日本を愛し日本に骨を埋めた外国人として、
ラフカディオ・ハーンとモラエスの名前は耳にすることが多い。
新田次郎・藤原正彦の「孤愁〈サウダーデ〉
発刊されたこともあって、
モラエスについて知りたくなった。
モラエスといえば、和田乃屋をはずすことはできない。
さらに、眉山山頂にはモラエス館があるという。
紀貫之の土佐日記にもうたわれた「眉山」は徳島市の象徴。
まちの中心部からロープウェイで一気に上がることもできれば、
ふもとにいくつもある登山道を散策するのも良し。
今回はクルマで眉山に上がることとした。
(かつては有料であったが、いまは無料である)。
先日、民間の旅行会社の調査(2012年)で、
函館、長崎、神戸などとともに
日本の夜景スポットトップ20に
徳島市の眉山が選ばれたそうな。
http://www.tripadvisor.jp/pages/NightviewPoints_2012.html
気温が低い午後、
眉山山頂にやってきた(数十年ぶり)。
空は高くパゴダの塔が迎えてくれる。
山頂からは北に鳴門大橋、淡路島、
吉野川をぐっと手元に引き寄せながら、
眼下には徳島市の市街地が見下ろせる。

今回の目的はモラエス館。
職員の方がわざわざ案内(説明)していただけるとのことで
入館料を払ってお願いした。
館内には、モラエス一家の写真、
マカオで知り合った亜珍と子どもたち、
領事館時代の神戸でのスナップ、
オヨネ、コハルをはじめ、徳島の人たちの写真が展示されている。
新田次郎が途中まで書いた「孤愁 サウダーデ」の
肉筆原稿などもあった。
達筆調ではなく記録を取るような筆致。
徳島でモラエスが過ごした書斎を模した部屋もある。
モラエスに関心がある人にとっては聖地のような資料館である。
さらに、ここにはすでに絶版となったモラエス関係の書籍や
ここでしか手に入らない書籍が販売されている。
「徳島の盆踊り」(講談社学術文庫)
オヨネの実家のあった徳島を終の棲家と定め、
遠い異国から故郷を偲びつつ、
オヨネの初盆がやってきた。
死者を迎え入れる人々、
暮らしに息づく日本人の死生観。
モラエスにどのような感銘をもたらしたのか。
「徳島の盆踊り」は異邦人の視点ではなく
モラエスが市井に溶け込んで綴ったもの。
上記のリンク先では1998年に発刊されてすでに絶版となっているが、
モラエスの訳者では第一人者といわれる
岡村多希子さんが、旧訳をさらに修正を行うなどして
2010年に出版したいわばオリジナル改訂版が
館内では500円で手に入る。
(書籍市場で流通していない)
出版は徳島県立文学書道館。
「ことのは文庫」と銘打って
徳島にゆかりの作家たちの作品を発刊している。
本を開くと、
コントラストのはっきりとした書体と印字が目に飛び込んでくる。
コンパクトな体裁ながら
文字も大きくてとても読みやすい。
まるでよくできた電子書籍を読んでいるような感じ。
電子書籍が場所を取らずコンテンツをすぐに取り出せることを
うらやましいと思いつつも肝心の画面になじめない。
目が疲れるというか無機質の質感が落ち着かないのだ。
モラエスが生きた明治から昭和にかけてと
いまを比べて
私たちは何を獲得し、何を失ったのだろう。
世間(社会)という枠は窮屈であったかもしれないけれど、
自由に羽ばたいているようにも見えるのはなぜだろう。
失ったもの―。
いや、それは消滅したように見えるだけで、
遺伝子として、
血として受けつがれているのではないだろうか。
ヴェンセスラウ・デ・モラエス(ウィキペディア)
【関連情報】
徳島大学図書館では「文豪モラエスの作品世界」と題して
2013年2月末まで展示会が開催されている。
眉山から、徳島駅、城山に至るみちは徳島の顔

県庁方面から沖洲マリンピアを臨む

水の都徳島。今年お亡くなりになった三木睦子さんを迎えて、1996年に「水郷水都全国会議・徳島大会」を開催した際に事務局を務めた。大会は成功裏に終えた。

モラエス館の館内には多数の関係者が世界中から集めた資料が展示されている。

伊賀町にあったモラエスの書斎を再現したもの。

モラエスが生きていたら、いまの日本をどう見つめるだろう。

黄昏迫る眉山山頂でモラエスは未来の日本を俯瞰している。

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