次の予定に少し時間があったので
上勝町の樫原地区へ上がってみた。
旭川沿いの県道から10分程度だが、
山道に慣れない人は道が細いのと曲がりくねっているので
心して来たほうがいいだろう。




樫原地区には全国棚田百選に選ばれた樫原の棚田がある。
町役場を早期退職後、棚田の保全と啓発活動に力を入れていた
谷崎勝祥さんももうこの世にいない。
谷崎さんには勝浦川流域ネットワークの代表をお願いし、
上流の里山と下流のまちの交流を通じた保全に力を入れていただいた。
自称「百姓」(この言葉にも深い意味がある)の谷崎さんからは
里山の暮らしの知恵と風土の持つ力や役割を教わった。
棚田の暮らしについては当時の徳島新聞の谷野記者の良質の記事が印象に残る。
谷崎さんから教わった自称「戯れ歌」をいまも覚えている。
棚田にやってきた鹿に棚田びとが呼びかける。
「ひゅうと鳴き棚田に近づく鹿たちよ もみじの山に帰れよ早く」
すると、鹿から返歌があった。
「去れという棚田の人よもみじ山 いづこにありや杉ばかり見ゆ」
棚田の暮らしから未来を見つめる谷崎さんのやさしいまなざしが忘れられない。
勝浦川流域ネットワークの会員で
上勝町役場の職員としてごみゼロに向けて献身的な活動を続けていた
東ひとみさんもすでにない。
ドイツの環境政策を自費で視察に行かれるなど
思い立ったら即行動の人。
あまりに早い辞世だった。
在りし日の谷崎さんと東ひとみさん。ときの流れと運命に声も出ない



当時の笠松町長はその強力なバックアップを行った。
現在の花本町長も「彩山構想」を精力的に後押しされている。
優れた首長のいらっしゃるところで
いろどり生産者も花開いた。
今後は後継者の確保育成が最大の課題である。
樫原のひとつ上手にあたる市宇集落で
1999年から植松さんら地元の方々と「棚田の学校」を始めた。
国の内外から毎回大勢の参加者を集めるなど活況である。
棚田の学校の運営には1円の補助金もあてにせず
参加者の参加費だけで賄っており、今年で20年目となる。
(徳島新聞さん、この活動の節目に取り上げてみてはどうだろう)
当時の集客の原動力になったのは参加者の口コミと
公式Webサイトでの事後のイベントの発信だった。
http://www.soratoumi.com/river/ryuiki/
記念すべき第1回は参加者が3人(それも内輪だけ)。
それが数ヶ月後にこのにぎわい(毎回50人程度が参加された)

植松光江さんのつくるボウゼの姿寿司は
生涯に食べた3本の指に入るもの。
ゆこう、ゆず、すだちをブレンドした酢飯を使っていたのでは?
棚田の学校では食事も参加者が共同でつくるから、また会おうねと連帯感が生まれる。
それが高いリピート率の要因。

草でつくったバッタ ほんものそっくり。このつくりかたも集落の古老がまちの子どもに伝える

三世代の田植え

上勝の茶摘みは自生している山茶なので農薬を使わない。これが上勝晩茶となる。農家によって発酵のノウハウが違うため家々で異なる風味。

稲わらでつくるわらじ


棚田の網にかかってたったいま息絶えた鹿。この後集落で解体されて地区の人々の胃袋に収まった。いのちを考えるうえですべてを受け容れていくことが大切

海外からの参加者も。いまと違ってSNSもない時代、どうやってこのイベントを知ってわざわざ来られたのか?

集めた茶葉を選別している

収穫体験は子どもも愉しい

このイベントの盛り上がりを受けて
2007年にはNHKの全国番組の特番、年に1回の「地球エコ」という番組で
ゴールデンタイムに数十分にわたって放映されたことがある。
これがきっかけとなって、植松夫妻は齢70を越えて農家民宿(里がえり)を創業されることになった。
90歳に近づいた植松ご夫妻はご健在で今年もイベントを開催されている。
(この棚田を「天上の楽園」と名付けたのはぼくである)
植松ご夫妻から教わった暮らしの知恵や伝承も書きとめておきたい。
例えば、ハミ(マムシ)に遭遇しないように次の文言を唱えるという。
「我行く先に鹿の子まだらの蟲あらば たまもの姫に言づてやせん あびらうんけんそわか」
マムシの紋様を描写しながら道筋でマムシに逢わないよう
たまもの姫にお願いするという。
たまもの姫とは何物か?(「玉藻姫」のことか?)
どなたかご存知の方は掲示板に書き込んでいただけたらと思う。
その後の呪文のような言葉は大日如来の真言の一節と思われる。
要するに神仏の眷属の力を借りて災いを防ぐ言霊のようなものだろう。
(直接神仏にお願いするようなことではなく日常なので山の神の狐に願うという趣旨かも)
棚田の意義をいかに伝えていくか
どのように保全していくか、
それは上流の意義というよりも下流の恩恵、
いや、国を挙げて農業と国土と環境保全に取り組むべきこと。
そうでなければ。
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