山犬嶽(やまいぬだけ)は標高1000メートルに満たない里山だが
中腹にある苔の生い茂る庭園のような光景が人々を魅了する。
以前にも注意点を書いたのでご一読を。
http://soratoumi2.sblo.jp/article/186999291.html
・駐車場は登山口の2km手前にしかない(登山口は民有地なのでプライバシーにも配慮が必要)。
・駐車場までの道が狭く山道に慣れた人でも運転の難易度は高い。
・苔の名所は迷いやすい。
さて、駐車場にクルマを置いてしばらく歩くと
全国棚田百選の「樫原の棚田」(かしはらのたなだ)がある。
まずはここで足を止める。



棚田を後に車道を歩いて高度を上げる。
日陰がなく風のない夏の日は暑いと音を上げる人もいるだろう。
(少なくとも1リットルの飲み物はご用意を)
路傍の花に集まる蝶



民家の裏手を登っていくと鳥居と動物よけの柵がある。
(ぼくが登ろうとしたら開けたままになっていた。登山口で遭遇した下山の集団が締め忘れたようだ。暮らしの営みの邪魔にならないようルールは守ろう)
一人で山へ入るのは魔の山に入っていくよう(里の世界との結界を超える覚悟で?)。
(実際に信仰の場でもあり何かを感じる人はいるかもしれない)

歩き始めは間伐と枝打ちがされた杉林を歩く。

やがて分岐が見えてくる。苔の名所を見るので迷わず右へ(左は山頂)。
途中ですれ違った夫婦が感激した様子で「想像以上に良かった」と感想を述べてくれた。

山犬嶽をもののけ姫の世界、屋久島の森のよう、と形容する声が多いが
実際に屋久島を体験したぼくは似て非なる景色と思う。
屋久島では花之江河を経由して宮之浦岳の15kmを8時間で往復。
このときは65リットルのバックパックに20kgの荷物を担いでいた。
別の日に白谷雲水峡、小杉谷、縄文杉、高塚小屋(泊)を二日で往復した。
屋久島の森に浸った感覚からは
三嶺の南斜面、フスベヨリ谷のほうが似ていると感じた。
何はともあれ、苔むした森を散策してみよう。
まずは分岐を左手を北に上がっていく。
小ピークを見てぐるりと回ることもできる。
降りてきたところが谷筋で水苔の名所。
北をめざせば谷を越えて表参道と呼ばれる山頂へのルートに出会う。
水苔の名所を右(東から東南)へ行くとさきほどの分岐があるはずだが、左(北東)へと行く。
険しい大岩の地形が続々と現れるが、1/25000地形図では見出せない。
さらに進むと広葉樹を見渡せる大岩の上へと出る。
ここから下ると登山道の入口付近へと戻る回遊が可能だが
ここの下りは道を発見しにくい。
地形図を見ると尾根と谷が入り交じったゆるやかな地形。
登りと下りがはっきりしないことに加えて
地形図に掲載されない凹凸やピーク、巨岩が随所に現れる。
さらに苔の庭園内に踏み跡が縦横にあるため
ぐるぐる回るうちに方向感覚を失い
似たような場面で既視感が交錯して道迷いしやすい。
(慣れない人は月ヶ谷温泉の主催するツアーに参加するのが無難。体力的にさほど厳しいものではないが、クルマを止めて登山口までが木陰がないため夏場の熱中症に注意が必要)









登山口へ降りてくると目の前のこんもりとした森に秋葉神社がある。

この神社は山頂にあって南東に視界がひらけて橘湾が見える。
旧暦の七月二十六日(あと三日で新月になる)に月の出が三体に分かれて見えるという
「三体の月」で知られる。
それが三体の月を仏様として崇めるのだが
二十六日月ということで月が登り始めるのは深夜を過ぎてから。
夏といえども夜は涼しい。
甘酒を飲んだり話に花を咲かせながら親しい人と月を待つ。
三体の月を見るという第1回のイベントが開かれた際
招待されて参加したことがある。
確か谷崎勝祥さん(地元で棚田保全の活動をされていた)だったか。
武市卓也さん(たくちゃん)の司会で幕を開けて
地元の方々による演劇が始まった。
綾姫さまという凛とした佇まいの女性が登場するのだが
綾姫に扮しておられたのはお近くにお住まいの竹中充代さんではなかったか。
(とにかくこの辺りから上勝町にお住まいの方々との交流が始まっている)
そのとき三体の月は見られたか?
―覚えていない。
曇りだったのか見えなかったのかは記憶から消えている。
ではなぜ三体に見えるのか?
それは大気の屈折現象のようなものではないかと思う。
水温が高い夏場の橘湾で明け方に気温が下がり
それを離れた上勝町の山域から眺めるとき
海の大気と阿南の平野部の大気と山の大気が複層になって
そのなかを月が上がってくると3枚の空気レンズを通して見る状況になるのではないか。
(こう書くと身も蓋もない)
三体の月は古くからの信仰だけど、
人が集まる口実(きっかけ)として今後も語り継がれていくといいなと思う。
樫原の棚田を守った谷崎勝祥さんの自称戯れ歌をいまも覚えている。
ひゅうと鳴き棚田に近づく鹿たちよ紅葉の山へ帰れよはやく(棚田人→鹿)
去れという棚田の人よ紅葉山いずこにありや杉ばかりみゆ(鹿からの返歌)
苔の名山は人々にもののけ姫の記憶を漂わせながら
里山の営みを感じさせてくれる。
登山道から駐車場まで樫原の集落の車道を歩いて行く

ホタルブクロが至るところで咲いている

ヤブカンゾウがつくりだす里山の空間 時間がゆっくり流れて巷の喧噪とは無縁

途中で見かけた自然度の高い神社(山の神蜂須さんというが由来やご祭神はわからない)
つるぎ町にも蜂須神社がありその分祀された神社かはたまた独自の存在なのか?
(つるぎ町の蜂須神社もその存在がかなり気になる。貞光川沿いの断崖にあるというのだ)


樫原の棚田に佇み棚田を大切にしながら去って行った谷崎さんや東ひとみさんを想う



棚田と水苔の里山は見頃を迎えている。


(ツアーで参加する人は月ヶ谷温泉へ)
https://yamainudake.com/
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