もともと町営施設であったが、国道55号線から少し入っていること(道路はゆったりとしていて行きやすい)から客足が遠のいた。
その後は民間に指定管理で委託されていたが、2事業者が運営を担うも赤字解消が困難で施設は休業となって10年が経過する。
町営だった頃は入浴料が1,500円と高く、そのため比較的空いていた。
(ホテルリビエラししくいも入浴料は1,500円であった。バブル後はまだ人々の懐が潤っていたのだろう。ぼくも高いとは感じなかった)
付近に人家は皆無でしかも沢沿いの野趣あふれる露天風呂(対岸は人が入っていけない山の斜面)に浸かっているといのちの洗濯の心地がした。屋内には川のように流れる風呂がある。
ぼくと友人の河原君は(頻繁に行かないけれど)ここを気に入っていた。
ただし彼もヒマラヤのトレッキングや南アルプスの2週間(もちろんデポあり)縦走などを経験している山屋なので、温泉に入る前に鬼ヶ岩屋山へちゃちゃっと登って汗をかいておくのである(といっても汗は出ないが)。
きょうは午後から鬼ヶ岩屋へ行くこととした。温泉の駐車場に車を停めてしばらく車道を歩く。やがて耕作放棄の棚田の一角で出る。マチュピチュのような場所である。

ふどの地区を流れる橘川上流の里山を見下ろしながら、その支流の沢沿いに少しずつ高度を上げていく。
やがて沢を横切り、高度をさらに上げていく。


途中で炭焼き小屋の跡がある

この辺りはケモノ(イノシシとシカ)の気配が濃厚。特に沢沿いには水を飲みに降りてくる。沢の下流には田んぼがある。登山道を横切る獣道が目に付く。それとともに登山道が掘り返されている。



おそらくこれが今年最後のスミレとの出会い。これは返り咲きのシハイスミレ。小さな群落がある。花の持つ気品にしばしときを忘れる。




峠(チョウシノタオ)を過ぎるとロープにつかまりながらの急登が続く。落葉樹の葉で地面がすべるのだ。尻餅を付く程度で危険はない。

山頂直下の大きな岩が横たわる区間。鬼ヶ岩屋の語源もこの山容にある。

ぼくはそれまで使ったことがなかったが、熊よけの鈴を買ってみた。それが山でどのように響くかも試してみたいと思った。鈴はモンベルで購入。澄んだ高音で耳あたりが良い。
歩き始めは小さな音と思ったが、これは車道のため。凹凸がある登山道ではそれなりに音が遠方まで到達するようだ。対ケモノという意味もあるが、見通しの利かない場所で登山者を脅かさない意味もあると思う。
鈴や笛は効果があるという意見と効果がないという意見がある。また、熊やイノシシの対処法についても一部では見解が分かれている。数週間前にうちの近所でイノシシが出没し、怪我人も出るなどしばらくは市民が警戒態勢となった。市街地といっても隠れる場所はいくらでもある。例えば線路沿いの藪など。出没後数日は目撃情報があったが途絶えた。おそらく市街地と郊外を分ける国道55号を深夜に超えて山に戻ったのだろう。車を夜遅く駐車場に止めて降りるときは奧をチェックしたりしたものだった。
地球温暖化と里山の荒廃で獣害が増え続ける。熊やイノシシへの対応策については専門家ではほぼ固まった見解があるので、ぼくなりにまとめてみた。
・鈴や笛でこちらの存在を知らせる(基本)。利かないという意見もあるがそれらは例外。
・渓流沿いでは鈴は聞こえず、見通しの悪い場所では笛が効果的。
・笛については熊が嫌がる周波数がある(高域か)。また、笛のなかの玉が雨天で動かなくなったり低音で氷結することがある。笛はフォックス40マイクロなど玉レスの笛が全天候型で安心。
・河原の広い場所では見通しが良いため相互に気付くことが多く釣り人が襲われることは少ない。ただし源流部の釣りでは互いに音が聞こえないことから出会い頭の遭遇はあり得る。
・主に襲われるのは山菜採りである。特にネマガリタケは熊の好物であり、人間にとっては高く売れる山寨であることから見通しの悪い藪の山菜採りで遭遇して襲われることがある。
・四国ではツキノワグマが少数生息しているのみであり、一時は絶滅が危惧されていた。近年はやや生息数が回復しているようである。
・熊は雑食だが、四国のツキノワグマの食べ物は木の実や植物がほとんどと考えられる。そのため食害に遭うことは考えにくい。大半は人間の存在に気付かせれば向こうから逃げていくと考えられる。ただし子連れの母熊は近寄らない、刺激しないことが肝心。
・熊の接近時には気合い(声による威嚇)が有効とされるが、母熊にはかえって攻撃の意図が伝わって逆効果となることもある。しかしそれも熊と人間の距離による。もちろん個体差もあるが、熊は基本的には人とのリスクを避けようとする行動を取る。
・東北や北海道では過去に重大な熊害が発生している。その場合は鹿の駆除後の死体や牧場の牛を襲って肉の味を覚えている。場合によっては人が襲われて食害にあった場合は同じ個体が人間を食糧と見なして襲う場合が多い。このような場合は熊鈴や笛の効果は未知数。しかし一般的には鈴、笛は依然として有効な熊よけとなる。
・熊スプレーは有効であるが、事前にテストをして、安全装置の外し方や風の影響を考慮した有効な射程距離を把握しておくことが必要(公称10メートルでも射程距離は3メートル程度と考えておく)、風上に立たないこと、できれば目を保護するグラスをかけていることなど。
・熊は執着するので熊に奪われた食べ物やリュックは奪い返さない。
・低く大きな声で威嚇することは勇気がいるが、熊に距離を詰められる前に行っておくことは有効。ただし熊は人の感情を読むことができるので恐怖心が表情や声に出ていると逆効果。
・熊が距離を詰めてくるときは所在なさげに近づいてくる。攻撃可能な圏内に入る前に声で威嚇し、さらに侵入してきたら熊スプレーの用意をする、もしくは迎撃態勢を取る。
・迎撃態勢とは、頭を隠して防御に徹する姿勢か、武器や木切れ、ストックなどを持って応戦する。応戦とは熊の弱点である鼻や顔などに攻撃を加える。防御と攻撃のどちらがよいかは一概に言えず熊の個性、間合いなどの状況、遭遇者の度胸や力量などによる。ただし後を向いて逃げたり怯えた叫び声は無意味(避けるべき)。声を出すなら威嚇する強い姿勢で前のめりの感情がにじみ出ること。この威嚇に押されて熊はそれ以上踏み込まず退散することがある。
・熊とは目を合わせる。負けない気持ち、逃げない気持ち、こちらが有利という平常心で視線を送ること。
・イノシシは鈴や笛で存在を知らせて距離を取る、静かに観察するのが原則であるが、こちらに突進してきたら、近くにイノシシが到達できない高さの岩や木があって時間的に対応できるようならそこに移動する。もしくは木の陰や障害物に身を隠す。間に合わなければリュックなどを膝前へ降ろして下半身と脚を防御する。寸前でかわすことも試みる。
・子連れのイノシシは熊同様に襲ってくる確率が高くなる。
基本となる対応は普遍的であるが、変則的な要素をどう判断して対応するかである。こうすればこうなるはず、の思い込みではなく状況を洞察して冷静に行動すること。そのためには知識だけでなく、そこに至るまでの状況を総合的に判断するなど現場での経験、場数も必要だろう。
距離3メートルで遭遇したニホンカモシカ(神山町)。

知らない人は遠目で熊と間違えそうだ。カモシカは鹿ではなく牛の仲間。ニホンカモシカは保護されているので人に撃たれることはない。そのためか遭遇したどの個体も人間を見てすぐに逃げない。人間への好奇心があるのかもしれない。こちらも笑顔で声をかける。カモシカも人を襲うことはない。
春と秋にはよく通う砥石権現。ツキノワグマの生息が確認されている。
https://www.youtube.com/watch?v=dBLLzTCTX1I
砥石権現周辺の森 愉しくて仕方がない山歩き 森の生き物がどこかで人間を眺めているのだろう














勘場山、権田山山系でも熊の糞を何度か見かけている。野生の動物をよく理解し、尊厳と慎みを持って山へ入ることである。
追記
在りし日の鬼ヶ岩屋温泉の写真が出てきた。館内の写真は関係者の許可を得て撮影している(清掃中)



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