2011年09月19日

室戸ジオパーク 認定おめでとう

南四国の海岸線を弓なりにたどると、室戸岬に着く。
室戸岬は、陸が深海に張り出した場所にある。
そのため、太平洋の回遊魚が接近する。
沖合に鯨が出現し、波止でヒラマサが釣れることもある。

岬は、南を指した羅針盤のようである。
均整のとれた二等辺三角形のそびらで西北の風をやわらげ、
日の出を東半分で受ける。

室戸岬は弘法大師が開いた。
大師が洞穴内で虚空蔵求聞持法という
密教の修行中に明けの明星が飛び込んできて、
行が成就したと伝えられる。
この修行は、虚空蔵菩薩に帰依するという意味の
サンスクリット語(真言)を百万回唱えるもので、
広大無辺の智慧を授かるという。

岬へと南下する一本の国道の左手には遮るものない太平洋、
右手には山がすぐそばまで迫る。
岩礁のオブジェを快適にすり抜けていくこの道も、
時化になれば波をかぶる。

DSC_1928a.jpg

そんな道さえなかった千二百年の昔、
魑魅魍魎に悩まされながら険しい稜線を伝い、
ようやくたどり着いた。
そして金星が舞った。
室戸は、空と海をめざす路である。

DSC_1942a.jpg

台風が接近するあいにくの天気であったが、
室戸がユネスコの「世界ジオパーク」に認定された翌日(9月19日)に訪れてみた。
家を出た頃は陽が射していたが、
岬に近づくと雨模様となり、やがて嵐に変わった。
千数百年の昔、
空海も潮騒を遠く近く聞きながらしっかりと一歩ずつ踏みしめたに違いない。

室戸周辺は南海地震の度に土地が隆起している。
室戸スカイライン辺りから見下ろせば、
ぐいとこぶしを突きだした盛り上がりを見て
地球の力を感じることだろう(岡本太郎が見たら「爆発だ!」と)。

ジオパークは地形のみならず人々の暮らしや風土も含む。
室戸市全域が登録の対象であることから、
炭焼きや捕鯨の歴史なども評価されている。
細い路地、水切り瓦、石垣の塀が連なる吉良川のまちなみは
かつての備長炭の集散地として栄えた営みを残す。

マリンスポーツでは
ホエールウォッチングやイルカと戯れることもできる。

DSC_9341.jpg

観光では、星野リゾートのひとつ「ウトコ」がある。
岬の最果てで出会う
境目のない空と海に溶け込む白亜のホテルは
日常を忘れさせる空間である。
そこでは、海洋深層水を活用したスパと
ディープシーテラピーが提供されている。

DSC_9218.jpg

岬の東側にある陸棚斜面では
水深700〜1000メートルの深さから湧昇する
海洋深層水を汲み上げている。
その深層水から精製された塩を購入し、
普段使っているもの(海水を時間をかけて天日で濃縮したもの)と比べてみた。

DSC_9223.jpg

まず舌が感じたのは自然界の天然塩とは何かが違うということ。
口に入った瞬間は塩味がきつくない。
そして、しばらく経つと濁りのない
透明感のある塩味(細身)と旨味成分が取り囲む。
雑味を取り除いた引き算に旨味を付け足したよう。
はじめはまろやかで、ほどなく尖り、
後半はすっきりとした旨味が残る。

料理に使う塩は食材の旨味を引き出すことであるが、
どちらかといえば、塩の力がストレーに求められる
焼き魚や漬け物などの用途には向かないような気がする
(あくまで私が購入した製品に限っての感想)。
けれど、まちに住んでいる人
(ホワイトカラーなどの汗をかかない人たち)が
トマトに塩を振って食べるのならぴったりという感じ。
しばらくはこの海洋深層水からつくられた塩が
どんな料理で活かせるのか試行してみたい。

岬をまわると南東に湾口を向けた津呂港があり、
近くには北西に向いた室津港がある。
海が荒れたときにどちらか一方が使えることを意図したもの。
さらに行くと行当岬(ぎょうどみさき)がある。
この岬周辺もジオパークの見どころで、
マグマが冷えて固まった奇岩が随所に見られる。
やがて道の右側にカレーと紅茶の専門店「シットロト」の看板が見えてきた。

DSCF1921.jpg

DSCF1902.jpg

D7K_3613-1.jpg

DSCF19201.jpg

マスターの山下さんは登録の連絡が入る未明、
室戸市役所に待機して仲間たちと吉報を待ったという。
この日も室戸ジオパークのTシャツを着用されていた。
注文したのは認定に備えて開発された「室戸ジオカレー」。
シットロトのカレーは決して仕上げを急がない。
このジオカレーは室戸の悠久の大地を思いつつ、
海成段丘で採れる野菜をふんだんにあしらったものだろう。

海成段丘は海岸段丘ともいい、
海から隆起した台地では良質のサツマイモ、スイカ、ナスが採れるという。

東京方面から室戸をめざすとしたら
高知空港経由になるだろう。
高知城、日曜市、ひろめ市場などのまちなかに加えて
桂浜と坂本龍馬記念館がある。
安芸の野良時計やモネの庭マルモッタン、
馬路村まで足を伸ばしつつ室戸に入る。

京阪神からはクルマで徳島から南下するルートがほとんどだろう。
四国の東南部は全国有数の雨が多い地域で、
そこから流れ出す中小の川の美しさと
川と生きる人々の暮らしの営みが濃厚である。
川の河口がコンクリートで固められることなく
砂浜に注いでいる姿は地元にとっては当たり前の景色であるが、
都市部からやって来る人たちは初めて見る風景だろう。

陶芸家梅田純一さんは
旧宍喰の野根川沿いに住まわれている。
以前に梅田さん宅で採れたての鮎を七輪でごちそうになったことがあった。
まさに桃源郷のような暮らしである。
梅田さんは二十代の頃、歩いて日本全国を回られ、
究極の田舎暮らしができる地域は
室戸岬から半径40km圏内と思われたという。

それは、まさに、山、川、海のつながりが実感でき、
そこに人々の暮らしが密接に関わっているからにほかならない。

室戸ジオパークが本質的な地域の価値を思い起こさせ、
四国東南部の光となることを願っている。

D7K_3949-3a.jpg

posted by 平井 吉信 at 00:00| Comment(0) | 山、川、海、山野草
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: