レコードで持っていてずっと買いたかったアルバムがある。
それが昨年だったかデビュー40周年を記念してリマスターアルバムが発売された。
それからも買うタイミングを見ていた。
(インターネットでは価格が変動するのはご存知のとおり)
その人は過去の楽曲が海外でも注目されている。
「プラスティックラブ」がYouTubeで2800万回再生されたという。
(それも非公式にアップロードされたもの)
萌えキャラを描くことも流行しているらしい。
その人は竹内まりや。買いたかったアルバムは「Portrait]
80年代の日本のポップスは日出づる国の勢いがもたらした副産物。
伸びやかでアーティストが好きな楽曲を親密な関係で演奏しているのがわかる。
(先日は二名敦子を紹介)
「80年代の自由な風から生まれた音楽たち」
(二名敦子)http://soratoumi2.sblo.jp/article/186241479.html
Portraitの発売は1981年10月。ぼくはリアルタイムでLPを購入した(初回プレス)。
アルバムを横溢する自然体の空気はこの時代ならでは。
王道のコード進行でおおらかにうたう。
(加山雄三の世界に通じるものがあるね)
過密なスケジュールのなかで充実したときを過ごした人たちの同窓会のような愉しさ。

収録曲を見ていくと、同じ時代に録音されたライブ音源がうれしい。
アナログでいうA面は60年代ロック、オールディーズの雰囲気が漂う楽曲。
なかには「僕の街へ」のように当時の彼女の心情を代弁した楽曲も含まれている。
B面ではシングルカットされた「イチゴの誘惑」が大好き。
イントロを聴くだけで心が弾んで仕方がない。
少ない音と単純なコード進行と歌心。
(ワンツースリーと合いの手を入れるのがRCAシスターズと呼ばれるEPO、大貫妙子、まりやの3人。ささやく声の3人がおかしくて笑いが止まらなかったそう。それに釣られてまりやさんも本編でぶりっこの歌い方になってしまったそうな。この曲はプラスティックラブのようなシニカルな歌い方でなくてよかった)
楽しそうだなって思わせることがプロの仕事。音楽ってこれでいいねって思う。
アイドルとしての竹内まりやをもう少し聴きたかったとの思いもある。
(デビュー曲「戻っておいて私の時間」のテレビ出演時)
https://www.youtube.com/watch?v=jmIEgAF8Lxk
「Natallie」では西海岸風の音とともにヒロインのサクセスストーリーとそこで失った何かが描かれる。そして彼女の英語の発音(音楽ではなくて)に癒されるというおまけ。そこに「しあわせって何?」という彼女の自問自答を含んでいた(深い)。
ぼくがもっとも好きなのは「ウェイトレス」。わずか3分ばかりの佳品はトライアングルで開始を告げる。まりやの声が「微笑みに見とれてたら葡萄酒を注ぎそこねた…」と独白する。ここは海に近いホテルのパティオ。彼女はウェイトレス。短編ドラマの叙情を漂わせる作詞はまりや、曲は達郎。ハーモニカの間奏のあと時間が流れるとハッピーエンディングへと導かれる。静かなエピソードの愛らしさ。そしてボーナストラックではライブでも収録されている(MC入りの悶絶もの)。
「 Special Delivery ~特別航空便~」ではその場に居合わせた大人が外国の子どもの声帯を真似て「サンタクロース…」とうたっているとか。ここでも幸福の本質がまっすぐに見える。
アルバムを締めくくる「ポートレイト ~ローレンスパークの想い出~」。回想の冬のまちなみ、17歳のまりやさんの後ろ姿が見えるような楽曲。切なくもなつかしい一ページが閉じ込められたノンビブラートのバラード。
〔収録曲〕
ラスト・トレイン
Crying All Night Long
ブラックボード先生
悲しきNight & Day
僕の街へ
雨に消えたさよなら
リンダ
イチゴの誘惑
Natalie
ウエイトレス
Special Delivery ~特別航空便~
ポートレイト ~ローレンスパークの想い出~
ウエイトレス [LIVE Ver.] [Bonus Tracks]
Natalie [LIVE Ver.] [Bonus Tracks]
Special Delivery ~特別航空便~ [LIVE Ver.] [Bonus Tracks]
Crying All Night Long with/伊藤銀次 [LIVE Ver.] [Bonus Tracks]
ラスト・トレイン [LIVE Ver.] [Bonus Tracks]
リンダ [LIVE Ver.] [Bonus Tracks]
添付されたライナーでは楽曲ごとの録音の背景が解説されている。
追記
リマスターの音についても触れておこう。
アナログと比べても低域の抜け感がずばらしい。
(ご主人の息がかかっているよね)
土台のクリアな安定感はデジタルならではで
声が空間に浮かび上がる。
(帯域は広げておらずそれが中域の密度感を損ねない)
中高域は自然に粒立たせているがこれはアナログが優るかもしれない。
(イチゴの誘惑のキーボードの落ち着いたきらめきはリマスタリングの成果かも)
追記2
お会いしたことはないが
竹内まりやさんは人生を迷わず意思決定をしながら生きている感じがある。
人に媚びないが尖っているのではなくそれが自然体。
アイドルのような登場からこの5作目のアルバムまでわずか数年だが
時勢を味方にやれることをやったという満足感があるのではないだろうか。
InstagramerやFacebookerは誰かに承認を求めるが
それがないと生きていけないのは幸福とは言えない。
まりやさんは誰かと比べない世界観を当時から漂わせていた。
自分を輝かそうなど必要がない、あなたはあなたらしければいいの―
そんなメッセージが聞こえてきそう。
リラックスした歌い手に聴き手も浸れるのだ。
(いまの時代にはこんな音楽が生まれてこないのは時代を映しているから)
日本が世界のリーダーをめざして走っていた時代、いまからでも遅くないと思う。
追記3
NHKの紅白歌合戦に初出場されるようだ。
https://www.mariya40th.com/news/20191122.html
(ここ数十年見たいと思わなかったが見てみようかなと)
タグ:二名敦子
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