2020年11月21日

「毎回」異なるメニューなのに…。素材系焼き菓子店howattoの秋は深まる


地元の素材を使った焼き菓子というのはどこにもあるのだけれど
この店は毎回高い水準で商品を揃えてくる。
「毎回」というのは、金曜のみの営業でありながら
同じ商品ラインナップはほとんどないという企画のとんがりである。

11/20(金)のhowattoのメニュー
カットシフォンケーキ
・新鮮卵と牛乳
・キンモクセイ
・レモンヨーグルト
・エスプレッソと栗
・いちじくと紅茶
ホールシフォンケーキ(新鮮卵と牛乳)
栗のガトーショコラ
ビスコッティ(プレーン、バジルチーズ)
カフェオレとカシューナッツのサブレ
ココナッツと佐那河内みかんのサブレ
シフォンラスク
スコーン(プレーン、ビーツ)
マスカルポーネとみかんのマフィン
実生ゆずのコンフィチュール


地元の素材を自らの目と舌と相手の人柄も見ながら選んでいる。
売るための素材(マーケティングの差別化)ではなく
納得したものを使っているという姿勢。
そしてそれを菓子として完成の高い領域に持って行くプロ意識。

例えば、ゆずを使った菓子はちまたにあふれている。
そのどれもがおいしいが、どれも似たような感想だ。
(ぼくがつくってもそれ以上のものはつくれそうな感じがする。自作の梅干しや梅酒は高価な市販品に負けている気がしないので)

ところがhowattoでは素材の特徴をどのように強調しどのように引っ込めるかを試行しながら菓子としての高い完成度に持って行く。

例えば机の上に置かれていた焼き菓子を子どもが戻ってきてほおばるとする。
その途端、既存の菓子との違いに気付く(もちろんうんちくは知らない)。
店主であり企画製造を行っている伊豆田裕美さんに話を伺うと
毎回、「こんな菓子は食べたことがない」と驚きの感想が寄せられるという。
howattoの菓子はInstagram映えはしないが、それがホンモノたるゆえん。
(おいしさと見た目は比例しない。むしろ反比例する)

数ヶ月ぶりに店に立ち寄って購入したのは4品(約1800円)
・実生ゆずのコンフィチュール(木頭産のゆず、砂糖)
・金木犀のシフォン(卵、砂糖、小麦粉、牛乳、植物油、自家製の金木犀、塩)
・ココナッツと佐那河内みかんのサブレ(国産小麦粉、バター、砂糖、卵、ココナツ、佐那河内のみかん、塩)
・みかんとマスカルポーネチーズのマフィン(国産小麦粉、卵、バター、きび砂糖、クリームチーズ、徳島県産みかん、マスカルポーネチーズ)
DSCF1200-1.jpg

毎回のテーマはブログで事前に告知されているが
今回は実生ゆずのコンフィチュールのようだ。
https://howatto.jp/%e5%ae%9f%e7%94%9f%e3%82%86%e3%81%9a%e3%82%92%e3%81%94%e5%ad%98%e3%81%98%e3%81%a7%e3%81%99%e3%81%8b%ef%bc%9f/

徳島県木頭地区(旧木頭村)と高知県馬路村は全国屈指のゆずの産地である。
なかでも実生ゆずのすばらしさについては木頭村の人たちから聞かされていた。
当時の村長、助役のご依頼で(株)きとうむらの役員となっていた頃の話である。
(株)きとうむらはダムに頼らない持続的な村の発展を担うべく特産品のゆずなどを活用した特産品開発と販売を手がける会社である。そのゆず製品が通販生活の冒頭に掲載されたこともあるなど良質の製品をいまも供給している。

助役はこの第三セクターの責任者であったが、当時の木頭村はダム建設反対を掲げて国と対峙する厳しい状況にあった。経営の先行きを考えて思い悩まれてのことと思われるのだが助役は自ら生命を絶たれた。痛恨の極み。そのご子息が思いを持って立ち上げた企業が上場して故郷にキャンプ場、ゆず製品の製造販売を行う会社を相次いで設立して父の思いを叶えようとされているのはご存知のとおり。
その物語が2020年11月書籍化された。
奇跡の村 木頭と柚子と命の物語

さて、このコンフィチュール、パンにつけてもヨーグルトにかけてもいいが
そのまま食べるのが良いように思う。
DSCF1208-1.jpg

ゆずの強い個性が消えて純度の高い酸味と対照的なやわらかな甘み、それに蒸留されて純度が高まったような香り。
時間とともに口のなかで千変万化の移ろい。
だからそのままスプーンですくって味わうに限る。
(伊豆田さんによれば調理ではなくもともとの実生ゆずの個性のようだ。ぼくはゆずとゆこうの良いところを両取りしたような気がするのだが)

次にみかんとマスカルポーネチーズのマフィン。
DSCF1211-1.jpg
柑橘の酸味と香りはトッピングだけでなく生地にも感じられる。
もともとの生地にはコクがあり、上品な口溶け感で消えていく。
そこにチーズがつなぎを果たして豊穣な味わいを余韻として付加する。
毎週毎週異なる菓子を企画(試行錯誤)していたら体力がもたないのではないかと思える。
お菓子の価格は決して高くないが、そこに込められた作り手の思いは深い。
DSCF1213-1.jpg

howattoの定番といわれるシフォンとサブレはまた後日に。
三連休に紅茶、コーヒー、緑茶と合いの手を変えながら少しずついただこう。
(でも次週には同じものはないのだ)

金曜午後のみ営業の焼き菓子店howatto
https://howatto.jp/
(予約もできるので売り切れは回避できる。次回は栗の特集のようだ。)

追記
翌日、金木犀のシフォンとココナッツと佐那河内みかんのサブレをコーヒーと紅茶でいただいた。
シフォンはムースのような口当たり。
そして素材の風味が口内をしばし漂いはかなく消えていく余韻を味わえる。
サブレはもっと積極的に舌になじみながらコクを伝える。
けれど次の瞬間にはもうそこにない。
時間の刹那を感じる焼き菓子である。

タグ:howatto
posted by 平井 吉信 at 12:49| Comment(0) | 食事 食材 食品 おいしさ
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