2013年07月20日

高山植物の行く末を案じて

四国には高山植物はほとんどない。
高山植物とは、高い山に生えている植物ではなく
森林限界を超える地帯の植物をいう。

そのほとんどは、
氷河期に北方から渡ってきて、
その後の温暖化で
標高の高い山岳に閉じ込められたものと考えられている。

一部は、北方由来ではない植物が寒冷化に適応して
高い山に上がったものもあるらしい。

四国の山々には森林限界がないので
厳密には高山植物は存在しないはずだが、
瀬戸内からさえぎるものなくそびえる
石鎚山(西日本の最高峰)と東赤石山の山系は厳しい気象条件であり、
シコクイチゲ、ミヤマダイコンソウ、
ユキワリソウ、コウスユキソウなどの
高山植物が存在している。
どれもかれんな山野草である。

高山植物を脅かす存在は、
人の手による盗掘と、鹿の食害である。
例えば、石鎚山からシコクイチゲがなくなると
この地上からこの種が絶えることを意味する。
(自己満足や売買目的の園芸マニアの罪は重い)
このふたつについて、
積極的に啓発を行っていた(=保護活動)
山岳写真家が新井和也さんである。

はじめて手にした植物図鑑(ポケットサイズ)が
新井さんの著書であった。

類書のなかで際だっているのは、
生態写真と細部における明確なディティール、
背景とのバランスなど
とてもていねいに仕事を行っている点である。

新井さんの著書が増えていくのを楽しみにしていた矢先、
先日のテレビニュースで信じられない事故を耳にした。

それによると、剣岳で落石に遭遇されたとのこと。
(あと1〜2メートルずれていたなら助かったかも)
絶句―。

新井さんのブログには、
愛らしいお嬢様と上品な奥様の写真が掲載されることがある。
(小さな子ども連れの親子登山も熱心に啓発を行われていた)
お二人におかけする言葉が見つからないけれど、
和也さんの分まで充実した人生を送っていたたげたらと願うばかりである。

新井さんの著作を以下にご紹介。

週末ハイキングが楽しくなる 花の図鑑 (小学館101ビジュアル新書)

四国に住むみなさんにまっさきにおすすめしたいのはこれ。
四国でもなじみのある植物が多数掲載されている。
ぼくは、寝る前にこのハンディ図鑑をぱらぱらとめくるのが儀式となっている。


四国にはあまり縁がないけれど、やはり高山植物カテゴリーは夢がある。

以下の3冊は少しずつ個性が違う。

高山植物ハンディ図鑑 (小学館101ビジュアル新書)

小さくて軽いのに掲載数が多くコンパクトにまとまっているのがこれ。
人気の著作でこのシリーズの続編を望む声は多かったようだ。
(「週末ハイキングが楽しくなる〜」もこのシリーズの一冊)

日本の高山植物400 (ポケット図鑑)

さらに、掲載数と部分写真などを充実させたのがこれ。
1頁内に豊富な情報量が盛りこまれている。
上記と比べて分厚いので携帯用には向かないかもしれないが、
目を楽しませるのならこれだろう。

高山植物の基本 (OUTDOOR POCKET MANUAL)

高山植物シリーズでの最新刊はこれ。
前二冊と異なるのは、高山植物を100種類程度に絞りこむとともに
その植物が自生する環境(風景)を収めていること。
四国に住む人間にとっては、
まるで現地を訪れているかのような感覚(夢)を覚える。
特に「タカネビランジ」が垂直の岩壁に張りつくさまを
(おそらくはロッククライミングで)
広角レンズで迫った写真は白眉だろう。
最初に買う一冊ではないが、人々の思いに残る著書だ。

雪に閉ざされた1年のうち、
わずかに地表が顔を覗かせる二ヶ月、
その二ヶ月にすべてをかけて開く。
(それを見る人もいのちをかけてやって来る)

それは北極圏と同じ環境。
強風と紫外線にさらされる環境で
背丈は短い。
でも、花は下界の種類に負けないぐらい大きく咲く。

残念ながら四国に北極圏のような環境はないので
高山植物は見られないが、
それでも、それぞれの環境で精一杯生きている。

新井さんの著書のなかで、
高山植物の基本 (OUTDOOR POCKET MANUAL)
図鑑という制約を離れて
高山植物に寄せる彼の感性が自由に羽ばたいている。
そのまなざしの真摯さにうたれる。
限りない共感が込められているから。

新井さん、EOSを抱えて四国の山にも来てもらいたかった。
(合掌)








新井和也オフィシャルサイト



タグ:植物図鑑
posted by 平井 吉信 at 00:00| Comment(0) | 生きる
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