鷲敷ラインはカヌー競技で知られた那賀川中流の名所。
那賀川は剣山山系の木頭村(現那賀町)に源を発し、
木沢からの坂州木頭川(槍戸川)と合流して
紀伊水道に注ぐ全長125kmの川。

「もし、〜なければ」は禁句だけど、
那賀川にダムがなかったら、
日本有数の急流と渓谷美が残されただろう。
きょうも水が濁り気味。
幼い頃、下流の河原で遊んだ。
ダムはすでにできていたが、当時は影響はそれほどではなかった。
トバシと呼ばれる毛針を付けて解禁直後の小鮎を釣る。
川口ダム下流に注ぐ赤松川でドブ釣りをしたこともある。
毛針には、青ライオンとか岡林2号などといった名前が付けられていた。
下流(岩脇付近)でも水は澄んでいて
河原へ行くと那賀川の匂いがした。
土手でつくしを採ったのもこの頃だ。
2012年3月に剣山の南の山系についての案内本(ガイドブック)が出版された。
タイトルは「地下足袋王子と行く 南つるぎ山系 花ルート10」。
著者は、地元で生まれ育ち、
現在は四季美谷温泉の支配人を務める平井滋さん。
「木沢の花と山と温泉ツアー」の300回記念で作成されたもの。
(なぜ、平井さんが地下足袋王子と呼ばれるかはガイドブックを見てのお楽しみ♪)
知人からこの本を紹介されて見たくなった。
近所の書店には置いていないので
四季美谷温泉までわざわざ出かけていった。
あいにく平井さんはいらっしゃらなかったが、
帰りに木沢トンネルの手前でバスを運転されている平井さんとすれ違った。
三連休を過ごした宿泊客を徳島駅に送っての帰りではなかったか。
四季美谷温泉は、槍戸川を眼下に望み
四国でも有数の景観立地を誇る。
温泉に浸って澄んだ渓谷を眺めれば、
俗世の穢れが落ちていく感じがするだろう。
ようやく手に入れた著作を見て感動した。
この本には、作り手の愛情がたっぷり詰まっている。
気取らない表紙、手に取りやすい大きさ、
プロフェッショナルが撮影したと思える品質の花の写真。
そして、キャプション(説明)は
ガイド客への平井さんの語り掛けであり、
独白でもある。
登山ガイドブックは県内、四国内でも数種類発刊されているが、
なかには修辞が鼻につくガイドブックもあり、
著者の文章力(自己顕示?)を見せつけられているようである。
(職業的な意識なのかもしれないが、うまい文章を書こうとする意思が邪魔して読み手の心に入っていかない。技術>心(愛))
地下足袋王子のガイドブックにはそのような美文調はない。
それでいて、行間に著者の思いがあふれて読む人を誘っている。
故郷の山にかける思いの深さ、
人をおもてなす自然体のお人柄から
にじみ出ているようだ。
価格も1,260円と手頃なので、
四季美谷温泉まで足を伸ばしたら
手にとっていただきたい。
さて、那賀川には全国でもここしかない、という野生植物がある。
それは、ナカガワノギク。
さらに、ナカガワノギクから派生した
ワジキギクもある。
渓流帯と呼ばれる
増水時に水没する岩などに自生している唯一のキクである。
流水抵抗が少ない葉のかたちをしているのが特徴である。
それを見に行ったのだが、まだ時期が早かったようだ。
凛としたつぼみが10月の陽光で背伸びをしているようだ。

代わりに、これまた渓流帯のナガバシャジンが花を開いている。
花の大きさは2センチ程度。
うっかり見落として踏みつぶしてしまいそうだ。
可憐という言葉はこの花のためにある。
(このと時期は少し盛りを過ぎてしまったかもしれない)
岩場の棚に、つぼみのナカガワノギクと満開のナガバシャジンが並んでいた。



秋の鷲敷ラインは、岩を上り下りする楽しみと
岩の上から川面を見下ろす爽快感と
足元で花を咲かせる小さな野生植物の物語がある。
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