2021年10月05日

グリーグピアノ協奏曲 秋の古色を奏でる田部京子/小林研一郎盤


秋が来ると気温が下がり 眼前の景色が黄昏を帯びてくる。
森ですらオータムグリーンの濁りと円熟の色を混ぜてくる。

すみれをはじめ山野草が芽吹く春は愉しくてたまらない。
水を近く感じる夏は翡翠や紺碧に彩られた盛りを感じる。
それでは秋は…。
自然界の物音や風の気配すら音の調べを伴うような。

そこで聴きたくなったのはグリーグのピアノ協奏曲。
レコード盤ではツィマーマン/カラヤン/ベルリンフィルを持っている。
リリカルなグランドマナーといいたい若きツィマーマンのピアノを奔流のように包み込んで豊潤に歌わすオーケストラの詩情。この曲はシューマンのイ短調のピアノ協奏曲を組み合わされることが多く、ツィマーマン版もそうだ。

ツィマーマンは徳島市で公演を行ったことがある。もちろん行った。こんな機会は滅多にないから。演奏はもちろん良かったけれど、コンサート終了後に奥さんの肩を抱いて会場を去って行く彼の姿が印象に残っている。

ツィメルマン(ドイツ語ではこの音が近いのだろう)とも記されるが
東日本震災後からほぼ毎年日本で被災者のためのチャリティコンサートを行っているという。
CDで発売中のラフマニノフのピアノ協奏曲第2盤は名盤とされるリヒテルやアシュケナージとまったく異なる彫りの深い演奏だったが、作曲者が描いた甘美な世界観すら越えてしまった感がある。
(秋はラフマニノフの季節だよね)

外観は内面を表すというが、その哲学者のような風貌と相まって商業主義の匂いがしない求道者のようなピアニスト。尊敬している。


さて、2018年になって田部京子/小林研一郎/東京交響楽団のグリーグのピアノ協奏曲が発売になった。
ぼくはこの組み合わせが気になっていた。手持ちではモーツァルトのピアノソナタK331とピアノ協奏曲K488を絹のようなオーケストラとピアノの対話で演奏されたCDに心弾む。
作曲家にもよるが、田部/小林の組み合わせで聴くレパートリーのピアノ協奏曲は聞き逃せない。いまどきの演奏家に技術の齟齬などあるはずもなく、それだけではない音楽の香りが馥郁と漂いつつ音量やディナミークだけでない情感。録音も絹のような感触だ。

Amazonプライム(音楽視聴サービスがある)に田部/小林コンビのグリーグの協奏曲が載っているではないか。

第1楽章はおだやかに深い呼吸のオーケストラでピアノともどもにきらめきを抑えた表情が印象的。遅めのテンポで細部をほぐしながら悠然と漂う(ピアニズムのきらめきを封印したらグリーグが寄り添ってきたという感覚)。
第2楽章はツィマーマン/カラヤンの豊かな寂寥感も捨てがたいが、小林/東京交響楽団の音色は古色を帯びて胸にしみ入る。隠してもにじみ出るピアノの音色の凛とした透明感は田部さんならでは。
第3楽章は心のピアニズムとオーケストラが前2楽章に比べて楽曲の魅力に劣ると感じる終楽章を木訥につむいでいく。中間部の独白などこの曲はこんなにもしとやかで雄弁であったのかと気付いた。

カップリング曲はグリーグのペールギュント組曲からピアノ編。やはりグリーグはグリーグで通しで聴きたい。同じイ短調だからといってシューマンのピアノ協奏曲と組み合わされるとしっくり来ない。
ピアノソロになると一段と田部京子さんのピアノは独白の色濃く抑制されたピアニズムからグリーグの存在感が立ち上がる。

そして「朝」ですよ。誰もが知っているペールギュントの第1曲。劇音楽だけにオーマンディのような歌わせ方のオーケストラで聴いてみたい気もするけれど、饒舌を脇に置いたピアノで北欧の静的な風景、紺碧の湖やらフィヨルドを見下ろす夏に束の間に咲く植物のたたずまいが谷間の霧のように浮かび上がる。


posted by 平井 吉信 at 01:33| Comment(2) | 音楽
この記事へのコメント
最近こちらのブログを読ませて頂いております。私もクリプトンのスピーカーを使っておりまして、検索に上がりましたのがきっかけです。どれも味わい深いブログに感銘をうけております。またオーディオ関連の記事も楽しみにしています。その後、気になるスピーカーやアンプはございませんでしょうか。
Posted by 大島友峰 at 2022年02月13日 15:33
こんにちは、平井吉信です。お便りありがとうございます。

気になるスピーカーはイクリプスのTD307MK3です。
1台3万円弱でありながら楽器の少ない編成で声を聞くと
1台100万円級にも遜色がないばかりか、それらが「抜け落ちていて付加した音」(ユニットで音の響きを再創造するという意味です)のように感じるなかで、
フルレンジのこのスピーカーは素のままで音楽のおいしさを出してくる感じです。
従来のタイムドメインシリーズは音楽を聴いても愉しくない感じがありましたが
(タイムドメインライトを持っています)
TD307MK3は上級機でも出せなかった間接音の響きや潤い感が出ているようです。

B&Wの新シリーズは以前の金属的な質感と違って
音楽に浸れる感じがします(グレードを問わず良くなったような気がします。上級機種が良いのはわかっていますが、手が届くところで705 Signatureあたり)。

アンプはここ数年の機種でこれといって琴線に触れる機種はなく
いまだに10数年前のオンキヨーのA-1VLを使っています。
中低域を膨らませたMarantzの新シリーズ(Model30)も一見して音楽ファンに受けそうですが、プラスチッキーな付帯音がわずらわしく、どれを聞いても同じに聞かせる個性(→癖)があります。
DENONの110番も音楽に浸れる感じは希薄かも。ヤマハも然り。
そんななかで消去法で選べば、LUXMANの最廉価機種L-505uX2を選びます。

ただし肥大化した回路を再構築した後継機種L-505zが発売されると予想するので
そうなるとこの音楽バランスを保ったまま、もう少し細かい音が出てくると思われます。
上級の507シリーズは505に比べると低域の力感、高域の輝きがあるのですが
声がハスキーに再生されるのが気になるところ(507Zも同様に聞こえます)。

二転三転するようですが、価格と性能を加味するとD級かなと思います。
良いD級アンプが出てくると良いのですが。

地方在住でコロナ下のため、動画の空気録音から判断したものですが、
リアルで視聴しても印象は変わらないと思います。
Posted by 平井吉信 at 2022年02月13日 16:30
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