2021年12月19日

狸はいまも そしてこれからも 阿波の狸の物語


狸に化かされたことがなければ信じられないだろう。
ぼくも親父も同じ場所で別々の機会に狸に化かされている。
場所は那賀川下流の南岸、桑野川(岡川)との三角州状の地区で
夜間に1時間ばかり同じところを車で徘徊していたというもの。
(親父の車には母が乗っていたので証人がいる。ぼくはひとりで運転していたが自分のことだから信じるまでもない)
ぼくは小学生の頃から地図収集が趣味で知らない土地でも道に迷わない。日本地図など小学3年生の頃には湾や大きな川の位置も含めて宙でかけた。県内ならどこでも土地勘がある(字=あざで話をしてもだいたいわかる)。それなのに迷わされてしまったのだから。

さらに近年になってわかったのは、かねて狸に化かされたことが多いという場所が那賀川北岸(この場所の対岸)にあって目と鼻の先。
http://soratoumi2.sblo.jp/article/177277035.html

2016年10月26日発刊の「小松島タウンニュース 第334号」(徳島新聞小松島市販売店会発行)によると、冒頭の泉正夫さんの「あの話この話」で県内の地蔵信仰が綴られている。
そのなかで、狸に化かされないように地蔵を建てた話として以下のように書かれている。
「那賀川町江ノ島、島尻、西原地区には道を通るときにタヌキに化かされないように建てた地蔵がある」

泉正夫先生は小松島高校の教頭をされていた方で「あの話この話」が書籍にならないかと楽しみにしている。退職後も精力的に活動をされている。


かつて芥川賞候補にもなった作家、三田華子さんの「徳島昔ばなし」には言い伝えが多く収録されている。例えば(記憶違いがあるかもしれないがこんな内容)、徳島市の佐古の辺りで夜に眉山で狸火が見えることがあった。狸が遊んでいるから邪魔をしないようにというのが住民の心情。特にやってはいけないことは、狸火を見ながら袖の下から手招きをすればたちまち火が向かってくるという。実際にやった若者がいて火が近づいてきて腰を抜かしたとか。

まあ、この話は一例だが、阿波の狸の話には事欠かない。スタジオジブリの平成狸合戦ぽんぽこの総大将は小松島の金長狸であった。

小松島市のキャラクター「こまポン」は小松島市の登録商標。竹ちくわを持っている。
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小松島市ステーションパーク たぬき公園の巨大なタヌキ像
(かつて小松島駅があった場所で阿波池田行きの10数両編成の列車が手動の踏切を通って煙を吐きながら行き来した)
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金長だぬき郵便局のポストの上にもいる
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日本たぬき学会の大平正道さんによる講演(2008年11月15日)
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南小松島駅前の泉のある公園のたぬき
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この金長狸にゆかりの大和屋の家系(梅山家)が金長神社の宮司を担われている。
→ 雨に打たれる金長神社 春を迎える日はいつまでか
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阿波狸合戦はかつて新興キネマの映画にもなり、その際に建てられたのが金長神社
宗教法人由来でない寺としては珍しく、長らく市民に親しまれてきた。
小松島市が運動公園に整備するため取り壊されようとしていた際に
地元住民が署名を集めて守るための組織を立ち上げた。
(修繕には1千万円以上かかる見通し。ご寄付は以下へ。清掃のお手伝いも歓迎)
 → 一般社団法人 金長と狸文化伝承の会 

その代表となられて活躍されたのが松村優子さんや地蔵寺のご住職であった。
松村さんからいただいた藍の染料で描かれた書画は宝物となっている。
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→ あいいろ企画株式会社の運営するIndigo MINERVA

マクドナルド小松島店の近くに藤樹寺という寺がある。
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境内の一角で祀られているのが藤ノ木寺の鷹とその子の小鷹、弟の熊鷹という狸である。鷹は金長の一の子分であったが、四国の総大将、津田の六右衛門に謀反の疑いをかけられてやむなく合戦となった折、一騎打ちで六右衛門に噛みつかれた深手を負った金長をかばいながら日開野(小松島)まで逃げ延びたが、鷹は一命を落とす。金長も三日三晩苦しんでこの世を去る。津田方も大将の六右衛門が一騎打ちで敗れて双方の大将が倒れる壮絶な闘いであった。合戦の後、無数の狸の屍が勝浦川下流(論田から大原地区だろう)を埋めたという。
→ 阿波狸合戦のあった勝浦川下流の散策(徳島市南部の論田、大原、小松島市江田地区)
http://soratoumi2.sblo.jp/article/185077495.html

2代目金長を継いだのは一の子分 藤ノ木寺の鷹(当時は寺社などに狸が棲んでいた)の息子、小鷹である。六右衛門の継承者、津田の千住太郎と和解して阿波の狸界に平和が戻った。

ここから始まるのが三田華子さんの「阿波狸列伝」である。
最初は在所の狸の活躍など小咄から始まるが、そのうちなんだかきな臭い匂いが混じるようになる。他国から某かの陰謀が感じられ、今度は2代目金長や千住太郎、それを取り巻く堅気の狸たちの奮闘を描いている。阿波の国、お城下、そして剣山を舞台に繰り広げられる人情話や妖怪変化の怪奇譚、冒険話、陰陽道などが散りばめられてスターウォーズやハリーポッターよりずっとおもしろいよ。メディアドゥさん、版元の小山助学館さんや著作者の三田華子さんのご親族と協議してこれを電子書籍化してみませんか?(紙媒体での流通リスクとどこでも読めるために電子化がいいと思う)
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『阿波狸列伝』第1巻「風雲の巻」、小山助学館、1959年5月。
『阿波狸列伝』第2巻「変化の巻」、小山助学館、1979年4月。
『阿波狸列伝』第3巻「通天の巻」、小山助学館、1979年7月。

お城下の3大女傑狸といえば、臨江寺のお松、興源寺のお染、妙長寺のお睦だが、
うちは毎年冬になるとお睦さんから御札が送られてくる。
そもそもぼくの名前は近所に狸の憑いた方が柳町の路地の奥まった一角に日吉大明神という祠を祀っておられたがその方が付けたという。ほんまか?

小松島というか徳島を代表する銘菓といえば金長まんじゅう。
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生みの親は二条通にあったハレルヤ製菓。
(うちから歩いて2分、走れば1分)
誕生日に買ってもらえるアップルパイやたぬきのケーキは楽しみだった。

水瀬マユさんの「姫さま狸の恋算用」は小松島や金長神社が舞台となったコミック作品。著者のサイン入りの初版を持っている


さても狸づくしのようであるが
今朝の徳島新聞を開くと、「長道のお絹」という徳島市安宅町界隈に住んで美人に化けていたお絹という狸が近頃人々が驚かなくなったので霊力を高めるために助任の万福寺の三太郎狸に会いに出かける途中で夕立に遭い、雨宿りに立ち寄った軒先で下駄師の爺さんに呼び止められて爺さんの話を聴いて諭される(爺さんは着物から尻尾が覗いていたので狸と気付いたがそんなことに構わず人生の深い話を語った)。寄稿されたのは徳島文理大の名誉教授の飯原一夫先生である。

子どもの頃はこっくりさんという遊びがあった。狐狗狸とも書くが、動物のお告げを聞くというもの。ほんとうに動物だったか人間の霊が変化したものかはわからないが、あまり深入りしないほうが良いのは確か。

こんなふうに阿波国、徳島では人と狸が文字どおり境目なく共生していた。
(知的な方も、ふつうのいなかのおっちゃんおばちゃんも狸について語る語る)
蛇足ながら蜂須賀家を藩主とする徳島藩はあるが阿波藩はない。徳島藩は阿波と淡路を所領する25万石であるが、実際は藍商人など藍や塩などの産物の利益(含み益)があって40万石以上とされた。そんな風土のなかで阿波の狸の物語が育まれてきたのだろう。

でもいまは政治家に化かされないようにしなければならない。ニュースやマスコミの報道を裏読みしていかないと真実はわかりませんよ。SNSの情報も悪意を持って拡散させているものを見抜かないと生きていけませんよ。ものごとには動機がある。その動機から見ていく方が真実に辿り着きやすいかも。権力を監視するためやら生態系や人権をより尊重するための憲法改正なら大いに賛成しますよ。
(狸の話題や写真は「狸」のタグからたどってくださいね)

12/20追記
本日、小松島商工会議所へ立ち寄ったら以下の行事があることを教えていただいた。
(商工会議所による88狸の取り組みとその地図

2022年2月19日(土)15:00〜16:30
阿南市文化会館夢ホール
講師:森脇佳代子​『阿波の狸合戦〜物語と地域〜』
「阿波の狸合戦」を郷土史の視点から見つめ直すと、新しいものが見えてきます。
江戸時代の写本、明治時代の講談、大正・昭和の民話、戦前の映画、平成のアニメ映画や小説、町おこし。様々な媒体を経由しながら、独自の進化を遂げてきたコンテンツ「阿波の狸合戦」。
地域性や各媒体の特性、時代の風を自在に飲み込みながら、今もなお世界を広げている「阿波の狸合戦」ワールドを、資料紹介も交えながらお話しします。


12/22追記
本日、小山助学館本店に立ち寄ったら、「阿波狸列伝」の第1巻と第2巻の在庫があった。
(写真はぼくの手元の第1巻〜第3巻)
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さらに店頭で「小松島の歴史と文化―阿波地域文化の特質―」を見かけたので求めた。
2021年3月21日刊の新たな研究成果が盛り込まれている。
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目次は以下のとおり。
・鍍金甲冑で身を飾る人〜子安観音塚古墳をめぐって〜
・コラム 水神社と立江馬淵遺跡・立江柳ノ内移籍
・豊国大明神と小松島
・阿波狸合戦と小松島
・阿波の奇僧 閑々子と小松島
・阿波の円山派の絵師 松浦春挙と小松島
・コラム 小松島のマンホール

なお、著者のお一人が上記の夢ホールでの講演の森脇佳代子さんであった。
書籍の価格は徳島新聞では1,000円と紹介されていたが1320円であった。





タグ: 那賀川
posted by 平井 吉信 at 11:39| Comment(0) | 徳島
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