2022年08月11日

心のオアシスのようなギタリスト 朴 葵姫(パク・キュヒ) 雲に浮かぶ夢見ごこちの音色


このギタリストは何度か聴いていた。でもAmazonプライムで楽曲を見つけて聞きこんでみたのだ。

技術は飛び抜けているが、ギターを弾かず音楽はギターを包むように内へと凝縮されていく。音色は温かい、線は細くない、響きに溺れない、効果は狙わない。セゴビア、イエペス、ウィリアムズ、ブリームなど欧州の著名ギタリストの誰とも似ていない。

ギターの楽曲はスペインやブラジルなどのローカル色が豊かなものが多いが、彼女は一度ばらして再度彼女の調子で組みたて直す。そのため聞き慣れた楽曲でもどこかリズムやフレージング、強弱が異なって別の楽曲のように聞こえる。東洋人のぼくにはなぜかしっくり来る。
DSCF4021-1.jpg

子どもの頃、親父が持っていた中出阪蔵や河野賢などの手による手工ギターをつま弾くことがあった。中出の表板はドイツ松、裏板はハカランダ(当時は南洋材がまだ入手できた)。重厚でつややかな音色。河野は杉の表板にローズウッドではなかったか。こちらはやや明るく粒立ちが良かったと記憶している。

中学の頃の愛聴盤は、ビートルズやキャンディーズやアリス、中島みゆきなどではなく、ギターの楽曲。特にヴィラ=ロボスの5つの前奏曲が好きで、ヤマハのCA-400プリメイン、シュアーのMMカートの付いたベルトドライブのレコードプレーヤーYP-311、スピーカーは20センチ2ウェイのNS-430。これらは白木の仕上げで当時流行していたパイオニアやトリオ、テクニクスなどのシステムコンポと違って、普及価格帯のバラコンであったが音楽を上品に聴かせる(色づけなくというとわかりやすい)装置であった。しかもNS-430はアッテネッターがなく低域の反応が極めて早い。そのため歯切れの良さはその後に購入したどんなスピーカーも上回った。(残念ながらいまのヤマハのプリメインにはCA-2000やA-2000の遺伝子は受けつがれていないように感じる)。

この装置で中学生がヴィラ=ロボスを聴いているのであった。あれから幾年月、韓国の若い女性ギタリストがヴィラ=ロボスをレパートリに下げて録音したアルバムを聴いた。「Saudade(サウダーヂ)−ブラジルギター作品集−」と銘打たれたアルバムには前奏曲の2番と5番が収録されている(1番をどんなふうに演奏するのだろうか興味がある)。

彼女は決して弦を弾(はじ)かない。ギタリストやピアニストならついこう弾きたくなる。それぞれの固有の楽器を切れよく響かせたい。でもそれをやると、楽器の嫌な面、飽きやすい側面も見えてくる。

彼女はそうではなく、音色はギターとともに音楽がその場にとどまり、聴き手の感情もそこに寄り添う感じ。内へ内へと紡がれる音の原画だけれど、しんねりむっつりしないし退屈もしない。音の響きは決して内向的ではなく外へと波紋を広げていく。さりげないけれど息の長い抑揚、それがもたらすうねりを感じる。もっとも近い日本語の言葉ひとつで表すと豊かさかもしれない。さらに装飾が許されるならば、ゆりかごのような揺さぶるリズム感、楽曲との独白感、心に湧き上がるおだやかな白い雲とでも。

DSCF4023-1.jpg

ぼくがもっとも好きなのは「Saudade(サウダーヂ)−ブラジルギター作品集−」



初めて聞く人はアルハンブラの思い出(これもていねいに弾いている)の入った「FAVORITE SELECTION」



美しい佳曲を味わいたい人は「Harmonia -ハルモニア-」



技術のキレとしっとりと濡れたような表現が両立する「スペインの旅」


コロナで家でいる機会が増えた人へ。心のオアシスのようなギターの音色はいかがですか?
DSFT4316.jpg
(写真は8月のあすたむらんど)
タグ:ギター
posted by 平井 吉信 at 00:22| Comment(0) | 音楽
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。