布製のティシューケースで車内でいつもいる。
いつからかここに棲み着いてどれだけの年月が経ったか覚えていない。
暑い炎天下も寒い路上でも助手席裏で吊されてがんばっている。
人間の鼻がむずむずすると、気を聞かせて「はい」とお腹から取り出すのだ。

そのポンタがしょげているように見えた。
持ち主が車を手放すことを知ってしまったから。
愛着のある車内を離れるのがつらいのだろう。
(ポンタは新しい車に引っ越すことになるのだが)
ものにはなにか目に見えない気配(精神というか魂というか)が宿るような気がする。
ぼくは物持ちが良くて小学校の頃から使っている道具なども未だにある。
(ときめかないものは捨てる、という教祖さまもいるけど、それって?)
そのせいか故障やトラブルはほとんどない。
たまに見るテレビはソニーのプロフィールという15インチのトリニトロン型ブラウン管。
(予備に19インチもある。VHSデッキも当時の高級品が完動状態)
ブラウン管は応答速度が速く経年変化はあっても液晶にはないおだやかな画質が特徴だ。
ペンタックスSPF(スクリューマウントなのに開放測光だよ)、ライツミノルタCL(ライツとミノルタの提携)、ミノルタX-700(篠山紀信や三好和義も使っていたミノルタ最後のマニュアル機)といった往年のフィルム用のカメラはいまも健在で博物館で飾られてもおかしくないほどメカも外観も程度は良い(最初の2台は親父のお下がり。いずれも売る気はないけれど)。
大切にするとは隔離して保管するのではなく、自然体で使いながらも感謝の気持ちで接していくことと思っている。すると、ものはヒトに応えてくれるような気がする。
車もそうだ。最初に乗ったワーゲンゴルフも床に穴が空くまで使っていた(日本の湿気に合わなかったのだろう)。
それからだいたい10年20万km以上でやむなく乗り換えてきた(遠出や出張が多いので出先でのトラブルを避ける意味もある)。今回は11年1か月で21.4万kmである。
ポンタも淋しいが、乗り手も淋しい。
引き渡しの日が近づくと降りるのが名残惜しく
しばし車の後ろにたたずんでエンブレムに手を当ててみる。
色も気に入っていた。ほとんど街では見かけない自然色(セージグリーンメタリック)。
(ぼくは白黒銀赤の車には乗らない)
どこに行っても迷うことなく見つけられるのは乗っている人がいないから。
(ここ数年は地球色や自然色の車がやや増えたように思う)。
ガソリン車(レギュラー仕様)で4AT、AWDと聞くと燃費は良くなさそうに見えるが
郊外で19km/リットルを走ったこともある。
まあ、遠出をすると16km/リットルは堅い。
ディーラーが信用してくれないのでExcelでの記録を見せたことがある。
エコ運転のコツは遅く走らないこと、飛ばさないこと、ただし先を読むこと、(無意識に)微妙なアクセルコントロールをすること、それだけ。
真冬の短距離の街乗りでも10km/リットルを切ることはない。
4速ATは長年の枯れた(安定した)技術で構造も簡単、乗り味も自然で長期間乗るのは悪くないと思っている。

運転席に座ると4隅が見渡せて車幅も掴みやすい。ウインドーの傾斜は立っていて圧迫感がない。アイサイトがなくても安全運転に貢献する見切りの良さや走る曲がる止まるの基本性能の高さがあった。運転席から見えるボンネットからは地球の張り詰めた大気や静かな海洋を思わせる落ち着いた色彩が目に飛び込んで来て心を落ち着けてくれた。




車内も毎日清掃していたので新車のようだ


車を降りるとき、車のエンブレムに手を当てて一日の働きをねぎらう。
(失敗しないという天才女性外科医が手術の終わりに患者の肩に手を当てるあの人気のテレビドラマも似たようなことをやっているけど、ドラマよりずっと以前からこちらはやっている)。
別れの朝、家人も次々とやってきて車に触れている。
年老いた母も酒をかけてねぎらった。
この11年も無事故非接触(金免許を永年続けている)だった。
半導体不足でSUVも足りないのか、この状況で買い取りたい中古車業者が何社もあった。
査定と買い取りが決まった後、
ぼくは引き取られる前日にフロントのヘッドランプ(HID)をそっと新調したのでライトはまばゆいばかりの輝きを取り戻した。
エンジンオイルも交換したばかり、タイヤも1年を経過していない。
新たな所有者に可愛がられて第二の途を乗り手ともども無事で過ごせるよう。
動いている自分の車の後ろ姿を初めて見送った。
(感謝の気持ちがあふれて心の中で手を振る)。
おだやかな運転はおだやかな人生につながり幸福の扉を開ける。
そう思って生きている。
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