26万都市のどこからでも見える。
徳島市内を散策するのなら、
阿波おどり会館から寺町の方向へ歩き出してみたい。
寺が散在する界隈の山裾には湧き水「錦竜水」がある。
さらに行くと大滝山と呼ばれる一帯に出る。
大滝山とは眉山の一角にあって
かつては花見や天神祭など
お城下の行楽が行われた場所。
その大滝山の名物が滝の焼き餅である。

和田乃屋本店は、大滝山へ上がる石段の脇にある。
山から落ちる滝をそのまま中庭に取り込んだ、
甘味処であり、和風のカフェ。
庶民的で気取らないお人柄の主人、奥様、スタッフが迎えてくれる。
その昔、ここの2階では皇室関係者が利用した。
夏は滝を眺めながら涼感満点の甘味処である。
さだまさしをはじめ、訪れる著名人も少なくない。
ここは見合いにも使われた。
実は、うちの父母もここの2階の和室で見合いをしたそうな。
(それがうまくいったせいで、こうしてブログを書いているのだけれど)

いまぐらいの季節には、
徳島を終の棲家としたポルトガルの文人「モラエス」が愛した
黄花亜麻(きばなあま)が開花する。
こんな寒い冬に嬉嬉と咲く。
※ 北部インドから中国が原産とされる。モラエスがわざわざ徳島に取り寄せて植えたと伝えられる。和田乃屋の庭に咲くが、大滝山の石段からも見ることができる。



新田次郎はモラエスを著そうとしたが、道半ばでペンを置いた。
その子息は「国家の品格」の著者として知られる藤原正彦さんである。
藤原さんは父の残した資料に加えて徳島の協力者からの提供資料を受け、
さらにご自身の足で十数回徳島の地を訪れた。
そして、2012年の冬、
父の未完の作品は息子の補筆で完成した。
父の思いは数十年ぶりに遂げられることになる。
その著書は、孤愁〈サウダーデ〉新田次郎、藤原正彦。
この時代の日本人(庶民)の持っていた品格、
美意識の高さはいかほどだろう。
ていねいなくらしを
たゆまず積みあげていく日々に
ひそかに喜びを見出していたのではないか。
そして、その感性は
21世紀人がもっとも必要としていることではないのか。

モラエスは、焼き餅も愛したようだ。
小説の文中から察すると
当時の店名こそ違うが、
描かれた情景からは和田乃屋本店ではないか。
ここで、後にモラエスの伴侶となるオヨネさんも働いていた。
眉山山頂には、モラエス館があり、
モラエスの遺品を収録し、書斎を再現している。
滝の焼き餅は、
米粉を薄く伸ばしてさくっと焼き上げたもの。
素朴でやさしい菓子であり、
奥様がていねいに煎れてくれる茶と
合わせていただくと魂のごちそうとなる。
滝の焼き餅

手作りでひとつひとつつくられる。

抹茶や緑茶とのセットでいただく

手水にたゆたう紅葉

1階からも眼前に滝のある中庭が見える

ぜんざいもおいしい

手入れがあってこその黄花亜麻

滝と黄花亜麻

夜のとばりが降りる頃、千と千尋の神隠しが始まる

さらに散策を続ける。
和田乃屋
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