2012年11月11日

月ケ谷温泉の薬草料理 えっ、これが薬草? まるで山のキャビア

◆月ケ谷温泉の薬草料理が気になる

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ぼくはグルメではない。
心を込めてていねいにつくられた食べ物は愛おしい。
それだけで十分と思うから。
もうひとつは、巷でおいしいといわれる飲食店に行っても
たいていは大味すぎて好みに合わない。

例えば、カレーは
野菜やトマトをとろけるまで煮込んだ
自作が一番おいしい。
一口すするごとに、身体に吸い込まれていき
心と細胞がほんのりとあったかくなる。
これは当然の話で、自分が描いた味に仕上げるし、
ていねいにつくるから。
(このカレーは市販のルーを使わない。作り方についてはいずれ…)
プロは時間とコストとの闘いなので、
家庭料理が業務調理よりおいしいのは、
ある意味では当然なのだけど。

そんなぼくが味わってみたい料理がある。
それは、上勝町の月ケ谷温泉の薬草料理。

◆なぜ、月ケ谷温泉で薬草料理を手がけるようになったのか

月ケ谷温泉では地元の伝統的な料理に力を入れようと
料理長の関口安隆さんを中心にここ数年研究を重ねてきた。
さらに薬草研究の専門家、村上光太郎さんの助言で
薬草にも着目した。

薬草は苦い。内臓に良い成分は苦みを持つからだ。
飽食グルメの時代になぜ薬草なのか―。

こうなると、直接お会いして
薬草にかける思いに触れたくなる。
月ケ谷温泉を訪問し、関口料理長にお会いしてお話をうかがった。
(ご多忙のところ、お時間をいただきましてありがとうございます)

まずは、上勝町内の地層についての話から始まった。
(ご実家は月ケ谷温泉の近くの山中におありになるのだとか)

上勝には「チャート」と呼ばれる堆積岩の地質があります。
 そこは、海底が隆起して盛り上がった地形で
 海の生物の化石が堆積した地層です。
 百間嶽から柴小屋山の山域がそうです。
 チャートの岩肌は赤っぽく、岩石は火打ち石にもなります。
 火の出るところ(かまど)に火打ちをして
 お祓いをすることもあります


◆生物の体内に残る海の記憶
 
チャートは、二酸化ケイ素を多く含み農業に適さない土壌である。
上勝でもチャートの地質では畑が拡がっていない。
けれど、チャートは微量ミネラルのマンガンと鉄を多く含む。
そんな山のミネラルを取り込んだ薬草を使うのだ。
(微量ミネラルがカギかもしれない)

進化の歴史をひもといてみよう。
生物は海から陸に上がった(進化した)。
だから、その名残を体内にとどめる。
血液は海の成分そのものである。
海はミネラルが豊富で生物が生きていくうえで好都合。
それに比べると、川はミネラルが少ない。
生物が海から(競争相手の少ない)川へ進出し、
やがて新天地(陸)をめざすためには、ミネラルの欠乏が問題となった。
そこでミネラルの貯蔵庫を備えた。
ミネラルが多いときには貯え、
少ないときには貯えたミネラルを使う貯蔵庫。
それが骨である。
ミネラルは微量であっても
身体の機能を整える大切な働きをしているのだ。

◆逆転の発想、そのまま食べてもおいしい薬草料理を開発

エビスグサという薬草がある。
その種子はケツメイシとも呼ぶ漢方の生薬で
古くから煎じて茶として飲用されてきた。

その効用は、胃を健やかにする、
炎症をやわらげるというもの。
強壮や利尿作用があり、
胃、腎臓、肝臓の不調はもとより、
視力の回復、動脈硬化や高血圧などにも効果があるとされる。

ケツメイシを薬と思うから
わざわざ煎じて飲もうとするけれど、
やはり苦みやえぐみがある。
さりとて種のまま食べようとすれば、堅くて歯が立たない。
効き目が顕れるためにはある程度の量が必要となる。

【収穫したケツメイシ(エビスグサの種子)】
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ところが関口料理長は、
種子を炒って皮を取り除き、
さらに煮詰めて薬用成分を濃縮させ
その種子をもろみで味を整えた。

これが絶品。
ほのかな香ばしさが素材を引き立てる。
コーヒーやコカコーラを初めて接したときに
覚えたあの感覚にも似ている。
陸のキャビアか?と表現する人もいて
新聞等でも取り上げられ話題になった。

【おいしいとしか言いようがないケツメイシを使った料理。茶色の粒はくせになる】
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生薬は煎じて飲むのと、
粉末などにして体内に取り込むのでは
効果に5倍程度の差があるという。

関口料理長が開発したこの調理法では、
おいしく食べられる5グラムで
20グラムを煎じて飲む苦い茶と同じ。
少量で薬効が期待できる。

◆意識せずに薬草を食べる

厨房で仕込み中の「イノコヅチ豆腐」について
こう説明された。

イノコヅチといってもぴんと来ないかもしれませんが、
 あの嫌われものの「ひっつき虫」です。
 薬効としては鎮痛作用があり、
 関節の痛みなどにも効く成分が入っています。
 ただし薬草の常としておいしくありません。
 また、棘があるので咽にひっかかると取れません。
 ところが、フライパンで煎ると棘が落ちます。
 それを胡麻豆腐ふうに寄せました。
 甘みがほのかに感じられます


先入観を持たず口に入れてみる。
なめらかな食感とコクのある風味が舌の上でとろける。

関口料理長のご自宅では
イノコヅチを市販のふりかけに混ぜて使っているとのこと。
こうすれば、知らず知らず薬草を食べることができる。

薬草といえば、徳川家康を思い出す。
この天下人は、
他の戦国大名にはない長期的な戦略を持ち、
実践していた。

それは、粗食で運動を怠らず
薬草を取り入れたこと。
家康は独自に生薬の調合まで行った。
その結果、75歳という当時としては破格の長寿となったことが
徳川長期政権の礎となった。

◆薬草を自家栽培するのはなぜ?

さらに料理長は続ける。

 月ケ谷温泉では、安定した供給のために
 自社で栽培を始めました。
 現在栽培しているのは約90種です。
(名前を聞いたが、上勝の野山で見かける一般的なもので特殊な山野草ではない)

たまたま手入れに行くということで
栽培地を見学させてもらった。 
葉っぱビジネス「いろどり」の発祥地、傍示の集落へと向かう。

山の中腹の盆地のような場所に畑があった。
そこでは多種多様な薬草が栽培されている。
それぞれの薬草に適した生育環境で栽培するため
(湿ったところが好きなのもあれば、痩せた土地が好きなのもあるなど)
栽培地はここだけでなく3箇所にあるとのこと。
その手入れを社員が毎日欠かさず行っているという。
ここまで薬草に力を入れる宿泊施設がほかにあるだろうか?

ここで、ひとつ疑問が浮かぶ。
もし、月ケ谷温泉の一部のメニューである
薬草料理でしか使わないのなら
(いろどりの発祥地上勝であるけれど…)
この規模の薬草畑は必要ないのではないかと。
(いろどりのように、よそに出荷できるような商品でもないし)

もしかして…。

これは想像だが、
料理長は月ケ谷温泉の普段のすべての料理に
薬草をさりげなく使ってみたいのではないかと。
(おいしいので、言われなければ気付かない)
滋味溢れる料理は、
食べたあと体調が良くなることが多い。
(これはよく経験することで、体調がよくなる料理店には自然に足(心)が向いてしまう)。

◆「身体に良い」ものは「おいしい」

上勝へ来て新鮮な空気、ブナの森「高丸山」、棚田、
そして眼下を流れる勝浦川を見て
旅人にはリフレッシュしてもらえる。

【全室から眼下に勝浦川が見下ろせる。四国の宿でも有数の景観を持つ】
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ヤッホーのタクちゃんをはじめ、
元気印の地元の方々とのコミュニケーションも楽しみだろう。
そして、ふと都会へ帰ったとき、心身とも軽くなったことに気付く。
それは、心と身体が知らず知らず癒されたから。
その一翼を担うのが薬草であると。

関口料理長は温和な方であるが、決して饒舌ではない。
けれど、やさしい眼光の奥に滋味を感じさせる。
グルメのオンパレードのいまの日本に
食べることの本質を見つめようとする料理人がいる。
「身体によい」ものは「おいしい」。
それが食べ物のほんとうの姿なのだと。
関口料理長の笑顔の裏にそんなメッセージが感じられる。


月ケ谷温泉では、
薬草・伝統郷土料理」の教室を定期的に開催している。
(第1と第3の水曜日のようだ)
参加したい人や
薬草料理を味わたい人は
月ケ谷温泉まで問い合わせてみるといい。

マクロビが好きな人には「たんぽぽコーヒー」も魅力。これも自家栽培だ。

【薬草料理と気付かない献立。写真は11/10に提供されたもの。一部は郷土料理もある】
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タグ:上勝町
posted by 平井 吉信 at 00:11| Comment(0) | 食事 食材 食品 おいしさ
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