前回は、「象牙海岸」を噛みしめるうちに写真へ行ってしまって、アルバムを語っていなかった。「LOVE SONGS」は、1980年発売の竹内まりやさんの3枚目のアルバム。時期としては、大滝詠一さんの「A LONG VACATION」の1年前に当たる。「不思議なピーチパイ」のヒットを受けてつくられたアルバムで、ぼくも何となく全曲を聴いたつもりになっていたけれど、改めて聴きこんでみると、一つひとつの楽曲のすばらしさと全体を通しての気取らない普段着と洗練とが同居している。
→ 夏雲が…それぞれの象牙海岸―四国東南部の海岸で当てはめるとしたら?
1曲目「FLY AWAY」(Carole Bayer Stager&Peter Allen)は、これから始まる音楽の扉を開ける高揚感が漂う。楽曲は転調の妙が散りばめられていて幕開けにふさわしい佳曲。2曲目「さよならの夜明け」(竹内まりや&山下達郎)も淡々とフォーク調なのにコーラスワークと伴奏の付け方や「いつか時が経てば」の転調は職人技。3曲目「磁気嵐」(松本隆&杉真理)ではナスカの地上絵を上空から眺める。そんな非日常感のなかで、磁気嵐という専門用語が違和感なく、「この太陽航路の果てに…」の転調の経過句が雄大な景色とそこに置かれた「遠く離れた私の孤独感」が漂う。「象牙海岸」(松本隆&林哲司)については前回詳しく語ったが、音楽的には職人芸とそれを感じさせない叙情的な仕上がり。5曲目「五線紙」(松本隆&安部恭弘)はミニマムの伴奏と木綿の手触りにベルボトムのジーンズが似合いそうな80年代最良の時代の幕開け。いまのように政治や経済が劣悪な時代だからこそまばゆい感じがする。6曲目「LONELY WIND」(小林和子&浜田金吾)の人の手作りの温もりが漂う。
ここまでの楽曲はA+と思っている。この後はまりやさん作詞作曲が2曲続いて(「恋の終わりに」は歌謡曲調でアルバムのなかで浮いている感じがする)、ヒット曲「SEPTEMBER」(松本隆&林哲司)、「不思議なピーチパイ」(安井かずみ&加藤和彦)と続く。
シングル曲なのにアルバムに収まりがよいのは楽曲の質が高いから。ラストはまりやさんの「little lullaby」がきらびやかなピアノ伴奏で始まり、締めくくる。
職業作家だけでない自作曲の散りばめと置かれている位置が違和感がないのがアルバムのトータルの品質につながっている。2019年には40周年記念リマスター盤が発売されて、さらにボーナストラックとしてライブで「SEPTEMBER (LIVE Ver.)」、「象牙海岸 (LIVE Ver.)、「恋の終わりに (LIVE Ver.)、「待っているわ (LIVE Ver)、「五線紙 (LIVE Ver.)が収録されている。
やはりこのアルバムは竹内まりやさんしか歌えない。気取らない、繊細ぶらない、土の香りがするけれど、垢抜けている。職人芸(特に1曲目〜6曲目と2曲のヒット)と何度か書いているように、歌詞に過不足があるシンガーソング系の歌い手と違って、日本語の存在感が際立つ歌詞と、歌詞の心象に楽曲が期待通りに寄り添うところ(転調の使い方が必然!)。だから音楽に浸れる(達郎さんの色が濃くないところがかえってよかったのかも?)。ぼくはこのアルバムを聴くときは音楽をつくった人たちの思いにひたひたと浸ることができて幸福感を覚える。毎日1回は聴かないと頭のなかでどれかの楽曲が鳴りだしてしまう。いずれにしても現代ではこんな音楽は世に出てこないのだ。
→ 竹内まりや「LOVE SONGS」
【音楽の最新記事】
- 「さらば涙と言おう」(森田健作さん)がい..
- 夏雲が…それぞれの象牙海岸―四国東南部の..
- FM FESTIVAL 2025 桑田佳..
- 秋になるとたまらなく聴きたくなる 「しあ..
- いつまでも「太陽・神様・少年」。そして「..
- 80年代の風はまだ熱かった kona w..
- 屋久島の自然音で 集中の前のひとときに ..
- 5月になると思い浮かぶ楽曲 なつかしく何..
- 天性のギタリスト 朴葵姫さん、ヴィラ=ロ..
- SACDで聴くEACH TIME(大瀧詠..
- 小暮はな「ホタルの庭で」 しずしずと、..
- 昼も夜もPolaroid Loveres..
- サッちゃんとシャボン玉
- 倍賞千恵子 叙情歌全集 日本語の美しさを..
- アリスの音楽を素材を活かして(SACDハ..
- 真夜中に波紋を拡げるように。オフコース「..
- A LONG VACATION 20th..
- 80年代とAOR いつの時代でもそれを必..
- 18世紀の芸術家は21世紀に自由な精神を..
- フランスの高原の素朴な歌曲集 オーヴェル..