2013年03月28日

夜桜 ぼんぼり 鬼の宴会 


このところ晴れたり曇ったりで天気が安定しない。
三寒四温である。
けれども、少しずつ暖かくなっている。

ここは那賀川下流ののどかな集落である。
土手に近い田んぼでふたりの兄妹がれんげ草を摘んでいる。
あぜみちには、たんぽぽ、オオイヌノフグリ、ぺんぺん草が咲いていた。

春の野草にはそれぞれあそび方がある。
だれでも知っているように、
ぺんぺん草は実を引っぱって回すとジャラジャラ音がする。

れんげ畑でふたり遊んでいると、
いつのまにか招き猫みたいな白い猫が寄ってきた。
妹は両手をせいいっぱい前に差し出して、
「おいでおいで」をしながらよたよたついていくけれど、
猫の方はまるで相手にしない。
というより、されるままにじっとしている。

裏の妙見山を振り返ると、黒くすすけた木の家が見えた。
母屋に続く垣根の坂道をかけのぼる。
家の裏には那賀川の水を引いた深い用水があり、その流れは強い。
お兄ちゃんはこわごわのぞきこむけれど、
妹はゴーという音が聞こえると逃げていってしまう。

笑うことと楽しいことの間に少しの距離もなく、
無邪気な仕草をするたびに、ふたりの兄妹は大きくなっていく。
疑うことを知らず、
好奇心にあふれて問いかけるまなざしがひたむきであればあるほど、
日一日と賢くなっていっただろう
この兄妹に会えたらどんなにかうれしいことだろう。

私は過去に戻ってレンズを向ける。
するとレンズに気づいた子供は、きょとんと顔を上げる。
「なんだろう」
口元をきりっと結んでふしぎそうな瞳は微動だにしない。

妙見山へ遊山に行くのもこの頃だ。
男の子の絵がたどたどしく描かれた空色の重箱がお兄ちゃんのお気に入り。
三段重ねの重箱に寒天やたまご焼きを詰めて持っていく。
昼間登った時、
お兄ちゃんは那賀川の水面がきらきら反射するのを食い入るように見ていた。

夜になって、頂上付近に桃色のぼんぼりが明滅するのが里から見えた。
お兄ちゃんは勇気をもってひとりで登ってみた。
手拍子のカチッとした響きが山中にこだまし、
そこへ唄の節とも思われないような不気味な合唱がけだるそうに聞こえてきた。

D7K_5094-2.jpg

こわかった。
あれは鬼の宴会だと思った。
声のする方をみないように、いちもくさんに里へと駆け降りた。

子どもの頃、不思議な体験に遭遇した。
あの頃は魑魅魍魎が至るところにいた。
狸に化かされたこともあった。

人間が情報として称して簡単にインターネットで手に入る時代、
(感性が飛翔する暇を与えてくれないスマートフォンが暮らしを壊していく気がする)。

写真は、徳島市南部の醍醐寺(3月28日撮影)。
賑わっているように見えて誰もいない不思議さ(ほんとうに誰もいない)。
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posted by 平井 吉信 at 00:00| Comment(0) | 徳島
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