やはりそうか、と思った。羅臼岳や知床硫黄山は、シレトコスミレの生息地でもあるので、もし行くとしたらの想定で旅程や行程を調べたことがあるが、ヒグマの生息地であることはもちろん、アイゼンなどの冬山装備が必要なことや希少種だけに自分ひとりであっても入山による生態系への影響などを考えて断念した。
北海道のヒグマでもこの地域の個体は道南と比べておとなしいとされていて(だから油断してよいものではない)、これまでこの山域で人身事故が報告されていない(記憶違いでなければ)だけに、なぜ起こったのかが気になっていた。
当初の新聞記事ではこの記述が気になっていた。「下山中に200メートルほど前を歩いていた友人から名前を呼ばれ、近づくとクマと格闘していた…」というくだり。これは?と思った。いかに親しい仲でもマイペースでどんどん進むことは有り得ない。ましてヒグマの生息密度が極めて高い知床であれば。
登山をしたことがある人なら誰でもそうだと思うが、先行者は後続の息や歩みを感じつつ距離が離れそうになったら速度を調整したり小休止(休憩ではない)を入れる。この状況が発生するとしたら、ひとり(被害者)がトレランに切り替えて走り出したのではないか。
そして数日後のHTB北海道ニュースで放映されたのは、被害者の男性が走っていたことだった。
https://www.htb.co.jp/news/archives_33107.html
亡くなられた方には誠にお気の毒だが、結果論ではなく入山に際して留意しておくことはあったはず。
(1)知床半島はヒグマの生息密度が高い地域であることはもちろん、羅臼岳登山では襲われた周辺はヒグマの夏の餌となる蟻塚があることからヒグマのテリトリーであることは入山前に知っておくべき。
(2)そのような場所を走ることは自殺行為に等しい。熊鈴はクマにこちらの存在を早くに知らせて出会い頭を避けて双方とも待避する時間をつくるもの(このところ都市部に出没するアーバンベアと異なり、人との接触が少ない場所ではヒグマもリスクを感じてヒトは避ける傾向)。走っていればヒグマが待避する時間がなくなるばかりか、攻撃されると認識される可能性が高まる。
(3)さらに子グマを連れた母グマであったこと。この状態は子を守る母の本能で攻撃的かつ敏感になっている。
(4)トレランをするのに、わざわざ世界自然遺産の山域で行なうのか(登山道のみではあっても生態系への負荷があるのではと推察。人同士の接触事故も想定される。今後禁止すべきと思う)
(5)被害者を襲ったヒグマ親子の駆除はやむを得ない(駆除されたヒグマも人間が慎重な行動をすれば接触を避けられたはずで、彼らにとっても残念なことであった)。ヒグマにとっても恐怖の経験で、今後は人を襲う習性が常態化するおそれがあった。
(6)ヒトとクマの接触頻度が増すことは双方にとって望ましくない。餌付けや写真撮影のための接近は厳に慎むべき。世界自然遺産区域は野生生物や生態系のレクチャーを受けた登山者のみによる人数制限を行なうなど厳格な入山規制を行なうか、ガイド同伴を義務づけるなどが望ましいのではないか。
四国に生息するツキノワグマは基本的に人を避ける傾向があると思っているが、それでもクマの生息域に入っていく際には、地形や植生、時間帯や天候から彼らの行動パターンを推測し、さらにそれらの痕跡を確認しつつ、鈴はもちろんだが、場所に応じて声を出したり笛を吹いたりして行動している。
被害者の方のご冥福をお祈りするとともに、山へ入る場合はクマ対策も含めて必要最小限の知識を身につけておくべき。そうしないと悲劇はなくならない。
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