2021年09月21日

斑鳩から明日香まで古都をめぐる日々は遠く(広谷順子さんを偲んで)


秋が来ると夢のなかに繰り返し出てくる歌(楽曲)がある。

山に囲まれた大和路の四季を教えてくれたのはあなたでした
(中略)
斑鳩から飛鳥へとひとり静かに古都をめぐりたい
(広谷順子/「古都めぐり」から)



歌うのは広谷順子さん。
(YouTube上にあるので視聴してみて)
もし女性だったら大和路を案内してくれる恋人がいたらいい。
風を受けたレンタサイクルでめぐりつつ(明日香は自転車がいい)。
明日香川 明日も渡らむ石橋の 遠き心は思ほえぬかも

ときおり万葉集を引用しつつ振り返っては退屈していないか気に掛けてくれる。
でも実際は「私より古刹が好きなのね」と嫉妬するかもしれないけれど。

このブログを隅々まで読んでいらっしゃる方はぼくが明日香村を好きなことはご存知のこと。
春夏秋と季節をたがえながら訪れていた。
桜の咲く石舞台周辺、蝉時雨の雷丘(いかづちのおか)もいいが、飛鳥川上流の棚田の光景も好きだ。
歌は歌としていつまでも心に余韻を響かせている。
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「古都めぐり」は広谷順子さんのファーストアルバム「その愛に」に収録されている。
ぼくが買ったのはCD選書という廉価版であったが音質は良かった。
(しかしその後に発売されたUHQCDは声がさらに現実感があって買い足すかどうか悩ましい。なぜわかるかって? Amazonプライムに出ているので手元のCDと比較ができる。Amazonの低い帯域からもこのUHQCD版の生々しく地に足の付いた存在感がわかった。余談だけどレコードはA面5曲、B面5曲が多く、その場合だとAD46とかXL-146,HF-S46=要するにノーマルポジションの46分テープにダビングしていたよね)


このアルバム、いま気付いたけれど、編曲は全曲松任谷正隆で参加している演奏者は以下のとおり。
松任谷正隆(key)、高橋幸宏、林立夫 、村上秀一(ds)、高水健一(b)、鈴木茂 、松原正樹、吉川忠英 (g) 、斉藤ノブ(per)ほか豪華メンバーがサポート。オールスターを見ているような。でもあまりおかずを入れずに広谷順子さんの声を活かしているね。

けれどきょう知ってしまった。
2020年1月に広谷順子さんが亡くなられていたことを。
はやすぎるよ。

この方は歌の世界観がぶれることなく、年々純化していった感が強い。
ソロから、夫との2人ユニット「綺羅」になってからは万葉の逍遥のごとく。

80年代の日本の音楽は音志向(もっとも世界的にそうだと思うが)で
歌詞はというと、英語のフレーズがファッションのように装飾された歌詞を
腕利きのプレイヤーが粋をこらして曲を編み上げて涼しげに聴かせてくれた。
(それはそれで好きだけど、あの部分的な英語フレーズは苦手。例えばこんな感じ「夏空を追いかけた on the road あなたの横顔 見上げた blue sky 逢いたくて just the moment…架空の歌詞だけど当時のシティポップスと呼ばれる分野に多かった。でも広谷順子さんの音楽は日本語でそれも抽象的でなく歌詞が文章になっている)

「夏恋花」と題して世に問うた綺羅の1枚目のアルバムはさらに進めて万葉集の世界。
言葉を選び空間に放つ音の響きと多重録音の声が夢か幻かという音絵巻を魅せてくれる。
平安に迷い込んだような「さくら」に続く2曲目の「陽だまり」はいまの時代にこそ聞いて欲しい。
人の心の上澄みにある軽やかな夢心地をぽつんと空間に放つ。手練手管は感じない。
3曲目はアルバムのタイトル曲でもある「夏恋花」。
男女の声が空間にたんぽぽの真綿のように浮かび上がると順子さんの楚々と妖艶な童女のような声。
日本のポップス史上、この楽曲、この歌い手に似た存在を知らない。
海が見える丘を駆け下りた遠い少年少女たちの回想のように。


綺羅では童謡集を2枚出している。これは親密な日本の庭で遊ぶ愉悦がある。
http://www.kira-net.com/cd/tokinonagori1.html
http://www.kira-net.com/cd/tokinonagori2.html
次はこれを買いたい。


これもYouTubeを見ていて初めて知ったけれど
広谷さん、セーラームーンの楽曲を歌っている。
放課後の胸がキュンとする世界が直球で飛び込んでくる(「 Moon Heart Sequence」)。

鈴虫の「凛」と少女の「楚々」に人肌の温もりを加えたような声の人。
音楽っていいなという思いと誰もが遭遇する喪失感。

明日香も斑鳩も当分は行けそうにない。
秋に聴く古都めぐりはさみしい。いまゆえに。
いつか別れはくるものとなぜ知らずにいたのだろう♪(「古都めぐり」から)

(広谷順子さん、さようなら)


タグ:童謡・唱歌
posted by 平井 吉信 at 23:38| Comment(0) | 音楽
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