県西部でのセミナー(参加者がとても感じの良い方々であった)の開催で向かう道中で、ひたすら聴いていた音楽は、Sarah Jarosz(サラ・ジャロウズ)の新作「Polaroid Lovers」 。世の中に溢れている音楽と似ているようで、まったく違う魅力を感じるのは彼女の声のせい。自作の楽曲も佳い(このアルバムではかつては苦手だった共作がほとんどで愉しいプロセスであったと動画サイトの後半で語っている)。
YouTubeで前半3曲をスタジオライブで歌っている動画がこれ
https://www.youtube.com/watch?v=PTRNQfESd0k
動画後半のインタビューでは、ブルーグラスやカントリーフォークに分類されることが多い彼女の新作について、「驚く人が多いのでは? 60年代のボブ・ディランがエレキギターを手にしたときのように」とインタビュー者が水を向ける(フォーク信者の観客がディランに向かって「ユダ!(裏切り者)と罵声を投げかけたんだよね。見てないけど)。
サラさんも、自分の音と違う感じ(私も驚いているのニュアンス)と答える。素朴で温もりの人柄から音楽性が漂うが、20代後半でグラミー賞を3度受賞している実力者。ここ数年人気を集めているベッドルームPOP(ClairoやBilllie Irishなど)もいいけど、生演奏の弾む感じは一体感がある。サラさんの声がとてもよい感じ。
2曲目の「When the Lights Go Out」の歌詞(夢のなかで二人はポラロイド写真に写った恋人だった)のPolaroid Loversという言葉が気に入ってタイトルにしたのだけれど、考えてみれば人生の場面はスナップ写真のようなもので、過去や未来を見つめるように楽曲に反映しているということ、過ぎていく一瞬が写真に定着するが、音楽もそんなものという(と言っているように解釈したけれど、歌詞と同様にやや抽象的なのがSarahさんの特徴かも)。
共作によってさまざまな共演者のアイデア(思い)が注入されたのがよかったのかも。21世紀に売れた日本の音楽では作詞がいまひとつと思えるものが多かった。誰が良き協力者がいれば別の伝え方、表し方が可能で、それがさらにその人やその楽曲を活かすのに、と思える場面が多かったので。DTMや配信でなく、誰かとの関わりから音楽が生れていくほうが自分も愉しめるはずなのに。それと、ここ十年ぐらいの日本の楽曲は早口になっているように感じるけど、これもタイパ?のため?
ぼくはこの音楽に(閉塞感からひらけゆく予兆のような)未来への希望を感じる。Sarahさんの倍音の多い声が小節のように揺らいで(特に抜けるように裏返る瞬間)、それが脳というか身体に浸透していく。車を運転するときも、夜寝るときも「Polaroid Lovers」に浸っている。
Amazonのタイムセールで2096円となっている
Polaroid Lovers/Sarah Jarosz
コロナ下の2020年6月に、前作アルバムをギター1本で歌っている(自宅ライブ?)の映像
https://www.youtube.com/watch?v=i3Z0skP0EeE
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