2025年08月09日

レンゲショウマとスズカケソウから日本の歴史や生態系を考える(岳人の森)


剣山には宮尾登美子の小説「天涯の花」で知られるキレンゲショウマ(アジサイ科キレンゲショウマ属)が咲く。
→ キレンゲショウマはこちらのタグから

似た名称ながら種も外観も異なる「レンゲショウマ」(キンポウゲ科レンゲショウマ属)が、かつては徳島の中央部の山中(おそらくは旧木沢村の標高1200〜1500メートル程度)に自生していたようだ。レンゲショウマは奈良県が南限の北方系の植物であるが、県内では絶滅してしまった可能性がある。しかしその種子を採取して長い年月をかけて、自ら所有する山の自然地形を活かして植物園を開設し、レンゲショウマの楽園をつくった人がいる。もしそうなら、かつての自生地からもそう遠くない場所で遺伝子を守ることができたことになる。

そんな貴重な植物を見せていただけるのが、四国山岳植物園 岳人の森(https://gakujin-no-mori.net/)。ここには植物園や食事のできる場所のほか、オートキャンプやテント泊の区画が数カ所に整備されていて、隠れた人気スポットとなっている。ぼくはオートキャンプには関心がないのだけれど、ここならいいかなと思った。どちらかというと、オートキャンプは、自然観察の場というよりも、アウトドアで持ち主の趣味の披露の場や道具の博覧会のように見えてしまって…。ちょっとお高く止まっている海外のアウトドアブランドよりは、ダサいデザインだが(失礼!)自然とヒトに対する一貫した理念があるモンベルは好きだけど、スノーピークには惹かれないなど…(以下、略)。

それはともかくとして、レンゲショウマを見ながら、散策ルートで見えたオートキャンプ場泊しているみなさんは「見せるキャンプ」ではなく、静かな森の雰囲気に浸っていた。飲める水とトイレが随所に用意されていて、道路から離れて喧噪のない場所だから。巷では35度の猛暑でも、川こそないものの、静けさと木陰があって、森と空と風に吹かれて何もしないときを過ごすことができる。

ところでここ数年の日本列島はヒグマ、ツキノワグマが市街地や住宅地まで出没して連日被害が報告されている。四国ではぼくの知る限り、クマに襲われる事故は発生していない。四国森林管理局が2024年に行なった調査では、剣山山系から高知県香美町などの山域にかけて34カ所に83個のセンサーカメラで観察したところ、19カ所(徳島12カ所、高知7カ所)で26頭のツキノワグマが確認できたという(徳島県の自治体名では三好市、美馬市、那賀町、神山町、上勝町の各市町だった)。今年(2025年)7月13日には那賀町の国道193号でツキノワグマの親子が目撃された(これまでの目撃例ではもっとも人の気配が多い場所かも)。そこは、岳人の森からはトンネルを越えて峠を下った約6km南に位置する坂州木頭川支流釜ヶ谷川沿いの場所である。

ぼくがよく行く砥石権現(いつもはスーパー林道の南面からアプローチするが、岳人の森からもオーナーが整備された北斜面の登山道がある)の山頂近くの無人カメラにもツキノワグマが記録されたたことがある。旧木沢村のスーパー林道沿いの山々は、ニホンジカが劇的に増加する以前は、(それらの食害がひどくなかったため)クマザサやスズタケが生い茂り数メートル先は見えなかった。それゆえ旧木沢村の山を歩くときは、声出しをしながら、風向きを感じ、野生の匂いに敏感になり、足下の糞や足跡、植物の倒れ方などを観察しながら野生生物の気配を察しつつ慎重に進んだものだった。

四国のツキノワグマはヒトとの接触を避ける傾向が強く、これまでの目撃例からクマはヒトに気付くとクマが逃げる場面がほとんどである(できればクマより先に存在に気づきたい)。音出しと注意深い洞察で出会い頭を避けられれば襲われることはないと考える(クマもヒトが怖いのだ)。万一遭遇しても子連れは刺激せず、前を向いたまま後退する(実際は顔は前に向けるが身体は捻ってしないと足下が危ない)。

本州や北海道と違って、個体数が少ないのが幸いしてクマ同士の食糧の争奪は起こっていないと思われるが(それでもニホンジカとは競合しているかもしれない)、キャンプや水遊びに行って生ゴミを放置したり捨てたりせず持ち帰ることは絶対である。岳人の森周辺にもツキノワグマが生息していると思われるが、人の気配が濃厚なため(柵で囲われた植物園内には来ない)、ルールを守る限りは安全かつ快適ににキャンプができるはずである。オートキャンプ場としてはほんとうに良い場所である。

そのレンゲショウマが見頃を迎えたこの夏、岳人の森の植物園に出かけてみた(駐車場入口でお金を払うしくみとなっている)。5月にはヒメシャガやシコクカッコソウの大群落が見られたはずだが、夏の時期の花はそう多くない。それでも涼しい森の木陰の散策はそれだけで心が和むので、入口からしばらくは飛ばさず森の静けさを愉しみながら歩きたい。オーナーの方の生涯を掛けた取り組みの賜のような森だから。
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この快適な森もここまで来るのに途方もない時間と労力がかかったはず。森の地形を利用しつつ、土木技術で調えながらも生態系や園芸の深い洞察が必要であったはず。その過程は共有できなくてもその成果はここにある。それゆえ、何気なく歩くこの時間が大切に思える。

入口近くの森の池の周辺にもレンゲショウマは咲いている。
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森の木漏れ日が一瞬あたると天女のような花弁に光が透ける
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個体数が多いのは、散策路後半で林道へ出ての大きな池の周辺である
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珍しい種類があった。それもとびきり珍しいスズカケソウ。
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どう見ても日本の自生種のように見えないが、牧野富太郎が剣山近辺で植物観察会をひらいたときに、祖谷から持参した人がいたとの記録がある。さらに1989年には剣山の北にあたる貞光川流域で自生が発見されたという。
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中国には多く自生しているらしいが、日本では岐阜県と鳥取県で生育が確認されているが栽培種が野生化した可能性が推察される。つまりは、古い時代に観賞用かもしくは偶然に種子などが大陸から徳島にもたらされた可能性がある。
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剣山伝説が好きな人にとってはたまらない話だが、近年に行なわれた全ゲノム解析や遺伝子検査サービスの分析などから、渡来人由来のゲノム成分が多かったのは四国であることがわかっている。秘境祖谷に自生していたとすれば、平安時代末期の平家落人由来の可能性もある。貞光町であれば、剣山にまつわる種々の伝説に由来する(ヤマト王権の誕生の過程や古代中東との関係性など)経路が想定されるので、もっとも古い場合では弥生時代から古墳時代に大陸から渡来した可能性も考えられる。今日の分布の特殊性(鳥取、岐阜、徳島)からは、キレンゲショウマのようなソハヤキ要素のような地理や地政学的な共通性が見いだせないので、日本固有の種というよりは古くに日本に帰化した植物ではないかと思われる。

→ 徳島県立博物館のWebサイトに解説がある
 https://museum.bunmori.tokushima.jp/ogawa/rdb/suzukake/default.htm

神山町特産でもあるヒオウギ、背後にはニッコウキスゲ
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林間のオートキャンプ地
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森の散策を続けよう
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植物のことを語り出すと止まらない。140文字でつぶやいてくれといわれると頭を抱えてしまう。AIよ、心あらばこの投稿を要約してみたまえ。
posted by 平井 吉信 at 22:31| Comment(0) | 山、川、海、山野草
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