まず、キキョウ(残念ながら野生種は見たことがない)。
そしてムラサキセンブリ。
紫系統の花が好きなんだろうな。
剣山のキレンゲショウマ。
霧の立ちこめる斜面に浮かび上がる
露に打たれた黄色の花には特別の思いがある。
そして、サクラソウの仲間に惹かれる。
あでやかな媚態で
人里離れた山奥で人知れず咲いている。
それが華やかであろうと地味であろうと
どの山野草もそこに生きていることには変わりはない。
あでやかな花がひっそりと咲いている。
こんなところ、誰も来ないだろうと思える場所で。
花は、誰かに見られるために咲いているのだと思う。
その花の名はシコクカッコソウ。
本州北部に分布するカッコソウの仲間。
もっと大きな分類ではサクラソウという属。
先週はモモイロイワバソウ(仮称)を見に行った。
今回はシコクカッコソウを見るため徳島県西部の山を訪れた。
生息地の情報を持っていないので、
五感を働かせつつ足で歩くしかない。
歩くときは、足元の小さな花さえ踏まないように。
春がやってきた。
のどかな天気は樹木も萌えて山全体が春をうたう。
ぼくもつられて歌をうたう。


谷筋で見かけた。イチゲの仲間だと思うが
(アズマイチゲ?もしくはミヤマハコベ?)

ヒメレンゲ。最初は苔が咲かせた花と思っていた。
幸福の黄色を小さなヒメレンゲの花たちが咲き伝える。


春の七草のひとつ、ごぎょう(ハハコグサ)。

自生すると推定した場所に向けて
踏み跡のない斜面を一歩一歩進む。
油断すると滑り落ちる。

小学校の頃から好きなことは変わっていない。
(体型や体力も高校の頃と変わっていない)
川が好きで、地図を眺めてはまだ見ぬ川の表情に思いを馳せていた。
→ 四国の川と生きる
地図を見るのが好きで
(特に昔の地形が記録されたいにしえの地図はおもしろい)
小学校低学年の頃には、日本地図、世界地図のほとんどを覚えていた。
ひょんなご縁で、
「カシミール3D」の開発者であり
インターネット上で「山と自然の旅」を主宰され
人気の「山旅倶楽部」を主宰する方とも親しくなった。
(インターネット上でGPSを用いて立体的に描画されているルート図などはこれで作成したもの)
現在、この方は徳島県南部にお住まいされていて、
ときどき食事を兼ねて遊びに行っている。
その後、四国内を中心に
国土地理院の1/5万、1/2.5万地形図を時間をかけて集めていった。
(地形図によっては2度の改訂を経ているものもある)。
地図を眺めてはまだ見ぬ地形を想像しわくわくする。
コーヒーを飲みながらの昼下がり、地図を眺めると至福の時間。
フィールドでの読図能力も磨いた。
地図に載っていない地形さえも
等高線の表情から推察できる。
沢の読み方、現在地の同定の仕方、
道迷いのパターン化と回避…。
地図とコンパスを使う限り、
初めての山でも道迷いはない。
(やっかいなのは林道が延伸しているなど、地図に掲載のない人工物があるとき)
地図を使うのが楽しいので
GPSやスマートフォンは使わない。
電源に依存しないのが安心。
だから、きょうも不安なく
自生地と推察した山域に向けて
未知のルートを進んでいる。
ただし、遭遇するかどうかは運しだい。
大抵のところ、生息地は点でしかないから
十数メートル離れるとわからない。
広い山を運動場に例えると、
校庭に落とした一円玉を探すがごとく。
(しばらく時間が経過)
ある尾根筋を歩いているとき
ちらりと紅色が見えた気がした。
近づいてみると、シコクカッコソウが咲いていた。
(たまたま運が味方しただけで、空振りすることも少なくない)
しばらくはシコクカッコソウの楽園を。
斜面に株が点在する光景に固唾を呑む。



花の色は株ごとに違う。

生育する場所によって背丈や葉の付き方も違う。

まとまりの良いかたち。楚々として可愛い。


空気がぱりっと震えるようなあでやかさ。


花が立体的に重なって視線が誘導される。

大きな葉を拡げる。その上に花が乱舞する。

花を後ろから見た。白い毛に覆われている。

イワザクラと比べると花の数が多い。力強く咲き誇る。

日が当たらなくても自ら光を放つよう。

興福寺の阿修羅像のように周囲に顔を向ける。

黒を背景に浮かび上がる深紅。

葉のかたちが印象的。

ここにいるから輝く。
それは微妙な生態系の約束。
何人たりともそれを妨げることはできない。

シコクカッコソウとヤマシャクヤクが並んでいる。
紅組の先行で始まったが、これからは白組の出番。
ヤマシャクヤク。その開きかけた花弁が白く透きとおる。




木漏れ日を得意気にすかしてみせた。
白い気品が空気を清々しくする。
良い花のまわりには良い氣が漂う。
良き人のまわりも同様だろう。

手入れが行き届いた森だから
林床に陽が射し、ヤマシャクヤクたちが生きていける。

ヒトリシズカなのに集団でいる。
いや、この個体をひとつと数えるのか。


猫の目に似ていることから、ネコノメソウ。

クマガイソウの若葉。

スミレは真っ盛り。


山頂に見慣れぬチョウ。

午後の森、ブナを眺めながら尾根を行く。

春の山の紅白花合戦がいつまでも見られるよう。
次の世代に引き継がれるように。

未知の遺伝子資源もそのなかにある。
ひっそりと咲く小さな山野草は
人々に何かを伝えようとしているはずだから。

おまけ
帰りの車道沿いのフジ。紫も歌合戦に欠かせない。

四国はすばらしい。
山に遊べば森の氣が、
川に遊べば水の滴が、
海に遊べばミネラルの香りが。
田畑にはおいしい作物。
いつでも身近にあるのが四国の暮らし。
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