2023年11月19日

食品製造販売でもっとも大切なこと 理念と科学


はからずしも予言のようになってしまった。10/28の投稿「おいしさが見える世界観 でもほんとうに大切なことは目に見えない」で指摘を行った。その抜粋はこちら。
限られた量しかできないのは食品製造の宿命として、そこに無理がある場合はすぐにわかる。売れるからといって数日前から菓子を焼いたとしても、良質の材料を使っていることをアピールしていても、その使いこなしがどうなのか? 何より食品にとってもっとも大切な衛生管理や品質管理はどうなのか?

全国ニュースになったのでご存知の方もいるでしょうが、東京で11/11〜12にかけて行われた祭事販売で売られたマフィンが重大な食中毒を起こしてしまった。厚生労働省は「喫食により重篤な健康被害または死亡の原因となり得る可能性が高い場合」に当たるリコール対象とした。おそらく東京都内の自宅でつくっていると思われるこの店は製造法を改めて製造数量を減らしたとしても製造環境が問題ではないかという懸念がする(室内がカビ菌などで汚染されている可能性。であればこの場所ではもはや製造できない)。

徳島でも催事販売で人気のマフィン店がある。販売量から推察すれば作り置きの可能性があるし、現場での品質保持や行列への配慮が見えず、見栄え重視でいつかはトラブルになるだろうと予見できたことから当事者に気付いてほしいと思って書いたのが10/28投稿(食中毒が起こればほぼ廃業に等しいのでお節介と捉えて対策してほしい)。

前回取り上げた模範的な事業者(事業者名を書いていないのは当方の配慮)は、さっそく公式Webサイトで菓子づくりの理念と方針について説明されている。それは、マフィンは当日朝に焼き上げたもののみを販売していること、大学での専攻や食品製造業界での経験から衛生管理を熟知していること、密閉した専門の工房で衛生管理に配慮してつくっていることなどが記されており、「おいしさよりも安全が優る」と結んでいる。

衛生管理については、当日朝に焼けば良いといった問題ではなく、焼いたすぐに急速冷凍(近年はブラストチラー、ショックフリーザー、リキッドフリーザーなどさまざまな急速冷凍機が手頃な価格になってきた)して解凍すれば作り置きでも問題はない。

むしろ材料の持ち込み(土壌菌など)や洗浄、容器の扱いや原材料の選定、加工、保管など全体で語られるべきこと。さらに火を入れる際に副原料の水分率などに配慮しなければシフォンもマフィンも商品にはならない。

例えば、イチゴのマフィンであれば、水分コントロールのできない生素材で焼くなどはありえないので、イチゴをペースト状やセミドライにしたうえで生地への影響と風味のバランスから試行しながら決定する。つまり科学的な調理の知見を基本にしながら素材ごとに試作して確認しなければ、上質の原材料を用いた菓子づくりは行えないというのがぼくの意見。

前回紹介した事業者は毎回異なる素材を活かすためにそれを行っている。当たり前といえば当たり前だが、そんなことは買い求める人には関係ないので、量と価格を見て「高い」などとSNSに平気で書き込んでしまう。

実際にこの店の売りであるシフォンケーキにしても、マフィンにしても、おいしさでも他を圧倒していると思うのだが、店主は安全性が第一との商品づくりを行っている。毎回の旬の素材とその確認、試行を経て安全に提供できる数しかつくらないため、そのため週1回のみしか営業できないのである。

マーケティングのテクニック(行列をつくるなど)よりも大切なのはおもいやり。この社会から「見栄え」や「ルッキズム」などがなくなって本質が光り輝くようになれば良いなと思っている。

良い焼き加減。よく加熱されて外はカリッと焼けているが、中はしっとり。あなたが食べているマフィンは中がパサパサしていませんか?
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スコーン
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クッキーの詰め合わせ
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人気の栗のマフィン
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看板商品のシフォン プレーンもおいしいが、時季それぞれの試みがおもしろい。紅茶とスイカの組み合わせの妙
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追記
かつて山間部の第三セクターの宿泊施設にYショップに加盟して売店を設置してみればと提案したことがある。町内にコンビニがないので宿泊客向け、住民向けにもなる。3大コンビニと違って24時間営業の縛りもなく、独自の町内産品も販売できるゆるやかな運営ルールである。

そのような利点だけではなく、災害時にはヤマザキの持つ風味保持技術が活きてくると思っている。添加物に依存して保存性を上げているのではなく衛生管理を高度に行って保存性を上げたうえであらゆる場面を想定して必要な食品添加物を配合していると理解している。添加物=悪、無添加=安全の単純な図式でなく(安易に添加物を使うのでもなく)、目的に応じた適切な考え方を採用すれば良い。

山間部の自治体ではライフラインの途絶や1本しかない主要道(県道)が通行不能となれば、町民や宿泊客の食事を数日確保しなければならない(町民全員というわけにはいかないが)。そのための意味もある。残念ながら想定される売上高が商品供給の相手先からは足りないということで見送ったとのことであった。

食の安全性は重要であるとともに、場面ごとに価値のあり方は異なるが、規模に関わらず果たすべき義務は同じである。お菓子は誰かの幸福の場面をつくるためにあるのだから(すべての商品やサービスはそうでしょう)。
posted by 平井 吉信 at 12:34| Comment(0) | 食事 食材 食品 おいしさ
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