音楽を聴くってどんな感じだろう? 考えたことはなくても感じることはできる。ここでの音楽はレコードやCD、カセットテープ、音声データなどの再生音源のことで生の音楽ではない。生の音楽は聴きたいときに聴きたい場所で聴きたいように聴けないから。
音楽を再生する。耳に入ってくる。耳を通して入った音が身体に入り込んでいく。どこが心かどこが肉体かの区別はないように感じる。ただ音の振動が波のように波紋を拡げたり共鳴したり。
共鳴? それは何と? わからない。
細胞といえばしっくりくる。細胞が音の響きに共鳴して動く、振動する、波のように伝播する感じ。
それを感じるためには、澄んだ音でなければならない。歪みの少なさ、雑音の少なさ、大きな音から小さな音まで連続して推移する。どんな再生装置でもよいわけではない。
いまぼくがデスクトップで使っているデスクトップPC+asio4ドライバ+JRiver Media Center+タイムドメインlight(チューンアップ仕様)では、空間に放たれた音の粒子や音の波が見える/聞える気がする。元の音源は、パイオニアのBlu-rayライターBXR-X13J-XでCDからリッピングしたもの。これとは別にプリメインアンプ、CDプレーヤー、アナログプレーヤー、カセットデッキ(ウォークマンプロ)、スピーカー3組(クリプトンKX-1、JVC SX-V1、パイオニアピュアモルトSP)がある。
例えていえば、これらの装置で再生すると、音の塊が身体に入り込むと飛散して身体のなかで再び元に戻る、というか輪郭が再形成される。
言葉で表せないことを文字にする意志は大切と思う。道元の正法眼蔵を理解できているわけではないけれど、只管打坐(ひたすら座る)という言葉で表せない何かを、文字で著わそうと(二次元に顕そうと)している様子は感じられる。
音の連なりや早さ、強さ、抑揚の変化も同じだろう。ホモ・サピエンスやネアンデルタール人、デニソワ人が感じる意識を持って奏でる(発する)妙なる音のつながりは言葉より先にあったもの。もしかしたら後期のホモ・エレクトゥスだって空気の震えを意識して発していたかもしれない。
ぼくの手持ちのなかではCDが多い。音質と利便性と保存性からみれば、CDが最良のメディアであると思う。遮光や湿度に気を付けて保管する限り、読み取りは永遠に可能だ。
でも、ここ1年ぐらいのオーディオの動きを見ていると、CDプレーヤーが発売されなくなる時代が近づいているように思える。需要はまだありそうだが、個々の部品を供給するメーカーがいつまであるのか。オーディオに適した電源トランス、電解コンデンサー、増幅の素子やデバイス、回路設計、CDを回転させる駆動系(トランスポーター)、デジタルからアナログへと変換するD/Aコンバーター、小音量まで特性の落ちないアッテネッター(接点切り替えや電子制御の可変式)、リレーやセレクター、デジタル輻射ノイズを軽減する技術。これらの部品は日本で世界でつくることができるメーカーは限られている。そしてこれらのパーツや回路を最終的な音づくりにまとめあげるノウハウなど、オーディオ装置は10年後に存在するといえるのか?
オーディオに限らず、農業や漁業、パンクを修理するまちの自転車店、包丁を研いでくれる刃物屋、小回りの利く職人の技などこれらを提供している人たちを直撃しているのがインボイス制度。社会の崩壊が目に見えているのに、未だに国会議員の不正すら正せず。
いまぼくにできる数少ないこととして、20年を経たCDプレーヤーをそのままに、1台追加しようと考えた。空間に放たれた音楽が、心と身体を区別することなく内部に沁みてきて震える感覚を少しでも長く味わいたくて。
その機種は、繊細に音をほぐしながらも、それと矛盾する芳醇で有機的な響きを持ち、実在感のある音像を結びながら、同時に空間に美しい波を伝播させることができる。それは、音波が粒子でもあり波でもあることの証しのように。
その機種も7月1日から3割の価格改定されるという。次々と装置を買い替えるオーディオマニアもいるだろうけど、ぼくにとっては20年ぶりのこと。リッピング用のドライブ(BXR-X13J-X)は確保済。CDプレーヤも複数確保しておきたい。音楽は生きるうえでなくてはならない呼吸のようなものだから。
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