2022年06月04日

田植えを終えた樫原の棚田(上勝町) 過ぎた日の思い出ではなく未来のあるべき姿を照らす場所として


1996年に学術会議の全国大会を徳島で開催することとなった。この大会は水郷水都全国会議・徳島大会と呼称し、元首相夫人の三木睦子さんを大会長に、徳島大学の2人の教授を代表幹事に置き、アメリカを代表する学者や全国の実務担当者を集めるなど千人規模の大会となったもので、徳島新聞でも前後数週間にわたって特集が組まれた。ぼくはその事務局を担当し、企画、各方面との調整、資金管理(調達と支出管理)、事後の報告書作成やらで明け暮れた1年であった。

大会の前日に全国から集まった参加者に、地元と日本旅行の協力を仰いでエクスカーションを設定した。そのなかのひとつが上勝町で全国棚田百選にも選定された樫原の棚田をめぐるというもの。地元で活動していた谷崎勝祥さんらにご案内いただいた。谷崎さんは樫原の棚田が全国棚田百選となってからもさらに情熱を注がれ、棚田の百姓として生涯を駆け抜けられた。

お誘いを受けて三体の月を見に行ったのもこの頃。これは年に1回、東の海から上る月が三体に分かれて見えるという言い伝え。秋葉神社の裏手の山頂に陣取り、地元のみなさまの寸劇(「綾姫伝説」を題材に樫原在住の竹中さんが凜々しい綾姫に扮しておられた)なども感劇しつつ夜明けを待った。この日は三体の月は見られなかったが、地元の方々と夜更けまで語り明かした。

後に町長になられた笠松和市参事や役場職員でごみゼロの推進者東ひとみさんと出会ったのもこの大会開催をめぐっての打ち合わせがきっかけとなった(笠松参事からは「地元に相談もなく!」とお叱りを受けたのであるが、その後は意気投合して自宅に呼ばれるまでになった)。このお二人はいつも理念を語りながら行動されていた。無念にもひとみさんは五十代半ばで早逝されたが、日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」に向けて地道に精力的に、地元密着&世界視野で行動するなど高い志と精力的な言動が後に続く人たちの道標となった。当時町内のごみゼロを推進する団体の事務局長だった坂野晶さんが2019年の国連ダボス会議で共同議長を務めたことも記憶に新しい。現町長の花本さんも実務能力が高い優れたリーダーである。

つまものをビジネス化した「いろどり」の考案者で(株)いろどりの横石知二さんは不眠不休で上勝での実践を通して日本の農業のあり方に提案をし続けている。農業問題は大規模化や法人化などでは本質的に解決しない。専業農家が楽して暮らしていけることと、小規模の兼業農家が続けていける社会の合意とそのためのしくみが不可欠と主張されている。同感である。

この問題の根底には食糧安保、治水利水と生態系保全、さらには経済や暮らしの質にも直結するので農家の支援という狭い視野で捉えるべきではない(農家が採算が取れる価格で米を販売したら茶碗一杯がいくらになるだろうか? それではつくればつくるだけ損をするという米作りを続けなければならないのだろうか? 国は儲からないから減反せよと2022年でも言い続けているが、有事の際はどうするのだろうか?)。

まずは勝浦川最大の支流旭川流域の田んぼから。小学生の頃、尺のアメゴを釣った場所だ。
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これは2007年10月撮影だが、旭川と河岸段丘上の棚田を俯瞰したもの。樫原の棚田はここからも見えないさらに上にある
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上勝バイオ前から樫原の棚田が最短距離だが、民家や生け垣を縫うように急角度で上る道筋はSUVではきついだろう(山道に慣れない運転手や全幅1.8メートル超えの車は避けた方がいい。その場合は役場の裏手からのルートがいいだろう)

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樫原の棚田へ上がってみると、棚田に水が張られていた。
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前ページでゆこうの酒を紹介したが、そのラベルの1枚がほぼ同じ構図であることに気付いた。写真を撮る人なら見過ごさない構図なのでこれまでも無数の写真が存在するだろう。付近の観望ポイントには棚田を賞賛する写真家たちが名前を連ねた看板があり、地元の写真家に混じってジョニー・ハイマスの名前もあった。
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サロン的な写真では棚田(里山)は伝わらない。何年か時間を過ごすなかで見えてくるものがあると思う
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さまざまな場面が去来する。谷崎さんや地元の方々を思い出しつつ棚田をあとに、次の会議の場所へ向かった。
posted by 平井 吉信 at 13:49| Comment(0) | 山、川、海、山野草
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