ユジャ・ワン。
それは、YouTubeで
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を彷徨っていてみつけたもの。
第1楽章〜第3楽章
http://www.youtube.com/watch?v=yJ1v0N9TKfc&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=q752m5YWPb4
http://www.youtube.com/watch?v=VXjPo1yRG0M
ラフマニノフの2番は
胸の疼くような耽美をピアノと管弦楽で描いた名作。
熱烈な恋愛のさなかにこの曲に浸ると
細胞が溶けてしまいそうだった20代。
その頃買ったのが
リヒテルが1960年代に録音したもの(アナログレコード)。
ヴィスロツキ/ワルシャワ国立フィルのローカルオケがいい。
ピアノの一部となって寄り添う。
19世紀のロマンティシズムを綿綿と綴った耽美の極地で
独身の若者が浸るには美しすぎる音楽だった。
アシュケナージのLPも持っている。
リヒテルに比べれば
淡々とグランドマナーで楽曲を再現していく。
ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウのバックが絶妙で
第2楽章の終わりなど、ひたひたと押し寄せる弦楽に包まれて
ピアノが昇華していく。
21世紀になってからは
ツィマーマンのCDが新たに手元に加わった。
ツィマーマンは若い頃、徳島に来たことがあった。
夫人を伴っての来日公演で、
演奏会終了後に彼女に寄り添って会場を去っていった。
音楽の向こうに、
彼が醸し出す孤高の求道者と妻を愛するひとりの人間の姿が重なった。
ツィマーマンは2000年に小澤とこの曲を録音した。
他の演奏者と次元が違うぐらい雄弁に語り掛ける。
その技術をハガネのような精神で空間にほとばしらせる。
繊細、緻密、大胆、劇的、そして内省的、
最大にして必要最小限。
楽曲の背後にある精神をえぐり出して
かたちにした求道者のような演奏だ。
この曲にもはや解釈の余地が残されていないのではないかと思えるほど。
曲よりも演奏者の力量が優っている印象もあるけれど。
久しぶりに、別の演奏を探してみようとしたら
ユジャ・ワンだった。
感じたままに音をつむぎながら
随所に音がきらめく。
強い音のあとの弱音の美しさにはっとする。
切れ味鋭く、しなやか。
咲き誇る花を秘めていても
すべて見せずに、ちらりと魅せるように。
彼女の個性が示されているのが
トルコ行進曲。
http://www.youtube.com/watch?v=vWFcbuOav3g&feature=related
この演奏はおもしろい。
「音楽」が「音」で「遊ぶ」としたら
彼女は「遊んでいる」。
(道を究めようとする人だけが、「遊び」を知っている)
調べると、北京生まれの20代の女性だとわかった。
ユジャはミニスカートで演奏会を行うこともあり、
物議を醸している。
それは、彼女のメッセージだと思う。
「伝統」という殻を壊しているのだ。
かたちにとらわれる人たちに突きつけた挑戦状。
でも、ぼくには仮面の下の無邪気な彼女が見えるような気がする。
(いまはそんな「花」でいいけど、30代になったら、あなたはどう演奏する?)
かたちをなぞることなく、精神を活かし、
いまの時代に再創造していく試み。
音楽に限らず、商店街や企業のあり方だってそう。
人の生き方も。
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