年末は第九というけれど、思いがけず第九に出会った。
音源は例の動画投稿サイト。
Beethoven- Symphony No. 9 - Jordi Savall with Le Concert des Nations (complete symphony)1:07:39
https://www.youtube.com/watch?v=FwDo7MdaxhA
(DW=ドイチェ・ヴェレが録音したと思われる音質も極上だ)
指揮者は、Jordi Savall (ジョルディ・サヴァール)、オーケストラは、Le Concert des Nationsという。古楽器を中心とした編成のスペインのオーケストラのようだ。
指揮者の名前もぼくにはなじみがなく、スペインのオーケストラでのベートーヴェンも初物。ところが第1楽章を聞き始めるとそのまま最後まで聴き通してしまった。
古楽器(ピリオド楽器)でのベートーヴェンは、ノリントンやジンマンなどがあって、ぼくもそれぞれ全集のCDを持っている。ベートーヴェンの9つの交響曲は10代の頃から魂の近くに感じている音楽なので、フルトヴェングラーやワルター、ベーム、ムラヴィンスキー、チェリビダッケ、C.クライバーなどの往年の巨匠、スイトナー、ブロムシュテット、シュミット=イッセルシュテットなどの中堅(かつての)、若手ではラトルなど、変わったところではシューリヒトのアナログレコードの全集(田園と英雄が聞きたくて全集を買ったのだ)などもある。
カラヤンの第一と英雄のCDがある。これは2003年2月22日にドイツ連邦共和国総領事館の副総領事ヴィリ・シュペートさん、広報担当翻訳官の大谷恵子さんをお招きしてドイツのビオトープの勉強会を開催したことがきっかけとなった。打ち上げの席でシュペートさんにベートーヴェン愛を語っていると(大谷さんのの通訳を介して)後日、ドイツ国の資料とともにいただいたもの。250年のときと距離を隔ててなおベートーヴェンの音楽は人々の心をつないでいる。


さて、サヴァールの演奏について。サヴァールの演奏は理知的で淡々としているように見えるが、オーケストラの団員は熱演だ。古楽器を使っているので縦の透明度が高く、思いがけず対旋律が浮かび上がっては消えるけれど、そこに関心しているのではない。テンポは早めだが、おそらく近年のベートーヴェン研究の成果だろう。ベルリンフィルやシカゴフィルなどでは重厚なテンポでも音楽が持つが、編成の小さい古楽器オーケストラでは早めのテンポが採られることが多い。それでも伝統的な厚みのオーケストラを聞いた後でも違和感がない。音楽の立ち上がり、立ち下がりが早く、切れ味が鋭い。しかしそれを売りにしているわけではない。オブリガードの存在感でピリオド楽器だと気付かされるけれど、何度もいうけど違和感がない。
まあアレグロ・マ・ノン・トロッポの第1楽章、第2楽章のスケルツォはオーケストラの特性から良いだろう。でもアダージョ・モルト・エ・カンタービレの第3楽章はどうだろう?と思いつつ、第3楽章が始まると、テンポは早い。この楽章は現代オーケストラの厚みのあるカンタービレが良いのではと思うけれど(あの時間が止まったかのようなフルトヴェングラーのように)、室内楽のように音楽が精妙に息づいて天国の木霊のように明滅する。ああ、第2主題……。これ、実演で聴いていたらたまらないだろうな。
第4楽章はもっとも高揚する。ベートーヴェンの音楽もそうだけど、この演奏もそう。合唱も小編成で透明度が高く、ソロの4人も申し分ない。相変わらず音の出し入れが巧みな伴奏と控えめなコーラスだが、物足りなさは感じない。節度がきいているのに熱を帯びているとでも表現すべきか。全合奏では会場の底まで鳴り響く。熱演としか。指揮者は淡々と振っているが楽団員はベートーヴェンが乗り移ったかのようで。ミサのような美しさと透明度にどこかへ旅だってしまいそうだ。
このコンサート(ライブ)は2021年に開催されている。絶叫しないコロナ下でのベートーヴェン。そのように見えて天使の訪れのような終楽章に隠された人間の熱がほのかに確実に体温を上げていく2021年のベートーヴェンなのだ。
買うしかあるまい。青年ベートーヴェンの忠実な肖像画がジャケットになっているこの全集も。
ぼくはこれだけで生きていける―、そう思えたのだ。
第1〜第5まで(YouTubeには英雄と第5があり、これらもすばらしい)
第6田園〜第9まで
YouTube
英雄
第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
第5
第1楽章
第2楽章
第3楽章
第4楽章
タグ:ベートーヴェン
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