2012年10月28日

ブータンの幸福から日本の未来を考える

ブータンの ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク王とペマ王妃が
平成23年11月に国賓として来日され、
東日本大震災への見舞いなどを述べられたことに
感銘を受けた日本人は少なくない。

私もそのひとりである。
これからの日本が縁(よすが)とすべき国であり、
また日本ができうる範囲でご支援を行いたい国である。

そのブータンから行政の幹部が研修のため
2012年10月末に上勝町を訪れた。

省庁の局長、県知事、市長というお立場の方々で40代が多い。
その合間を縫って10月27日に
上勝町コミュニティセンターにて「幸せってなんだろう」
と題して会合が開かれた。
会場は同時通訳(ハンドセット着用)による進行である。

ブータンの公用語(国語)はゾンカ語だが、
行政の公式文書は英語であり、
ブータンの行政関係者は英語で意思疎通を行う。
主な産業は、電力(インドへの売電)、観光、農業等で、
国民の平均年収は日本円で10万円程度と決して経済的に豊かとはいえない。

ブータンでは、国の政策目標として
GNH(Gross National Happiness=国民総幸福量)という概念を掲げており、
国民の幸福度が高いことで注目を集めている。
ブータンは仏教を国教としているが、
このことが政策や国民の感情に影響を及ぼしていると考えられる。
 
内務文科省地方行政局長のドルジ・ノルブさんは、
幸せづくりの4つの条件(施策)を挙げる。

【ブータンの幸せづくりの4つの条件】
(1)良い統治
 国民の価値観をぶれないようにする。
(2)環境の保全
 持続可能性と密接につながる。また、人の生活環境の改善にも関連している。
(3)文化の保護と促進
 大国に挟まれた小国ブータンの存在意義(強み)を活かす視点で、建築などの様式を規制しているのもその一環。
(4)持続可能で公平な社会経済の発展
 ブータンでも都市への集中傾向(特に若者)は否めない。これを是正するために社会インフラの整備が欠かせないとして、道路網(少なくとも村の中心部まではクルマでたどり着けるよう)と通信網(インターネット)の整備を重点的に行う。

物質的な豊かさってなんだろう。
金儲けをする、モノが欲しくなる、さらにもっと欲しくなる、
いくら金儲けをしても際限のない欲を満たすだけとブータンの人たちは指摘する。
しかも、それは未来の人たちから奪っているのだとも。
ただし、豊かな経済を否定しているわけではなく、
GDPの向上はこれからの目標ともいう。
それでも根底には、
家族、地域社会との結びつき(絆)を大切にする国民性がある。

ブータンにも問題は少なくない。
衛生面を改善して感染症を防いだり、
清浄な水を求めて争いが起きないようにするなどのインフラ施策が必要である。
ブータンは気候や日本の中山間地域の地形が類似しており、
人々の顔も近いものがある。
いまのブータンの暮らしは、戦後の日本を彷彿させる。

教育にも力を入れようとしている。
都市部の教師は5年間は地方勤務を、
地方の教師も5年間は都市部勤務を義務づけている。
若い教師は僻地へ行きたがらない傾向があるが、
それでは地方では教師の質・量とも確保できず、
教育の格差が生まれる。
ブータンでは必要最低限の知識を持っていないと
都市部で就職できない。そうでなければ農業に従事する。

会場からは
「上勝にはインフラが整っているが、それでも人口は流出している例などもある。インフラの整備が必ずしも地方の活性化につながらないのではないか」との指摘もあった。

私はこう思う。
ブータンでは「満足要因」(幸福のあるべき姿)は共有されている。
だから「不満要因」をなくす施策が選択されるのではと。
通常は、衣食足りて礼節を知るのように
物質的な欲求が満たされて上位である精神的な欲求が満たされるのだが、
ブータンでは先に精神的な満足度がもたらされているからで、
先進国のような負のスパイラルは生じにくいと考える。
ブータンの今後の政策課題は「GNH」を維持したまま「GDP」を上げることである。

おそらく「幸福」には心の持ち方が大きく関わっている。
ブータンでその役割を担っているのは「仏教」である。
小さい頃から信仰が身近にあり、
朝な夕なに家族や隣人への愛、思いやりこそ大切といったことが教えられる。
人々は寺院などに寄進をするが、
そのことが自分たちも幸せになれると信じるからである。

パネリストの滑川里香さん(いろどり社員)は、
宗教がなければ、ブータンをいまの価値観を持つことが可能でしたか?と尋ねる。
ドルジ県知事は「宗教」と「精神性」は別という。
ブータンでは宗教の教えは重要な位置づけを占めているが、
宗教がなければこのような状況にならないのではない。
例えば、「チャリティー」というかたちで日本でもできるのではないかと指摘する。

国が変わってもどこでも同じという言葉も頷ける。
若者たちは、ファッションやケータイなどに関心があり、
一度便利さを知ってしまえばない生活に戻れないのは万国共通である。

笠松町長は、ブータン視察でゴミが多かったことに鑑み、
これらは先進国から持ちこまれたもので責任の一翼は先進国にある。
けれど、これらも回収して資源にすることはできると、
上勝での取り組み(ゼロウェイスト)をブータンでも行ってみてはと投げかける。

上勝町には、「いろどり」「ごみゼロ宣言」「バイオマス」「棚田」「千年の森」「農家民宿」「ゆこう」など、先進的な取り組みや資源が存在する。
それらを地元の人たちとIターン者が手を携えて取り組み、
都市部からの移住者(=町内で就職)が増えている。
その舵取りを行う笠松町長の優れた手腕や
(株)いろどりの横石社長をはじめ、
多くの人たちの熱意ある取り組みが原動力となっている。

ブータンでは、GNHを9つの構成要素から測定する。
1.心理的幸福
2.健康
3.教育
4.文化
5.環境
6.コミュニティー
7.良い統治
8.生活水準
9.自分の時間の使い方

各地方で各要素ごとにアンケートを行うことで幸福度が見える化される。
すると、政策は幸福度が低い地域、低い項目を
重点的にてこ入れをすれば良いわけだ。
簡単なアンケートだけで実態に即した政策方針が見えてくるのは、
幸福の定義、国の進む道が共有されているからにほかならない。

私はこう考える。
国民の幸福には、幸福の定義が必要である。
その啓発を行うのが家族、地域社会であり教育である。
国民が同じ価値観を持ったとき、政策は簡単になる。
国も企業も明確な理念を持ち、
それを浸透させると、価値観が共有される。
そのことで政策(戦略)が単純化される。

個別の政策を問う前に、
多くの人たちに必要とされる実感、
地域社会の役に立てている実感、
それを使命感、生きがいとする人たちが何人いるか。
そんな人たちによる使命共同体をつくることを
これからの日本の目標にできないものかと。

さて、私は冒頭のアンケートにどう回答したか? 
―「とても幸福」である。

物欲は人以上にあってそのことを否定しない(否定する必要もない)けれど、
たくさんの人たちに必要とされている実感、
地域社会のお役に立てているという実感、
それを使命感としていることが生きる支えとなっているから。

タイトル :「幸せってなんだろう」
日時 : 2012年10月27日(土) 14時〜17時
場所 : 上勝町コミュニティセンター
主催 : JICA(独立行政法人 国際協力機構)、上勝町


笠松町長のブータン報告から始まった。
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ドルジ・ノルブさん(内務文科省地方行政局長)のお話
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チュカ県知事のペンバ・ウォンチュックさん。壇上でも熱弁を振るわれた
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首都ティンプーの市長 キンレイ・ドルジさん。選挙で選ばれた初の首長とのこと。
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この日の参加者の「幸福度」の結果発表に沸く
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モデレーターは佐藤寛さん(国際開発学会会長・ジェトロアジア経済研究所)
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今回来日のブータンのみなさん。ブータン人と日本人は似ている。上勝の地形はブータンに似ていて親近感があるとも。
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タグ:上勝町
posted by 平井 吉信 at 00:00| Comment(0) | 生きる
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