2013年02月08日

物部いざなぎ流 神々に寄り添う村


新日本風土記 高知 神々と棲む村(2013年2月8日 NHK BSプレミアム放映)

高知県の奥物部地区は過疎化の進む高知県のなかでも
平地がほとんどない典型的な山村である。

点在する集落、そして家々の至るところに神が宿り、
御幣と呼ばれる紙でできた依り代を通じて
神と通じ合う。
御幣のかたちは神ごとに異なる。
神々との交信は祭文(さいもん)を通じて行う。

祭神は天照大神もあれば、不動明王もある。
玄関の神、火の神、水神など家の神、
東北の寒村のような神々もある。
古神道、仏教、陰陽道などが混じり合っているような印象を受ける。

西熊渓谷から三嶺へ
高知大学のワンゲル部に在籍していた友人が
登山に誘ってくれたことがあった。
香美市は物部川流域の町村が合併して誕生した市だが、
その上流部の旧物部村を奥物部という。
物部川支流の上韮生(かみにろう)川の上流は西熊渓谷である。
その源流域のフスベヨリ谷を詰めていく。
このとき神々しいまでのモルゲントロートに遭遇した。

そして、辿り着いた山頂は、三嶺(さんれい)だった。
西熊山、天狗塚までの尾根を辿り、
(四国のゴールデンルートと呼ばれるすばらしい尾根)
再び、南斜面を下る三角形を辿った。
8時間ぐらいかかったと思う。
それでも疲れることを知らず、嬉嬉として駆け抜けた。
sawa-2.jpg

この山行はその後の人生に大きな影響を与えた。
どこまで行っても深い山があること、
そしてそこにはこの世ならぬ気配が漂うこと、
人を寄せ付けぬ厳しさがあるけれど、
掟を守る限り、人を抱くおおきさも感じた。

その後、屋久島の森を尋ねたり、
南アルプスを縦走したりしたけれど、
物部で感じた森の深さ、畏れの感情に及ぶものはなかった。

神を畏れ、敬い、そして身近に感じ、喜びを分かち合う。
あのとき感じた山の印象と
この番組で太夫や村人が自然(神)と向かいあう姿が重なった。
四国は深い。
(四国の真髄は観光地でないところを自分で発見していくこと)
このとき、詩を書いた。

見えないもの
見えるもの
人には見えぬもの
鳥には見えるもの
精霊は今もここに
そこは深き泉水
山懐に抱かれて
静寂夢魂 生命無痕
苔むし 屍さらす処
流れて大岩
──そしてカミ宿る樹
魑魅魍魎は汝自身かと問いかける
風のざわめきやむことをしらず

【追記その1】 石立山
高知・徳島県境にある石立山では遭難事故が多発している。
もろい石灰岩に覆われて高度差が大きく、
やせ尾根があるため滑落の怖れが高い。
ここにしかない稀少な高山植物もあり、植生の宝庫でもある。
ふもとには「四つ足峠」がある。

【追記その2】「川歌
高知県旧野市町出身の青柳裕介のコミック「川歌」をご存知だろうか。
土佐久礼のまちを舞台にした「土佐の一本釣り」が有名だが、
地元を舞台に人と風土が香る良い作品を残している。
「川歌」は、物部川支流の舞川を遡った集落が舞台。
そこでは、赴任してきた若い教師が
シバテン(河童)やモノノケたちに遭遇しながら
子どもたちとともに成長する物語。

【追記その3】 ガロとゆず
隣の徳島県木頭村(現那賀町木頭)では
河童を「ガロ」と呼ぶ。
高知・徳島県境の馬路、物部、木頭にかけては
日本有数の柚子の生産地となっている。
かつて、木頭村の会社の監査役をしていたことがあった。
流域の人たちの話によると、
ダムがなかったかつての時代には
50センチを越えるカワマス(おそらくサツキマス)が釣れたという。
湯桶谷など那賀川の支流に入ると渓谷は昼なお暗い樹木に覆われ
ひとりで入山するのは気味が悪かったという。

【追起その4】「猿猴 川に死す―つり随筆 (平凡社ライブラリー)
高知県出身の森下雨村の釣り文学。
物部川で名人と呼ばれた老人が
子どもを助けるべく物部川の堰で水死する事故を描いた表題作。
→ 「空と海」で紹介
→ 仁淀川とともに紹介

【追記その5】 四国の秘湯
手を伸ばせば届きそうな渓流を眺めるヒノキ風呂にひとり。
「湯加減、どうですか?」
当時、若夫婦が湯守りをしていた。
山懐に抱かれた四国の秘湯。こんなにすばらしい湯はどこにもない。
山道に慣れぬ人が運転してたどりつくのは容易ではないけれど。
onsen-1.jpg

【追記その6】 山田堰跡
物部川下流にある江戸時代の野中兼山が築造した取水堰の痕跡。
付近の河川敷は公園になっている。
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【追記その7】物部川と那賀川
四つ足峠を分水嶺に、西へと流れて土佐湾に注ぐのが物部川(71km)。
東に流れて紀伊水道に注ぐのが那賀川(124km)。
どちらの川も共通しているのは上流部に深い渓谷があり、
急流となっていること。
そして、高度経済成長期にダムの建設が行われたこと。
もし、ダムがなければ、
どちらかの川も日本有数の急流渓谷を持つ川として
全国から観光客を集めていたかもしれない。
物部川流域の暮らしの息吹はいまも感じられる。

【最後の追記】新日本風土記のテーマ曲「あはがり」について
新日本風土記のテーマをうたっているのは
奄美出身の唄者(うたしゃ)の朝崎郁恵
数年前に絹やの山田社長のお勧めでCDを購入した。
タイトルは「うたばうたゆん」。
その3曲目の「徳之島節」が
新日本風土記のテーマ「あはがり」と同一楽曲である。
(アレンジは違うが、雰囲気はほとんど同じである)
うたばうたゆん」ではピアノが寄り添いUAが競演している。

うたばうたゆん」を聴けば
遠い世界に連れ去られてしまうだろう。
縄文の時代から息づく島国のDNAが
はからずも共鳴するのを止められないから。

魂の歌とは絶叫や情念の炎が燃えるものではなく
揺らぐ音程とたゆたう抑揚(フレージング)から
(揺らそうとして揺れているのではない)
天に向かって立ちのぼる人柱のような声
おぼろげなようで、確かにそこにある。
その静かな凄み。
量子力学でいう揺らぎの確率に「存在」があると言いたげに。

YouTubeで視聴してみては?
http://www.youtube.com/watch?v=RPW3VAtTl6s

アマゾンで見る「うたばうたゆん」
posted by 平井 吉信 at 22:38| Comment(0) | 生きる
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