ソニーICF-801の代替機を探して
かつてソニーのポータブルラジオICF-801という機種があり、その良さを紹介したところ、(それがきっかけがどうかわからないが単独記事としてはアクセス数が極めて多かったのは確か)名機として定着した。
メイド・イン・ジャパンの至福のラジオ〜ICF-801〜
http://soratoumi.sblo.jp/article/57853049.html
このラジオは、ソニーブランドとして秋田県の十和田オーディオ(株)で設計、製造された正真正銘の日本製であり、なによりその音質が良かった。JALジェットストリームの冒頭で流れる「ミスター・ロンリー」のストリングスの深々とした低域が夜のしじまに漂うと安らぎを感じさせるひとときとなった。このラジオは、高級サルーン(いまは使わなれない言葉だが)のドアを開閉した際のような上質の操作感というべき、イルミネーション点灯後に温かみのある光が徐々に暗くなるたたずまいの美しさもあった。
ICF-801は2009年に発売されたが、やがて生産中止となり、後継の機種もそれに準じる機種も発売されることがなかったため、いまでも惜しむ声が聴かれる。Amazonで入手できたのは2015年ぐらいまでで、新品で6千円程度の機種が中古で3〜5万円の高値を付けたこともあった。
現時点で入手できるポータブルラジオを店頭で聴き比べた結果…
そこで、ICF-801の後継を探すべく、電波状況が異なる数店舗の家電量販店の店頭で比較を行い、もっとも優れていると判断したのが東芝のTY-HR4だった。

東芝TY-HR4は2022年5月の発売で、どこの家電量販店の店頭で4〜5千円で入手できる点で申し分ない。東日本震災時に店頭から数か月ラジオが消えたことを覚えていらっしゃるだろうか。潤沢に供給されているときに確保しておくのが災害対策の基本と思っている(2020年4月の緊急事態宣言時でもうちにはマスクの備蓄があったので困らなかった)。
さて、このラジオを自宅の約10機種と比較した記事を前回に書いた。比較対象となったのは錚々たる機種であったが、東芝のこの機種はそれらと比べても、日常の生活場面でも災害時でもまっさきに推薦できると確信できたので改めて紹介する。

防災用のラジオ おすすめの3機種(2025年版)。ラジオは普段から使ってください
http://soratoumi2.sblo.jp/article/191298911.html
このラジオの長所や災害対応の利点については先の記事をご覧いただくとして、数か月使ってみてわかったことを追記する。以下の特徴は同価格帯のライバルにはない長所である(Webのレビュー等でも触れられていない)。

使い込んでわかる東芝TY-HR4の良さ
(1)音質の良さ
・店頭では地味に聞こえるかもしれないが、自宅で聴くととても心地よい。コンパクトながらやや厚みのある筐体はスピーカー背面での音響効果として貢献している。
・9センチ口径のスピーカーユニットはフルレンジとして適切な大きさで中域を中心に低域と高域が均衡している。
・筐体の剛性が高い。手で持った感じでもそうだが、音量を上げてもびりつきはない。
・音質の特徴を、オーディオマニアがわかるように表現すると、スペンドールやロジャースなどイギリスの小型2ウェイのBBCモニターのように、声を中心に忠実な表現をする、音量を上げてもうるさくならないため長時間聴ける。この点は多くの人が賛同していただけるだろう。
(2)操作性の良さ
・電源スイッチ、バンド切り替え、チューニングダイヤル、音量調整の4つのダイヤルが独立しているので操作しやすい。切り替えスイッチが左-中-右の3択だと中が操作しにくいが、本機は左-右で電源やバンドセレクトを行なうので暗闇で手探りでもやりやすい。
・音量調整がしやすい。ボリュームツマミが独立しているだけでなく、急激に音量が上がらないカーブなので微妙な調整がしやすい。特に夜中に小音量で枕元で聴く際などに重宝する。大音量にする際も回転角がリニアで大きいため調整しやすい。
・黒のラジオと比べて前面が明るいシルバーの本機は暗がりでもどこにあるかがわかりやすい。
・薄型のラジオは立てたときに倒れやすいが、本機は適度な厚みがあるので安定感がある。
・電池ボックスの節度を持った開け閉めのしやすさ。手が痛くなることもなければ、不意に空いてしまうこともない。

(3)防災にも普段使いにも便利な機能
・市販されているラジオのなかでもっとも長い電池寿命
・LEDライトの装備
・移動の際に手が空く肩ベルト付き

以上のように防災ラジオとしても満点であるが、普段使いとしておすすめしたい。次期モデルの改良点候補としては、選局の際にボタンを押すとバックライトが数秒点灯する仕様であれば、薄暗い場所での選局がしやすくなる。これは実用性が高いので販売価格が上昇しても望みたい改良箇所。
普段使いのラジオとして、ついつい点けてしまう心地よさ
インターネットのラジオアプリでは、聴きたい番組をねらって聴く場面が多いと思うけど、「ラジオでも点けるか」とスイッチを入れた時点で、聴きたかったことや知りたかった情報などに遭遇することがある。初めて知ったことなど情報の質の高さはテレビにはないもの。ラジオを付けなければこの情報に遭遇しなかったのかと。
そんな偶然の出会いはついつい付けたくなるから。AMのニュースでは聞き取りやすさ(切迫感のある情報こそキンキンしない音声で聴きたい)があり、FMの音楽番組ではついつい音量を上げてしまうけど、キャビネットが余裕を持ってスピーカーを制震しているので聞きこんでしまう。

ところで、Amazonでは未だに旧機種のTY-HR3(2018年10月発売)が掲載されていて、レビューを見ると、音量を上げるとビビリが発生するとあるが、新型のTY-HR4(2022年5月発売)ではそれはない。HR3では400時間だった乾電池寿命(単1乾電池×3本)がHR4では450時間に増え、デザインも精悍ですっきりとしたものに変化している。些細なところでは640グラムから635グラムとわずかに軽量化している。これらのことから東芝は内部回路や細部の設計をブラッシュアップしていることがわかる。HR3もそうだったが、アナログポリバリコンのような複雑な回路ではなく最新のDSP回路による部品点数の削減は経年変化が少なく、しかも価格を上げずに良い方向に貢献している。ラジオの型番だけ変えて値上げ発売するメーカーが多いなかで、モデルチェンジで完成度を上げていく東芝の姿勢は評価したい。
ICF-801と比較すれば、オーディオ的な音質はソニーが上回るが、東芝も実用上十分。どちらのラジオも遠距離や微弱電波の放送局を狙う機種ではないが、デジタル処理の利点で東芝の受信音が静かに聞こえるので聞きやすさは東芝が優る印象(ビート音などがないSN感の高さ)。
このラジオは、つい聴いてみたくなるのでラジオでも聴いてみるか、という生活から見えてくることがありますよ、と締めくくりたい。
東芝 TY-HR4(東芝公式Webサイト)
https://www.toshiba-lifestyle.com/jp/pro_radio/ty-hr4/
追記
東芝の同クラスのラジオは選択肢が豊富であるが、そのなかで以下の付加機能の機種が付かない本機(AM・FM/モノラル仕様)を勧める理由がある。
ステレオ仕様…電池寿命が短くなる、価格が変わらずスピーカーと駆動系が2個必要となるのでユニットの質が下がる。電界強度が十分でないときステレオ受信時にノイズや歪みが気になる。ステレオと比べてモノラルのほうが音像の実在感がある。
プリセットチューニングの機種…放送局を登録できるのは便利なようで、普段聴かない放送局を探したり、エリアが変わったときに選局が不便。災害時は次々と周波数を変えてみる場面が出てくるはずで、その際のチューニングがダイヤルを回すだけの本機と違って面倒でメカに詳しくない人は操作できないだろう。マニアックな愉しみとしてはチューニングダイヤルを回す操作もあるのでは。
短波受信ができる機種…本機の価格帯で短波の受信は困難。できたとしても短波放送は縮小傾向にあり、インターネットが接続できる環境下では不要。遠距離受信が目的のBCLマニアなら中華製を選ぶ時代でマニア心をくすぐる機種が発売されているのでそちらをどうぞ。ただし防災の観点と被災時の乾電池の入手容易性から中華に多い独自規格のリチウムイオン充電池専用機は不利であり、衝撃を受けると発火のリスクがあってリチウムイオン充電池仕様は避けたい。電灯線と乾電池仕様にはそのような怖れは少ない。
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