2013年05月06日

徳島県西部の山で紅白「花」合戦 シコクカッコソウとヤマシャクヤク、 そして春の山が萌える

好きな花を思い浮かべてみる。
まず、キキョウ(残念ながら野生種は見たことがない)。
そしてムラサキセンブリ
紫系統の花が好きなんだろうな。

剣山のキレンゲショウマ
霧の立ちこめる斜面に浮かび上がる
露に打たれた黄色の花には特別の思いがある。

そして、サクラソウの仲間に惹かれる。
あでやかな媚態で
人里離れた山奥で人知れず咲いている。
それが華やかであろうと地味であろうと
どの山野草もそこに生きていることには変わりはない。

あでやかな花がひっそりと咲いている。
こんなところ、誰も来ないだろうと思える場所で。
花は、誰かに見られるために咲いているのだと思う。

その花の名はシコクカッコソウ。
本州北部に分布するカッコソウの仲間。
もっと大きな分類ではサクラソウという属。

先週はモモイロイワバソウ(仮称)を見に行った。
今回はシコクカッコソウを見るため徳島県西部の山を訪れた。
生息地の情報を持っていないので、
五感を働かせつつ足で歩くしかない。
歩くときは、足元の小さな花さえ踏まないように。

春がやってきた。
のどかな天気は樹木も萌えて山全体が春をうたう。
ぼくもつられて歌をうたう。

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谷筋で見かけた。イチゲの仲間だと思うが
(アズマイチゲ?もしくはミヤマハコベ?)

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ヒメレンゲ。最初は苔が咲かせた花と思っていた。
幸福の黄色を小さなヒメレンゲの花たちが咲き伝える。

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春の七草のひとつ、ごぎょう(ハハコグサ)。

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自生すると推定した場所に向けて
踏み跡のない斜面を一歩一歩進む。
油断すると滑り落ちる。

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小学校の頃から好きなことは変わっていない。
(体型や体力も高校の頃と変わっていない)
川が好きで、地図を眺めてはまだ見ぬ川の表情に思いを馳せていた。
→ 四国の川と生きる

地図を見るのが好きで
(特に昔の地形が記録されたいにしえの地図はおもしろい)
小学校低学年の頃には、日本地図、世界地図のほとんどを覚えていた。
ひょんなご縁で、
「カシミール3D」の開発者であり
インターネット上で「山と自然の旅」を主宰され
人気の「山旅倶楽部」を主宰する方とも親しくなった。
(インターネット上でGPSを用いて立体的に描画されているルート図などはこれで作成したもの)
現在、この方は徳島県南部にお住まいされていて、
ときどき食事を兼ねて遊びに行っている。

その後、四国内を中心に
国土地理院の1/5万、1/2.5万地形図を時間をかけて集めていった。
(地形図によっては2度の改訂を経ているものもある)。
地図を眺めてはまだ見ぬ地形を想像しわくわくする。
コーヒーを飲みながらの昼下がり、地図を眺めると至福の時間。

フィールドでの読図能力も磨いた。
地図に載っていない地形さえも
等高線の表情から推察できる。
沢の読み方、現在地の同定の仕方、
道迷いのパターン化と回避…。
地図とコンパスを使う限り、
初めての山でも道迷いはない。
(やっかいなのは林道が延伸しているなど、地図に掲載のない人工物があるとき)

地図を使うのが楽しいので
GPSやスマートフォンは使わない。
電源に依存しないのが安心。

だから、きょうも不安なく
自生地と推察した山域に向けて
未知のルートを進んでいる。
ただし、遭遇するかどうかは運しだい。
大抵のところ、生息地は点でしかないから
十数メートル離れるとわからない。
広い山を運動場に例えると、
校庭に落とした一円玉を探すがごとく。

(しばらく時間が経過)

ある尾根筋を歩いているとき
ちらりと紅色が見えた気がした。
近づいてみると、シコクカッコソウが咲いていた。
(たまたま運が味方しただけで、空振りすることも少なくない)

しばらくはシコクカッコソウの楽園を。
斜面に株が点在する光景に固唾を呑む。

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花の色は株ごとに違う。

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生育する場所によって背丈や葉の付き方も違う。

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まとまりの良いかたち。楚々として可愛い。

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空気がぱりっと震えるようなあでやかさ。

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花が立体的に重なって視線が誘導される。

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大きな葉を拡げる。その上に花が乱舞する。

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花を後ろから見た。白い毛に覆われている。

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イワザクラと比べると花の数が多い。力強く咲き誇る。
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日が当たらなくても自ら光を放つよう。
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興福寺の阿修羅像のように周囲に顔を向ける。

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黒を背景に浮かび上がる深紅。

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葉のかたちが印象的。

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ここにいるから輝く。
それは微妙な生態系の約束。
何人たりともそれを妨げることはできない。

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シコクカッコソウとヤマシャクヤクが並んでいる。
紅組の先行で始まったが、これからは白組の出番。
ヤマシャクヤク。その開きかけた花弁が白く透きとおる。

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木漏れ日を得意気にすかしてみせた。
白い気品が空気を清々しくする。
良い花のまわりには良い氣が漂う。
良き人のまわりも同様だろう。

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手入れが行き届いた森だから
林床に陽が射し、ヤマシャクヤクたちが生きていける。

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ヒトリシズカなのに集団でいる。
いや、この個体をひとつと数えるのか。

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猫の目に似ていることから、ネコノメソウ。

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クマガイソウの若葉。

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スミレは真っ盛り。
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山頂に見慣れぬチョウ。
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午後の森、ブナを眺めながら尾根を行く。
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春の山の紅白花合戦がいつまでも見られるよう。
次の世代に引き継がれるように。
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未知の遺伝子資源もそのなかにある。
ひっそりと咲く小さな山野草は
人々に何かを伝えようとしているはずだから。

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おまけ

帰りの車道沿いのフジ。紫も歌合戦に欠かせない。
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四国はすばらしい。
山に遊べば森の氣が、
川に遊べば水の滴が、
海に遊べばミネラルの香りが。
田畑にはおいしい作物。
いつでも身近にあるのが四国の暮らし。




posted by 平井 吉信 at 22:17| Comment(0) | 山、川、海、山野草
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