二六〇年余りにわたって吉野川に溶け込んだ構造物がある。
第十の堰である。
当時の第十村にあったことからこう呼ばれる。
この堰は農業用水確保のため、江戸時代中期に作られたものである。
石積みの景観は周囲に溶け込んでいて、付近は魚介類や野鳥の宝庫である。
往時は青石を積んだ堰の上を水が越えていき、
その流れに乗ってアユやウナギがたくさん上っていった。
阿波十二景の一つ「激流第十の堰」と記された昔の絵はがきには、
満々と水をたたえた川面に白帆を立てた川船と、
堰の南岸の浅瀬に仕掛けられたヤナが澄んだ水底の石ころとともに映し出されている。
「ここに立ったら、気持ちがすうっとするわ…」
人々は土手の上から、広々とした風景を眺めていた。
堰は、子どもたちの恰好の水遊びの場所であり、
仕事が終わった大人たちは夕涼みがてら四方山話を咲かせたという。
石積みの柔構造のため、大水が来れば補修は必要だっただろうが、
地域の人々の手によって二六〇年にわたって維持されてきた。
しかしそのために、上流と下流の水の循環、物質の循環、
生態系のつながりが妨げられることなく自然に溶け込んだと考えられる。
維持管理に地域の人々がかかわることで川との密接な結びつきが生まれ
川を知ることにつながった。

2020年夏の第十堰、人影はなく、ただ夏草が生い茂る。
あの人はどう思うだろう?
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