2024年08月15日

フランスの高原の素朴な歌曲集 オーヴェルニュの歌は盛夏に冷涼な音楽の打ち水


それではと、舞台を(前投稿の)三好市からフランス中南部の高原地域へと。そこで羊飼いに歌い継がれてきた民謡を採取して、管弦楽の伴奏を付加して作編曲されたカントルーブのオーヴェルニュの歌を聴いてみよう。

民謡である原曲の素朴さが耳にやさしい。牧童の初々しさ、朴訥さ、あけすけな生活の歌が源流にあって、管弦の色彩が声を包み込む。漂う声と旋律の美しさは雲が流れる高原にかかる虹のよう。角笛が丘をこだまするようなオーケトレーションの洗練を加えた歌曲集は、音楽の打ち水に打たれた感じ。初めて聴く人はその洗礼を浴びる覚悟がいる。

古くは1960年代のウクライーナ出身のソプラノ、ダウラツによって初演されたが、彼女は半年にも及ぶオーヴェルニュ地方の方言(オック語)の抑揚を習得したうえで録音に臨んだといわれる。

タニア・ダヴラツ(歌),ピエール・ド・ラ・ローシュ指揮(管弦楽団名不詳)、1963年


全曲でもっとも美しい楽曲は「バイレロ」。谷を隔てて聞こえてくる歌は、羊飼いの男女のやりとり。わたしは谷を渡れないから、あなたがこっちへおいでなさいな、と誘っている。清涼な音楽に、睦み合う前の空気感が秘められているなんて。

次の「3つのブーレ」で、ダウラツは羊飼いになって、泉の水ではなく気持ちが良くなるワインを飲みなよ、とか、羊を花畑に放してその間に…とか、素朴だけど濃厚な歌詞を、ときにあけすけに、ときに腰に手を当てて誇らしげに歌う娘さんの趣。無名のオーケストラだが情感たっぷりに寄り添う。彼女のフランス語方言もはまっているように聞こえる(他の歌手と発音が異なる)。郷土色豊かな盤というでは最右翼だ。1960年代の録音だけど、良質のオーディオ装置やタイムドメインのような敏感な再生装置でも音楽に浸れる。日本盤は盤質もよく、しかも歌詞対訳付。これがあることで楽曲の魅力の再現度が違う。

その国内盤も2種類がある。2004年に日本コロンビアから発売された品番COCQ-83799と、2017年にキングインターナショナルから発売された品番GCAC-1012/3がある。ともに2枚組。ぼくが持っているのは前者コロンビア盤だが、後者キング盤はXRCD24bit仕様で音が良いとされる。確かめてみたい気がするが、2004年版の音質もまったく不満はない。やがて後者も入手困難になりそうな気がする。

ダウラツ盤は誰もがこの音楽に描く印象そのものだが、新しい録音というなら、ジャンス盤を紹介。この歌曲集はオペラではないし、そのように歌うと貴族のサロン調となって曲が死んでしまう。ダウラツは牧童の娘らしくてよかったが、ほかの歌手ではところどころオペラティックな歌い方が鼻についてしまう。そんななかで、同じくオペラ風でない歌い方が佳い。おそらくこの曲の最新録音(2004年)。

ヴェロニク・ジャンス(歌)、ジャン=クロード・カサドシュ指揮リール国立管弦楽団、2004年


しかもジャンスは、オーヴェルニュの出身で歌唱は癖がなく、オーケストラもご当地。さらに24bitの録音で透明感がある。ジャンス盤のテンポはやや早めでストレートな表現。オーヴェルニュの歌(全27曲)からの抜粋で主要な曲は網羅されていて抜粋盤で十分。問題は新しいのに入手が難しそうなこと。ぼくは新品で1600円程度で購入できたが、いまは中古で数千円とか。根気よく探さないと中古で高いものを買ってしまうのでご注意。

それに比べると名盤の誉れの高いダウラツ盤は全集だし、入手はまだ可能と思われる。1960年代の録音とはいえ、ダウラツ盤は色彩感では新しいジャンス盤を上回っている。YouTubeなどで音源が見つかるので試しに全曲聴いてみて、気に入ればご自宅の部屋にフランス中南部の高原地方の風を吹かせてみては。

上記2枚とも入手が難しければ、アップショウ、ケント・ナガノ指揮 リヨン国立歌劇場管弦楽団、1994年

アメリカ人のソプラノながら、素朴さを失わず、歌の色彩感があり、バイレロは、二人の牧童(男女)の掛け合いで、一方が谷の向こうから響いてくるような演出がされていて、音による映像を見ているよう。音楽に浸れる点では最右翼だが、ローカル色は薄まってフランスの牧童の雰囲気よりは劇場の歌手の趣。指揮者は繊細かつ細部に血を通わせた伴奏で、純音楽としての音の磨き上げでは最右翼だ。YouTubeでレコード会社公式音源で全曲が聴けるようだhttps://www.youtube.com/watch?v=cQMsSMXU-CM&list=PL1IXBSY4jc2s3ulYvnoPaPiRPFgKC23wf


手持ちの音源。ダウラツ盤のアナログは盤面、ジャケットとも極上の状態。CD2枚はやはりダウラツ盤を手に取るが、清涼感の高いジャンス盤もリッピングして車内でかけることが多い。
オーヴェルニュの歌は、音楽の風鈴。夏の朝、高原の風がそよぐ一日をどうぞ。
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posted by 平井 吉信 at 01:33| Comment(0) | 音楽
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