ゆこうは、香酸柑橘の一種で、ユズとダイダイの自然交配とされる。徳島県では上勝町を中心に、勝浦町、徳島市南部、小松島市南部、阿南市南部、海部郡の一部などにある。
どちらかといえば、癖の強いユズや、えぐみのあるスダチと違って、レモンのような透明感を持ちながらも果汁をそのまま味わえるまろやかさ。酸味の上品さを極めたら、ゆこうになるのではと思える。
ぼくも例年ゆこうが採れ始める10月ぐらいから果実を買って、自宅で絞り器にかけてハチミツかメイプルシロップのいずれかを入れて湯割する。インフルエンザやコロナに罹患しにくくなる効果もあるように思う。
ゆこうには、健康維持に優れた効能があることが徳島大学の研究でわかっている。それは、口腔環境や腸内環境の健康である。どちらも長寿(健康寿命)の核心を突く機能で、そこに働きかける。
→ 徳島大学の研究成果は、徳島クワトロシトラスのWebサイトに掲載 https://4citrus.com/
でもぼくは健康のためだけにゆこうを利用しているのではない。酸味と甘味の絶妙なせめぎ合いと、かすかな粘性を感じるまろやかな口当たりを口内や喉が欲しがるからだ。
ゆこうの生産者は、数のうえでは勝浦郡が中心で、上勝町の山部さんをはじめ、徳島市南部と小松島市南部にも優れた生産者がいらっしゃる。なかでも抜群の品質のゆこうを生産しているのが、小松島市櫛淵町(全国一のヤマモモの産地としても有名)のおかだファームの岡田さんである。同ファームの岡田慎一郎さんと、農園内でアウトドア形態のカフェ「しろいぬ珈琲」を営む明子さんを訪ねてみた。この日は、ゆこう狩りとして、自分でゆこうを摘み取って量り売りしていただけるのだ。
おかだファームのヤマモモを食した人なら、宝石のような果実と思えるだろう。その秘密は品質管理(栽培管理)にあるのだけれど、ゆこうもおそらく同様に、品質保持に必要な工程に手間と愛情をかけておられると推察する。
この日も農園の理念が垣間見えることがあった。慎一郎さんは蜘蛛の巣を取らない。クモはカメムシなどの害虫を減らしてくれる益虫との認識からだ。おかだファームでは農薬を使わないが、それは売るための口実ではなく、口に入る食べ物にはなるべく化学物質はないほうがよいとの信念によるのだろう。都会の人が「オーガニックに限る」などと物知り顔で高くておいしくない農産物を買っている場面を見ると、有機栽培はブランド信仰の一種に思えてしまうのだが、認証を満たす形式的なオーガニック(認証/更新費用と管理のしくみと書類作成の手間がかかる)と、認証ではなく本質を見つめた栽培法(農薬不使用や適切な肥料の選択など)がある。おかだファームは後者で、認証管理に経営資源を割くのではなく、よい品質に手間をかけるという考え方。小規模生産者はこのほうが合理的だ。
馬路村の関係者が「無農薬がえらいのではなく、健康であってほしいと願う生産者の心が尊い」というニュアンスの話をされていた記憶がある(馬路村はマーケティング志向を感じるけれど、それは小さな村を売り込みたい熱意の裏返しなので)。
慎一郎さんが「見ていただきたいものがあります」といわれるので付いていくと、ゆこうの切り株(樹齢数十年の壮年木)を見せていただいた。これはゴマダラカミキリの幼虫が世代交代をしながら年月をかけて樹木を浸潤して枯れたものとのこと。
農薬を使わないことを信条にしているおかだファームでは、このようなことが起こっている。それでもなお、人力で害虫を駆除するなどして、農薬不使用を貫く覚悟が伝わってきた。害虫の生態がわからなければ対策が打てず、よい果実を収穫するためには、土づくり、剪定、摘果など、気が遠くなるような地道な日常の手入れが必要。そうして収穫期がご褒美のように訪れる。そのときを「ゆこう狩り」と称して、消費者などを農園に迎えて共有することは価値がある。
ゆこう狩りはどなたでも歓迎。ただし日にち限定なので、おかだファームのInstagramを参照
https://www.instagram.com/okada_farm_kumaguma/
おかだファームのゆこうの特徴は、果実が巨大であること。ゆこうを見慣れたぼくですら信じられないぐらいだ。さらに木成りの完熟ゆこうは信じられない甘さが凝縮されるという。ただし、冬は樹勢が弱まる時季でもあるので完熟まで実を置いておくのは木にとって負担がかかるとのこと。いつも生き物としてのゆこうの木の健康と、お客様(人間)の健康を天秤にかけながら慎一郎さんの研究と挑戦は続くのだろう。
つややかな次郎柿、質の高いあまみは天国級
この日の農園には、地元素材の焼き菓子がおいしい金曜のみ営業のhowattoの店主、伊豆田裕美さんも来園されていて、自らゆこうを摘んでおられた。
12月は、ゆこう特集をやられるそうだ。ゆこうほど、おいしい香酸柑橘はないと思うが、それを菓子に使うと、なかなかうまく行っているといえるものは少ない。それは果汁がおいしいからだと思う。
ユズは、癖が強いが、どんな菓子にもユズを使うと味が決まるので使いやすい(ユズが支配する)。しかし飽きやすいのも事実である。
すだちは、その香りが最大の魅力で、大分のカボスや高知県幡多地域のブシュカンなどと同じで、香り付けすることで食材の新たな魅力を引き出す。焼き魚、冷や奴、鍋やうどんに添えるだけでどれだけ食味が豊かになることか。さわやかさだけでなくえぐみ(実はそれも魅力なのだが)がある。焼き菓子や製麺で、すだちらしさを出そうとすれば、苦みが味を濁らせるなど使いこなしの難易度が高い。
ゆこうは、和製レモンと呼ばれることもあって果汁そのものがおいしく癖がない。日本の香酸柑橘なのに地中海の雰囲気を漂わせるところが素敵だ。しかしそれを焼き菓子に応用しようとすると、ママレモンのような香りのする風味になりかねず、少量だと、砂糖の甘味に溶け込んでしまう。果汁がもっともおいしいのは間違いないとしても、それを活かすには研究が欠かせない。ぼくが考えるゆこうの焼き菓子への使いこなしは、生地に均等に使うのではなく、果汁感が感じられる濃淡を意図的につくりだすことではないかと思う。howattoさんはシフォンケーキ、マフィンなどの専門店だが、どのように提案するかが楽しみだ。
和歌山県の飛び地にはジャバラがあるように、ゆこうは徳島県にしか産しない。ヒトが開発したものではなく自然交配によるものだ。ゆこうと、ゆこうを育てる生産者に明るい未来があればいいなと思っている。この良さがわかるヒトに味わってほしいのだ。
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