このブログでは「交雑」という言葉の頻度が多い気がする。人類進化を語るとき、ホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスの交雑とか、デニソワ人とネアンデルタール人の交雑などと使っている。現代の人間社会でいえば結婚、動物でいえば異なる種が交尾して子どもをなすこと、植物でいえば、虫などが媒介して異なる種で交配して親と異なる株が生れることである。
ただし、スミレの場合はスミレそのものを見分けるのが難しいうえ、それが交雑するとさらに難易度が上がる。特に近いもの同士の場合はなおさら。
野山で見かけた個体が記憶のなかのパターン認識で「おや」とアラートを発するとき、それは自然界の実験に立ち会っているようで、多少のときめきとわくわくを感じている。
いずれにしても、撮る(写真)だけであって、採る(持ち帰る)はなし。そこにいてこそのスミレちゃんで、その場にいることが幸せ。それは個体の問題だけでなく、その空間全体(生態系)にも影響がある。シカなどの食害が問題となるのは生態系を破壊しているからである。
見かけ上の交雑?
交雑例のなかには怪しいものがある。例えば、高鉾山で見かけた個体。

スミレに詳しい人、これはおかしいでしょう。葉がナガバノスミレサイシン、花がタチツボスミレ系といった趣き。こんな交雑はある?
何がおかしいかって、例えば、野球で縦縞のユニフォームとグレー無地のユニフォームが交雑したとする(生物でないからしないけど)。グレー地にストライプが薄く入ったものになる、といえば交雑がイメージできる。ところが、左側がストライプで右側がグレー無地という現れ方はしない(キカイダー?)。この個体はそれに近いので変なのである。
おそらくは葉だけのナガバノスミレサイシンに、タチツボスミレ系が偶然に居合わせてしかも自分の葉は見えないところに小さくある、などの場面ではないかと。
タチツボスミレ×ナガバノタチツボスミレ
これは徳島県内で比較的見かけるパターン。最初に見て驚いたのは草丈。いつもは寝そべって撮影するか、地面すれすれにレンズを向けるのに、この個体はしゃがんだ目の高さに近い。頭が良い父と美しい母の間に、頭が良くて容姿端麗な子どもが生まれるというパターンか(その逆が出るとちと大変。大谷夫妻の子どもはどれだけ大きくなるのかならないのか)。特徴が強く表れて両親より優れた(この場合は草丈)性質となるのを交雑強勢という。とくしま植物園の斜面でもときどき見かける

サクラスミレ×スミレ(Viola mandshurica)
昨年の四国カルストで見かけた個体。ここは四国で唯一サクラスミレが自生する場所なのだけど、これは交雑個体。葉に翼を持つスミレの特徴を持ちながら形状はサクラスミレ的。交雑種としてはわかりやすいほう。

シハイスミレ×スミレ(Viola mandshurica)
今年見かけたスミレではこれが印象的だった。葉はシハイスミレ、花弁は濃い紫で、ピンク系統のシハイスミレではなく、スミレ(Viola mandshurica)の色彩の影響が濃い。周辺を隈なく探すと、シハイスミレ、スミレ(Viola mandshurica)の交雑しない株が多数あり、そのなかにいくつか交雑株があった。それにしても美しい個体で、ぼくは1時間以上この個体の近くで寝そべって見ていた(誰もいなくてよかった)。ホウフスミレという和名もあるようだ。

花弁の拡大。側弁の根元には毛がある

上から見ると葉はシハイスミレ的。翼はないがスミレ(Viola mandshurica)の味付けも感じる


近くにあったスミレ(Viola mandshurica)。葉には翼があるが、形状が大きい(強勢化を感じる)。この個体は交雑個体(ホウフスミレ)とスミレ(Viola mandshurica)の交雑ではないか

交雑を探しているのではなく偶然出会うから、いとおかし。それをスミレ道楽というなかれ。生きていること、生きていくことへの共感とでもしていただけると幸いです。
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余談だけど、清少納言と紫式部が合体して、「枕源氏草子」を書いたらどんな文章になるだろう。宮中のあれやこれをエッセイ風に入れながら相変わらずの惚れた腫れたの世界と入り交じっていくのだろう。AIなら創作しかねないな。
いずれのおんときにかにょうごこういあまたさぶらいけるなかに やうやうしろくなりゆくやまぎわ むらさきだちて むらさきのうえといひたる いとおかしくあはれなり(そんなことないわな)
タグ:スミレ
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