松田聖子ファンならきっと気になっていること。それは音源による音質の差だろう。そこで、松田聖子の名盤と呼ばれるアルバムから「ユートピア」(1983年オリジナル)を聞き比べる。なお、この作品からPCMレコーダーが使用されたデジタルレコーディングとなった。ぼくの手元にはアナログの初出盤(それもマスターサウンド盤)がある。前作のパイナップルとは明らかに音の鮮度が上がったなと思わせた。しかしDRを使いこなせていないかマスタリングのせいか、アナログレコードで聴いたときもハイ上がりに聞こえていた。
正確な聞き比べではないが、この楽曲をダウンロード音源のWebサイトを使って聞き比べる。まずは同一配信元の通常とハイレゾから。次に異なる配信元同士の同じ仕様での比較など(ただし視聴用の音源が販売用データと同一とは限らず、特にハイレゾは異なるのではと推察)。
CDが初めて発売されたのは、CBSソニーなど3社で1982年10月1日のことであった。ぼくはソニーのCDプレーヤー初号機CDP-101(当時168,000円)を業界筋から借り受けて視聴した記憶がある。そのときの印象は透明感があるが音が固いな(ほぐれないな)というものだった。それでも低域の抜けの良さには驚いた。
松田聖子はソニーのドル箱であったので作家陣や音づくりも力が入っていて、録音技術も力を入れていたのだろう。後年にオーディオ雑誌が独自にSA-CDを限定販売したことがあったが、このときの音質が松田聖子のアルバム史上で最高の音質という評価は不変である(ぼくも1枚だけ持っている。パイナップルやユートピアが欲しかったのだが、気付いたときはすでに売り切れであった)。
自分で聞き比べる人のために以下に配信サイトを3つ掲げる。
●mora
(通常/AAC-LC 320kbp)https://mora.jp/package/43000087/MHCL20154B00Z/?trackMaterialNo=1789579
(ハイレゾ/flac96.0kHz/24bit)https://mora.jp/package/43000100/MHXX01284B00Z_96/?trackMaterialNo=3771094
●OTOTOY
(通常/16bit/44.1kHz)https://ototoy.jp/_/default/p/906575
(ハイレゾ/flac 24bit/96kHz)https://ototoy.jp/_/default/p/823592
●e-onkyo
(ハイレゾ/flac 96kHz/24bit)https://www.e-onkyo.com/music/album/smj4582290407579/
通常仕様では、2曲目の「マイアミ午前5時」がわかりやすい。通常音源では、声が太く圧迫された感じを受ける(聴いていて苦しくなるほど)。これは音圧を上げて圧縮して迫力ある聴かせ方をしているのだろう。電車などでヘッドフォンで聴く人はこれでよいが、音楽に浸りたい人はきついだろうな。
ぼくの再生環境は、デスクトップパソコン+再生プレーヤーJRiver Media Center+アクティブスピーカーのタイムドメインライト(チューンアップ仕様)、聴取距離50センチで微少な差がわかりやすい。CDからのリッピングは、パイオニアBXR-X13J-XからEACで抽出している。その際にエプソンのデスクトップPC(Windows10)では一切の作業やソフトを立ち上げずCPUをリッピングに集中させている(背後で動いているソフトまでは停めていないが)。
先の通常版の音は、パッケージでは音圧が高いといわれるBlu-spec CD2として販売されているシリーズではないかと推察する。それに対してアナログのマスターサウンド盤が基準として、これにもっとも近い音は意外にもCD選書と銘打って廉価版の簡易パッケージで販売されているCDである。「マイアミ午前5時」はのびやかで高域は清涼感、低域は量感は少ないもののよく弾み、アルバムのコンセプトにふさわしい。
これに対し、手元にある「SEIKO MEMORIES ~Masaaki Omura Works~」(Blu-spec CD2、2018年デジタルマスタリング仕様)で「セイシェルの夕陽」を聴くと、もともと収録音量の小さなこの楽曲では、音圧が高いマスタリングが極端には災いせず、細部がむしろ聞き取りやすいが、意外にダイナミックレンジの広いこの楽曲ではやはり圧縮感のある(ピアニシモのない)再生で音楽に浸れない印象。
このあとでCD選書からのリッピング音源を聴くと、音楽を聴いたなという充実感がある。それは音量の大きなところから小さなところやその遷移が心の動きと一致しているから。それを改変しているBlu-spec CD2でのマスタリングはオリジナルの良さを伝えていない。
配信では、通常より圧倒的にハイレゾが良いが、これは方式の違いというよりは元のマスターが違うのが大きいのではないか(ハイレゾでは音圧を極端に上げていないように聞こえる)。Blu-spec CD2はCDプレスとしては秀れた技術だが、それとは無関係の音源のマスタリングには再考の余地があるように思う。
結論として、アナログのマスターサウンド盤(32AH1610)とステレオサウンド社の限定SA-CD(SSMS-005)が最良だが、入手困難(プレミアム価格の中古のみ)なので、ソニーから新たなマスタリングで再発売(例えばハイブリッドSA-CDなど)されない限り、パッケージとしてはCD選書(CSCL-1271)が最良ということになる。
区別がつきにくいのでAmazonでのCD選書のリンクはこちら。
CD選書の視聴はソニーWebサイトから
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&cd=CSCL000001271
タグ:松田聖子
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