2012年12月16日

2つのサウダーデ〜久保田早紀「サウダーデ」と新田次郎・藤原正彦「狐愁 サウダーデ〉」〜

2012年11月下旬に、
新田次郎の絶筆となった作品を受けて
子息の藤原正彦さんが完成させた書籍、
孤愁〈サウダーデ〉」を購入した。

久保田早紀「サウダーデ」
アナログレコード(LP)の時代に購入したもの。

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「サウダーデ」で結ばれた
音楽と書籍について記してみる。
まずは久保田早紀から。

久保田早紀は、1979年の「異邦人」のヒットで知られる。
独創的な詩と旋律を別世界に連れ去る編曲の妙、
彼女が天を見上げたり、
ためいきを肩で付いたりするだけで
楚々とたゆたうヴォーカル。
音符が逃げ出す隙間さえない音楽の密度に
多くの人が逃げ出せなくなった。

それから1年後、
彼女はポルトガルに赴いてアルバム「サウダーデ」を録音した。
情念豊かなポルトガル音楽「ファド」を意識したといわれる。
(※リスボンで録音されたのはA面)。
サウダーデ


アルバムの冒頭に聞こえてくるのは
からみつくような二本(もしくはそれ以上)のポルトガルギター。
ギターの伴奏は雄弁にかき鳴らされるが、
声にからみついては浮き上がらせる。
この世界をつくっているのは確かにギター。
ざわついては心をかきたてる。

ヒット曲の呪縛を解き放たれた「異邦人」。
ポルトガル娘のためいきが聞こえてきそうな「アルファマの娘」。
路地から路地へ声かけて歩く
お人好しの笑顔には深い皺があると「トマト売りの歌」。
沸き立つアルペジオが見事に決まる「18の祭り」。
(18になった娘が束ねた髪をほどいて踊る。そのスカーフが落ちたのが好きな男の前なんて)。
移ろう水、見つめる心が揺らいで、ひとり佇む。
切なさの頂点に紡がれた「4月25日橋」。
風景を切り取り、登場人物に生命を与え、
ひとつの小宇宙をつくる。
(なんて豊かなファンタジーなんだろう)

久保田早紀がこのアルバムをつくったのは22歳。
等身大の彼女がいまもスピーカーから流れ出すと、
通り過ぎたいくつかの情景、場面が回り始める。
いまでも心をこれほどかき乱されることなんて。

涼しげなヴォーカルは
猫の目のように表情を変えていく。
青春の情熱を抑えていても
転調の瞬間、白い微笑みがこぼれていく。
(あのモーツァルトのように)

確か彼女は天文に興味があったはず。
当時のぼくも天文学者になりたかった。

これだけの作品がつくれたら
アーティスト冥利に尽きるだろう。
持っているレコードとCDから
感性がきらめくベストテンを選ぶとしたら
このアルバムを入れておく。
(ただし、感性の切れ味を堪能するのは疲れることも。そんなときに「木綿のハンカチーフ」を聴くと無条件でなごんでしまう)

2012年冬、あれから30年を経てまだ手に入るなんて。
アマゾンでレビューを綴る人たちも同じ思いのようだ。



孤愁〈サウダーデ〉については後日。
タグ:音楽 天文
posted by 平井 吉信 at 02:12| Comment(0) | 音楽
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