2013年04月20日

出羽島 アートが島の非日常が人々を結びつける

出羽島(てばじま)は、
牟岐港の沖合4kmにある周囲4kmの小島。
連絡船が一日6往復している。

この島を訪れたのは20代前半の頃。
牟岐から連絡船で約二十分。
あちこちにヤシが点在し、
四国本土と比べて風が肌に心地よい。
野口雨情の詞に
「向かう出羽島なつかしところ 船に蝶々もついて行く」
とうたわれた島は、亜熱帯性の植物が育つ別天地だった。

ひとりで何度も行ったけれど、
そのうち人に伝えたくなり、
「ツアー」と称して同世代の仲間を集め、
何度かこの島を訪問したこともある。


船が牟岐港を離れると波浪が高くなる。
けれど、すぐに島影に入り、
石を積みあげた防波堤
(石積マニアには垂涎の構造物!)
が見えてくると島の港内だ。

港の入口には青い家がある。
遠洋漁業に出た夫が年に数回戻るとき、
遠くからでも見えるようにと願いを込めた、
「幸せの黄色いハンカチ」のようなエピソード。

港には、テングサを天日で干しているおばさんがいる。
あいさつをして通り過ぎると、
島で一軒の食料品店「堤商店」がある。

ヤシの小径を過ぎて左へ曲がると、別の集落が開ける。
かつては千人が暮らした島も、いまでは百人。
それでも「ミセ造り」という独特の家のつくりが印象的。
左側の集落の裏手には湿地があり、
右側の集落は低い堤防を隔てて海がある。

この島にはクルマがない。
モノを運ぶのは、「ネコグルマ」と呼ばれる手押し車。
なぜか、ネコが多いが、
その猫たちも交通事故に遭う心配がない。
その分、道が狭く家々の軒が近い。

二十代半ば、
南太平洋ポリネシアの島々を
一ヶ月かけてまわったことがあった。
ランギロア島で夜半遅くのこと。
近所の家から赤ちゃんの夜泣きが聞こえてきた。
それをあやす母親のおだやかな声が
夜風に吹かれるヤシの葉音とともに夜の静寂に漂う。
「どこも同じなんだ」と思った。
ぼくは日本がなつかしくなって外へ出た。
ヤシの上には日本から見えない南十字と南の銀河が横たわっていた。

出羽島では夕食のあと、
まだ薄明が残る軒先にミセを出して涼む。
夏の頃なら蚊取り線香とスイカだろうか。
すると、お隣さんもやってきてとりとめのない話をする。
漁の成果、次の出役(協同作業)について、
新しく島の小学校に赴任してきた先生のこと、
遠くへ行った家族の話などが紡がれたかもしれない。
(実際は作業台として使うことが多いのかもしれないが)
ミセ造りは、家の外にあって室内の延長にある家の内であり、
家の内でありながら集落の内でもある。

集落から石段を上がって港が見える丘に立てば、
そこは小学校(現在は休校)。
校庭のブランコに乗って夕陽を眺めながら
長く伸びた自分の影を振り返るとき、時間が止まる。

この光景は想像で書いたもの。
島に宿泊施設がないため遅い時間まで滞在できなかった。
ところが、いまは民宿が2件ある。
「民宿田中」(素泊まり)と
「出羽島ゲストハウス シャンティシャンティ」である。
朝夕の薄明にたたずむ「島時間」を感じるのなら
宿泊するのがおもしろい。

旅は風土。外からやって来る「風」と、
根っこを持って生きている「土」が交わることで、
心の隙間に電気が走る。
その電気が「ひらめき」や「気づき」、
「癒し」をもたらすのだ。

波に揺られることが非日常。
四国本土からわずか20分に出現する亜熱帯の気候と
そこに順応して生きる人たちに触れることも非日常。
そして、アートも非日常。
非日常から日常を振り返る機会がこのアート展。
だから、空き民家を使ってアートの展示を行った。
(実はこのアート展には年度末の時期でもあり参加できなかった)。

この企画を勇気を持って進めたのは、
牟岐町商工会の経営指導員湊川亨さん。
予算の関係で2月、3月の寒い時季の開催となったが、
当初見込みの5千人をはるかに超えて1万人が来島した。

徳島新聞の記事にもあったが、
島の人々の気持ちが少しずつ動いていったと。
町内を挙げての受け容れ態勢や
経済効果がなかったとの意見もあるが、
それは地域活性化を手がけたことのない机上の意見。

もし、多くの利害関係者を初手から巻き込もうとしていたなら
もし、経済効果ありきのイベントだったら
合意形成は困難だっただろうし、
「商売の匂い」を感じて観客は行かなかっただろう。

まずは、来てもらうこと。
そして、そのことが目に見えない効果「ココロの活性化」を生み出す。
モノの流れ(経済)はその副産物。
地元の「気持ち」なくして、活性化はあり得ない。
それには事実を身を持って示すこと。
そして段階を追って取り組んでいけば良い。
それが湊川さんのねらいではと推察。

アート展が終了した4月半ば、久しぶりに島を訪れた。

集落から石段を上がって港が見える丘は、
小学校の校庭。
ブランコに乗って夕陽を眺めながら
長く伸びた自分の影を振り返るとき、時間が止まる。
― はずだった。

ところが、あのブランコがない。
海を眺められる丘のうえから
ブランコで揺られるひととき。
地面と海を交互に眺めて
身体を預けるだけ。
子どもになれる。

波のゆりかご(連絡船)に乗って、
風のゆりかご(ブランコ)へ。
海のゆりかご(サーフィン)もできるし、
ときのゆりかご(シラタマモ)に会える。

牟岐町の財政は厳しいだろうが、
ぜひ、風のゆりかご(ブランコ)を
復刻できないものだろうか。

さて、シラタマモ
世界で四ヶ所しか生息していない貴重な生物
「シラタマモ」が生息するのは島の東にある大池である。
沢からしみだした淡水と、
ごろた石の間から浸透する海水が独特の塩分濃度を保持し、
それが植物とも動物ともわからない
生きた化石と呼ばれる太古の生物の生息する環境を作り出す。
地球上で残り3箇所の生息地は、
リビア、ニューカレドニア、モーリシャス。
その希少性とこの島の独特の生態系がうかがえる。

ある年の春のこと。
いつものように島を回る遊歩道で灯台から港へと下るコースで、
開花した桜とヤシが狭い場所で調和しているのが見えた。
日本の原風景のような桜と、
亜熱帯の植物が溶け込む光景は一生忘れることはない。

この島の日常は多くの人の非日常。
時間の流れが違う。
ほんとうに出羽島に行きたい人を集めて、
室戸阿南海岸の白眉といえる
南阿波サンライン経由で
久しぶりにツアーを募ってみようかなどとと考える。
(ツアーは無料だが、オウンリスクで)

→ 出羽島散策絵地図(牟岐町提供)
小部博正さんによる楽しいイラスト地図。島の暮らしの説明のディティールがマニアック。ダウンロードはこちらで。http://www.mugigogo.jp/tebajima.html
わかりにくい人はPDFの直接リンク


追記
【島の特産品について】

◆「天草麺」「イカすみ麺」
島の特産品テングサ、牟岐町の特産「アオリイカ」を使った麺。
のど越しがなめらかで、ほんのりと甘みを含む。
ご当地の特産品を練り込んだ安易な企画ではなく
「おいしさ」の本質を求めたもの。
食べていただけるとわかるはず。
観光物産館で購入できる。
(製造は本田麺、監修は元祖手延べつけ麺のChannel R55)。

牟岐町観光物産館「千年サンゴの里」
http://www.mugigogo.jp/
営業時間:10時〜18時
(→ 平成25年5月1日から営業時間が8時30分〜18時に変更)
定休日:毎週火曜日
tel:0884-72-0058
牟岐町大字中村字本村121-6

観光のみならず、さまざまな地域情報の発信・交流拠点。
牟岐町内の特産品といえば、
サーフボード、いかすみ黒焼きそば、いかカツバーガー、干物なども。
牟岐駅に近い国道55号線沿いにあって、
牟岐港へ行くときには前を通るので立ち寄って欲しい。

島の天草を用いた麺(観光物産館の店内にて)
DSCF1579a.jpg

牟岐町内で町民がこぞって買い求める鰹節(観光物産館の店内にて)
DSCF1573a.jpg

◆「南阿波よくばり体験
http://www.minamiawa.info/top/top.html
南阿波・海部郡は体験観光のメッカ、修学旅行の思い出づくりに。
浜節句という風習もなつかしい。

◆南阿波アウトドア道場
http://shikokunomigishita.jp/docs/2011041200081/
(ガイドブックがダウンロードできる)
照葉樹の森、ダムのない清流、山のミネラルがもたらす豊穣の海で
できること、たくさんある。
この良さに気付いて移住したのは
野田知佑さんをはじめとする
アウトドアの達人たち。

◆出羽島帆布工房 佐々木淳生さん
漁師が使う丈夫な帆布を用いたバッグ類。
生活の道具でありながら、手作りの良さ。
土地に根ざしてモノづくりをするということ。
手渡ししたいとの希望から
(ニッチ、ロングテールの地域産品はインターネット向きだが)
インターネットでは販売しない見識に拍手。

小さな出羽島だけでも見るものが多すぎて一日では…。
南阿波(徳島県海部郡)、
室戸まで含めた「四国の右下」)は一週間でも足りない。
地元のぼくが数十年通って飽きることがないのだから。


この日見た出羽島(2013.4.20)

牟岐港を出発する。天気は曇り。雨も予報されている。
DSCF0723.jpg

青い家は無事を願う家族の証し
D7K_6262_NX2.jpg

港を降りると神社と集落がある
DSCF0732.jpg

アート展2012では、ここで島のおばあちゃんたちが
島そうめんをふるまった
DSCF0733.jpg

どこに抜けるかわからない路地がまちなみの魅力
DSCF0731.jpg

ヤシの繁る港沿いの小径
DSCF0735.jpg

島の共同井戸と唯一の運搬手段であるネコグルマ
DSCF0741.jpg

人気のゲストハウス。犬はおとなしく人見知りする
DSCF0753c.jpg

4月中旬に島に咲き乱れる紫の野草。タツナミソウの一種か。
DSCF0758-1.jpg

出羽島らしい通りとミセ造り
DSCF0767.jpg

集落の終わる頃、石段が始まり、島を一周する遊歩道となる。
出羽島では集落は港の近く(四国本土側)のみにある。
島のほとんどは手つかずの自然だ。
DSCF0771.jpg

樹木のトンネルが涼しい
DSCF0786.jpg

D7K_6075_NX2.jpg

蛇の枕と呼ばれる不思議な場所
DSCF0791.jpg

ここからは絶景が。シラタマモの生息する大池のある浜が見える
DSCF0792-1.jpg

大池に降りるとごろた石の浜。そして海を好む樹木たち
DSCF0831.jpg

シラタマモの看板と大池が見えてきた
DSCF0833.jpg

大池には沢から湧き出した水が流れ込む
DSCF0847.jpg

大池のかたわらで新緑が萌えている 
D7K_6088_NX2_01.jpg

生きた化石 シラタマモ

DSCF0870-1c.jpg

再び遊歩道へ上がる。樹幹から大池と太平洋が見え隠れする。水と緑のあやなす妙
DSCF0881-1.jpg

葉緑体を持たないギンリョウソウは抜けるような白さ。
その出で立ちから別名ユウレイタケともいわれる。
原生林に近い森が残されている出羽島ならでは。
D7K_6071_NX2.jpg

色あざやかな山野草。そのほか島は亜熱帯の植生で覆われている。
D7K_6160a_NX2.jpg

かつて日本の林で見られたあでやかなキンランもいまや絶滅危惧種。樹木共生菌を通じて特定の樹木から栄養を吸収するため、この環境を離れては生きていけない
D7K_6178-1.jpg

標高76メートルの灯台で休憩して眺めを楽しむ。ここが出羽島でもっとも高いところ
DSCF0902-1.jpg

かつて田んぼがあったと記憶している。ヤシは残っている。ここで桜を見たはずだが。
DSCF0924.jpg

樹木のトンネルを下れば小学校跡地方面へ
DSCF0914-1.jpg

小学校から港へ降りる坂道
DSCF0937.jpg

青い鳥と書かれたネコグルマ。幸せを運んでいくのだ
DSCF0951.jpg

石積みの堤防ははずせない。いまも使われている生きた「土木資産」
(背後は四国本土の牟岐港)
DSCF0931-1.jpg

出羽島では樹木も語り合う。
「楽園」はそれを見ようとする心のなかにある。
tebajima.jpg
posted by 平井 吉信 at 00:00| Comment(0) | 山、川、海、山野草
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: