とある女性から
「カノコユリが好きです。見たい」
と告白にも似たメールから始まった。
彼女によれば、山間部にあった彼女の実家周辺で
かつてたくさん見られたものが
この頃では見かけなくなった。
でも、せみしぐれを浴びて、
崖で乱舞するカノコユリをもう一度と。
そこで、誰かさんに声がかかった。
調べてみると、
タキユリのことだろうと思った。
タキユリはカノコユリの変種で、
長崎、高知、徳島に自生する希少種であることがわかった。
さらに徳島では上流に自生していることが判明。
ホームグラウンドでもあり、出かけることにした。
(依頼主が魅力的な女性でもあるので)
ときは7月下旬。
川沿いに遡り、やがて県道へと入る。

あちこちに自生地が点在している。
午後からは陽が射してくるだろうが、
太陽が当たらないほうが色が出やすい。
機材をセットして撮り始めた頃、
脇を通り抜けようとしたクルマが止まって
「平井さんとちゃうん?」(阿波弁)
という声が聞こえて
以前にお世話になった近所の人かもと思い
こちらも停車したクルマに近寄る。
十数年前、上流から戻ろうとしていた夕刻、
10メートル先で崖崩れが起こり、
道をふさいでしまった。
(クルマごと巻き込まれていたら谷底へ転落だったが)
上流はどこにも抜けていない行き止まり、迂回路もない。
明日までに帰りたいが、
寝るところは車中としても、
食糧も水も持ち合わせていない。
そのとき、近所の人がすずみがてら寄ってきた。
やがてユンボを自宅から乗り出して
かなりの量の土砂をどけ始めた。
ほんの10分ぐらいで、
だましだまし通れそうな状況になった。
「これで帰れるんとちゃうん」(阿波弁)
土砂崩れは珍しいものでないので
役場に連絡することなく、自分たちでやってしまうのだ。
そのとき、お世話になった近所のNさんかと思ったのだが。
遭遇したその人は―。
笠松和一さんだった。
この4月まで上勝町長を勤め上げ、
ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)やバイオマス、森林政策など
独自の理念で先進的な町政を行い、
国に向けても絶えず情報発信を行っていた前町長。
先日(7/10)のブログでも
上勝のゼロ・ウェイストアカデミーの取り組みを紹介したばかりだった。
(運転手の奥様、オロナミンCとパンをいただき、ありがとうございます)

目的地の帰りに、
このユリが気になってどこかで撮影しようと考えておられたとのこと。
出役などで地元の人が草刈を行うとき、
電動ノコで簡単に切られてしまうはずだが、
なぜ、残っているのかが不思議だったそうだ。
(ご自身の手の包帯は草刈に張り切りすぎたからだとか)
「こんな看板がありますよ」
「これを残すには、タダゴトではない手間がかかるわな」

地元の人たちの努力によって残されている
思いの込められたタキユリなのだ。
ジンリョウユリといい、タキユリといい、
徳島には全国でも珍しいユリが揃っている。
県の農業関連の部署には以下の文献がある。
http://www.pref.tokushima.jp/tafftsc/nouken/information/news/n82_5.html
実は徳島県が野生ユリの王国ともいえる県であることをご存じだろうか。
日本の中央長野県,離島を持つ鹿児島県と並んで
自生種5種,逸脱種2種の計7種の野生ユリを産する。
なかでも海南町をはじめ徳島県に自生するタキユリは
カノコユリの変種で,
本州にはまったく自生のない貴重な植物資源である。
(引用ここまで)
ジンリョウユリ(木沢地区)もここも
地元の有志の保全活動によって支えられている。
行政としては、条例などで保全をうたうなど
なんらかの側面支援はできないものだろうか。
それはさておいて、
「カノコユリを見たい女性」のリクエストがきっかけで
タキユリの楽園に辿り着いた。
お待たせの写真を。
水量が少ないが本流を遡ってみた。
県道沿いにいきなり現れた群生


友釣りをする釣り人。この釣り法では最上流部になるだろう。

同じ個体の花でも色が違う


カラスアゲハが遊ぶ



川の緑萌える川面

あでやかな花柄をしていても
反り返る曲線に素朴さがある。
白を基調とした花びらに
萌黄〜鶸萌黄(ひわもえぎ)色の軸があり、
淡い桃色の階調を従えて
深紅の鹿の子まだらが入る。
同色のおしべ、めしべの軸の先端は
えんじというよりはもう少し茶がかった赤蘇芳(あかすおう)。
なんという色の取り合わせ。
日本的な色合いを絶妙にブレンドしているだけに
かつてシーボルトがこの花を日本から持ち帰ったところ
ヨーロッパで百合ブームが起こったとか。











この辺りで岩に阻まれ、川幅が狭い渓谷となる。
川で泳げれば気持ちが良いだろう。水量は少なめ





木々の花も

取水堰

ここからは富士フイルムX20で撮影したもの(広角マクロ)






コオニユリか?

ウバユリ

タキユリとは、
滝のようにしだれ落ちるという風情から来ていると思ったが、
嶽(山岳を表す言葉)に自生するという意味だとか。
カノコユリは、上を向いて自立しているが、
タキユリは、崖から下を向いて咲く。

人間の良心が咲かせた花、
しとやかなユリは7月中旬から下旬が見頃を迎える。
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