2013年06月11日

人知れず咲いていた

なぜ、野に咲く花なのか。

控えめだけれど気配りがさりげない。
抜けるような白い肌には
ほのかに血色の紅を浮かべて
軽い会釈のあと
セーターに包みこんだふくらみが揺れ
空気に溶け込むような微笑み。
まつげが見上げながら
真綿でくるんだやわらかく澄んだ声で。

― 鈴虫なんだ。

そこに気付いたという誇らしさ。
あれは17の頃。

大雪が降った冬休み。
いつもなら雪が降っても、
午後にはぬかるみに変わってしまうのに、
今年はお昼を過ぎてもまだ残っていた。
さっきまでひばりのように話し合っていたふたりが無口になる。
「雪が降っているね」
「ええ」
時が過ぎてゆく。ふたりの気持ちがどこにも逃げ場がなくなってしまう。

 真空の海で魂が遊んでいる…

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人しれず咲いていた
ジンリョウユリ
を見たとき思い出した。



posted by 平井 吉信 at 00:55| Comment(0) | 生きる
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