2019年09月01日

海部川ミネラルヒーリング イワタバコが咲いた夏


国道193号線は高松と海南町を結ぶ南北に縦断する国道で
塩江温泉→ 脇町→ 山川町→ 美郷村→ 神山町→ 木沢村→ 上那賀町→ 海南町と続く。

海部川沿いのこの道はかつて舗装していない区間があり
(いまも名残が見られるが)対向できない道だった。
でもその頃の海部川は人が少なく
特に中流には竹林に遮られた河原へと出られるこみちがあり
そこには桃源郷のような場所があって星空を見ながら火を焚いた。


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年降雨量が三千ミリを越え、平均気温が一六度以上の海部川上流の山間部には、
ニホンカモシカ、サル、イノシシが生息する。
ひとたび雨が降ると、王餘魚(かれい)谷の轟(とどろき)の滝には飛沫で近づけない。
川沿いにわずかに開けた土地に水田と集落が点在し、海まであとわずかというところでさえ、アメゴが棲んでいると地元の人が教えてくれた。

初秋の一日、川遊びをしていたら、思いがけない生き物を見かけた。
一瞬目を疑ったが、青や黄色の小さなスプーンのような熱帯魚の群れ。
海から迷い込んだのだろうか。黒潮に乗って運ばれ、故郷に帰ることも日本の冬を越すこともできない南の海の魚たち…(ここは海の水が遠く及ばない中流域である)。

四国の海がもっとも快適なのは、九月から十月にかけてである。
真夏の暴力的な陽射しはなく、渚は静けさを取り戻す。
水の透明度は格段に上がり、クラゲは岸を離れる。
依然として水温は高い。気温が凌ぎやすくなるため、むしろ水を温かく感じる。夏の名残をとどめた九月の風に吹かれて、ほんのり秋の隣の晩夏に浸る。

日焼けした腕を沢に浸す。
ぽたぽたと雫が落ちる腕からは、西瓜の匂いがした。
山からの湧き水は夏でも冷たい。沢が流れ込む水際に川海苔が生えている。

ゆらゆらりゆれゆらら────────

葉っぱが一枚、また一枚流れてきた。
流れに飲み込まれる葉っぱもあれば、流れに逆らおうとして沈んでいく葉っぱもある。流れに身も任せながらも自分で流れを選んでいるようにみえる葉っぱもある。
川は変わることなく、空からの贈り物をせっせと海に運んでいる。何も減らさず、何も付けくわえず…。
せせらぎに耳を澄ませば、やわらかなヤ行の音が聴こえる。

やあろよろ よろやろよろ やろんよろ

生命の活動によって生じるさまざまな背景音が潮が引くようにやんでしまう。風も止まる。その静けさを縫って、厭世観を感じさせる蜩の声が響きわたる。

かなかなかなかなかな
ずぃじぃずぃじぃでぃじいぇ

草むらで突然思い出したように鳴く、擦り切れる虫の声。

ちょんぎいす ぎっちょ すいっちょん

河鹿の鳴く声が川面に木霊し、星がひとつふたつ輝きはじめる頃、水面のきらめきが溶暗していく。音のない水紋が立つ夕暮れ、河童が遊ぶ川の時間…。


夜になると、テナガエビが深みから這いだしてくる。
浅瀬をヘッドランプで照らすとエビの目がオレンジに光るのだが、慣れてくると体の方が見えるようになる。
ここにいそうだ、と思うとそこにいる。先入観を持って見つけるのがこつである。
見つけたら周囲に気を配りながら、小さなエビタマを尻尾からかぶせ、網の上から指で胴体をつかむ。長い手をふりかざしてなかなか網から出ないこともある。
夜の闖入者に驚いたモクズガニが川底を移動していく。赤腹のドジョウは玉砂利に体をくねらせている。

灯に照らされた水底は、波がなければ水があることさえ忘れてしまう。川の流れは一定に見えて実は小刻みに上下し、一団の水塊が川を走っていく。底の石ころが見えたり見えなかったりするのはそのためである。昼間わからなかった川底を滑っていく透明な水の存在に感動する。いつ見てもこのときめきは薄れない。

対岸の山から木の枝の折れる音と猿の遠吠え。流木を集めた焚き火は火の粉を舞い上げ、燃えたくない竹は火に抵抗して獅子脅しとなる。
「あっ流れた!」
流れ星がひとつ、ふたつ──。

ひたひたと天の川は夏の空にたゆたい、すうっと星が流れる夜の献立は、山菜とドンコのみそ汁にテナガエビの塩ゆで、川海苔をまぶした炊き立てのご飯、そして笹をあぶったお茶。

焚き火は風に煽られて燃え盛るが、やがて火の勢いが衰える。
流木を投入する。黒い瞳に焚き火が瞬いている。
炎のゆらぎを見ているとだんだん無口になり、火の向こうに素顔が現れる。暗闇にそこだけ灯る空間、その数光年先には星夜がある。焚き火をぼんやり眺めながらまどろんでいるうちに眠りに落ちた。

 パチッパチ ザクッ
 夏はいつか終わる…

川のほとりで夢を見ていた。朝になればうるさいほどの小鳥のさえずりがあることさえ知らずに。

(「空と海」から)

海部川上流に流れ込む王餘魚谷(かれいだに)にある轟の滝を見よう。


轟神社
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滝壺へ向かう道中で龍神が祀られているようだ
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岩の裂け目から怒濤のように落ちる。
趣の深さでは他に比類するものがない。
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涼しさを感じるのではなく空間に浸るという感じ
山の恵みのミネラル水がそこかしこに飛沫を上げているのだから。
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イワタバコが濡れた岩肌で咲いている。
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天然色の山野草といいたい色合い
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飛沫に打たれながらも全身全霊で咲いている
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珍しいタニジャコウソウのようだ。息を飲む玲瓏としたたたずまい
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海部川上流の屈曲点、皆ノ瀬(かいのせ)。
ここから国道193号が合流する。
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中流に向かう赤橋と大岩は海部川有数の遊び場所
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(かつては通称赤橋だったが緑橋になっている。この岩の直下は海部川でもっとも深い淵で水深10メートルはあると思う。地元のAさんが大物アメゴをねらって釣り糸を垂れていたことを思い出す)

キャンプに最適の場所だから人気がある。レジャーランドのよう(といっても十数人)。
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3千ミリの雨と河畔林、ダムのない川が海にもたらす恩恵ははかりしれない。
これがミネラルヒーリング。
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日本に海部川がないのなら住む価値がない。
そう思って高校の頃から自転車で通っている。
タグ:海部川
posted by 平井 吉信 at 12:32| Comment(0) | 山、川、海、山野草
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