欲を刺激する記号が溢れる。
いちごのスイーツ、桜の和菓子…。
食と季節をわかりやすく見せてくれるのは
地方ではなくて都会かもしれない。
まずは季節があり、
季節の変化をもたらす万物の変移がある。
その気配を感じられたら
風土との一体を感じられる。
それには地方がいい。
徳島は知られざる食材の宝庫であり
旬の食に囲まれた暮らしは豊かである。
生命体の盛り、華がそこはかとなく感じられる。
それが栄養であり滋味であり
目に見えない精力をいただく気がする。
(思い出してください。瀬戸内海、紀伊水道、太平洋とミネラル豊富な清流が海に捧げるプレゼントを。自然界のミネラルに裏打ちされた多様性が徳島の食の本質)
ここ数週間、生活は桜とともにあった。
徳島の地で野に咲く花はもちろん
人がつくる果物や野菜も含めて
それを愛でつつ、食べることは口福であり
生きている幸せを実感できるのではないだろうか。
脇町の川田光栄堂で求めたのは桜餅。
和菓子は見かけで判断できないものだけど
この桜餅は香りを大切にていねいにつくられている。
目を閉じて、今年の桜に思いをはせるひととき。

こちらは徳島市の郊外、佐那河内村だけで産するイチゴ。
さくらももいちごと名付けられている。

ほとんどが大阪の卸売市場へ出荷されるため
徳島県人でも食べたことがない人、見たことさえない人も少なくない。
ぼくもこれまでの人生で初めて店頭に実物が並んでいるのを見た。


(先端がやや色づきが悪いだけで味は変わらない。地元JAの売店で普通に買えるけれど価格はお伝えできない)
続いて莓のシフォンケーキの話題。
中土佐の風工房のイチゴのシフォンケーキは
甘さたっぷり、そして塩味とイチゴテイストのたっぷり感がわかりやすい。
(ベタな訴求は地域のソウルフードならでは)

それに対して、素材感を大切にていねいにつくる人がいる。
→ 以前の紹介記事 http://soratoumi2.sblo.jp/article/182064450.html

この莓のシフォンは
果物としてのイチゴが感じられる。
菓子を壊さないぎりぎりまで素材感を閉じ込め、
しかも香り立つ(佐那河内の莓を添えてみた)。

人生の最後でこんなお菓子を食べられたらと思えるような―。
作り手はhowattoの伊豆田裕美さん。
続いて桜のシフォン。
こちらはさらに精妙なる香り。
桜の塩漬けの風味を引き出しているのは小豆の甘み。
桜の風味がさざなみのように立ち上がるが、
それも一瞬のうちに通り過ぎる。
いまのは何?と振り返っても誰もいない喪失感。
ほのかな香りが吐息を潤すよう。

素材感を直截的に伝えようとしながらも
素材の組み合わせを「おいしさ」として再構築している。
作る人のやわらかな感性を伝えてやまない。