池田I.Cを降りて約半時間、カフェに辿り着いた。
見上げると、急傾斜の山あいを天に向かって連なる民家がある。

向かいの山々は秋が来ると色づく広葉樹の森。
その山裾を縫うように川が流れ、その川がくるりと向きを変えて流れる。

とりの巣カフェの対岸の森(動画)
https://youtu.be/zdxDWvP6k4g
野鳥の声は絶えることなく―。
そんな場所に木の香りが漂うカフェがある。
徳島・高松方面から池田町を通り吉野川を南下する国道32号線は
吉野川が四国山地の隆起を削るように流れる先行谷という地形。
ラフティングの世界選手権が開かれなかったとしても
ここは日本を代表する渓谷であることは間違いない。
土讃線の特急「南風」に乗車すると列車内のアナウンスがこう告げる。
「左手に見えます川は四国三郎の名で知られる吉野川です。長い年月をかけて水の浸食によってつくられた…(略)土讃線でもっとも景色が美しいところといわれています。小歩危峡を過ぎて鉄橋を渡りますと右手に大歩危峡が見えてきます。トンネルがございますがしばらくご覧ください」


なかでも高台から見る小歩危峡が美しい。
ところが先の西日本豪雨で山城町(大歩危小歩危がある地区)も大きな影響を受けた。
数年前に訪問したとりの巣カフェでも
カフェに向かう主要道が数週間寸断されていたそうだ。
久しぶりに訪問してオーナーの大久保冨美さんにお話を伺うことにした。
(以下、冨美さん。地元の人は「冨美ちゃん」と呼ぶ)
冨美さんにはずっと温めてきた夢があった。
それは、四国のまんなかの場所に拠点をつくること。
自分が生まれたときから身体に刻み込まれていたもの。
「私にとって、すごい場所。それを来て感じてもらえたら」という。

カフェに腰を据えると、
大きく空いた窓から伊予川の渓谷と対岸の山が見える。
カフェから自由に出入りできるテラスには野鳥がよくやってくる。
外へ出れば眼下にU字型に蛇行しつつ川が流れる屈曲点の上に立つ。
目を閉じれば森のそよぎがきこえるようで山気が迫ってくる。




この地に溶け込んでいるのが
地元の木材をふんだんに使った建物。
テーブルには山から切りだした太い木が使われている。
年月を刻んだどっしりとしたたたずまい。
ここに置いたら機械は使えないので
10人以上で抱えて移動するしかないだろう。

天井を見てもためいきが漏れる。
地元の木がカフェの建物となってこれから先もここに存在していく。
人々の営みを呼吸するように。



夫の事業が建設業で実家が林業家であることもカフェ成立の要因となっている。
(私は林業はできないけれどと前置きして)
木に囲まれた空間は林業家として父が一代で築いた資産を活かしている。
自分なりに地元の木のすばらしさを伝えたかったから。
森と渓谷、風のそよぎや鳥のさえずり…、
ここの魅力が伝わるには拠点(目的)が必要。
食事ができてゆったりできる場所を描いて
たどりついたのがカフェ。
やりたいと思いながらいつかはやろう、と誰でも思う。
でも、いつかはない―。
冨美さんは50歳で市役所を辞めて挑戦を始めた。
父に材を揃えてもらいながら2年をかけて準備。
その過程で地元のたくさんの方々にも関わっていただいた。
こうして2016年5月31日に待望の「とりの巣カフェ」が誕生。

オープン時の様子が分かる動画を公開されている
https://www.youtube.com/watch?time_continue=79&v=QR0VRo0FoMU
冨美さんには娘さんがいらっしゃる。
調理の学校を出て自然にここを手伝うようになった。
店のコンセプトを料理でどう再現するかは直前まで試行錯誤を重ねたという。
きっかけは近所のおじさんのひとこと。
「あやかちゃん、カフェができたらパスタが食べたい」って。
ふっと天からの啓示が降りてきたみたいに和風パスタが完成、
オープンの2週間前だったという。
当初考えていたのは田舎料理。
地元の素材を使うことは大切だが
そこにおしゃれ感覚がなければ人は来ないと気付いた。
そして迎えたオープンの日、
百人を越えるお客様が押し寄せて
7人の女性で編成された臨時の厨房チームはてんてこまい。
注文した料理がなかなかやって来ない…。
そうするうちに近所の人が赤飯を持ってきてくれて
ご来店のみなさまに振る舞われた。
(地元が一体となって盛り上げているんですね)
開業前には「こんなところまで来てくれるだろうか」
と不安に押しつぶされそうでした。
いまでは「自分が愉しみながら、ここでいることの目的を伝えていきたい。そんな3年目です」。
独自の工夫を凝らした「とりの巣和風パスタ」はその後人気メニューとなっている。
これからは厨房を担当するあやかさんの思いがこのカフェを成長させていくことになる。
「こんな場所にこんな店がある」。
来た人にそう思ってもらえたらいい。
冨美さんもあやかさんもそんな思いで未来を見つめている。
(メニューのいくつかはあとで紹介)
.。'.*.'☆、。・*:'★ .。.・'☆、。・*:'★
.。'*・☆、。・*:'★ .。・*:'☆
☆、。 ・*'★ .。 ・':....*.:'☆ .。・:'*・':'・★
冨美さんは新たな構想を実行しようとされている。
「調和とやすらぎのユートピアという言葉が浮かびました。ここを学びの場と定義したのです。けれど、当の本人が”何を学ぶのだろう”と考え続けていました」。
と前置きして
「カフェの下に宿泊施設を整備中です(できれば露天風呂も)。四国の真ん中の場所に”訪れの”拠点をつくるイメージで」。
とりの巣カフェにどんな人が集まり、地域の未来をどのように描いていくかが楽しみです。
冨美さん、お時間をいただきましてありがとうございます。
人生を愉しみながら夢を実現させているとりの巣カフェで
時間を忘れて風に吹かれてみるのもいいとご紹介しました。
とりの巣カフェひとくちメモ
公式ウェブサイトから「とりの巣カフェとは」
http://torinosucafe.com/introduction
(初恋の相手、隣の家の真ちゃんと結婚しました…。そして人生の3番目の夢にかける冨美さんの思いが綴られています)
冨美さんにお話しを伺ったメニュー紹介(一部)
そば米トマトリゾット
夏こそトマトを使ったリゾットはいかがですか?
酸味とコクが食欲をそそります。
ここでは郷土料理のそば米と合わせてみました。
(健康志向を意識していませんが、そばにはさまざまな機能性が報告されています)
そして、軽やかな食感のお麩を添えました。
(この麩は素材にこだわった手焼きで娘の嫁ぎ先の奈良県から送ってもらっています)
オリーブオイルと塩の風味でガーリックトースト風。
この食感、味わってみませんか。


とりの巣和風パスタ
パスタも食べたいけど、うどんも食べたい方におすすめ。
かつおと昆布で出汁をていねいにとってありますので
スープのように飲んでいただけます。
地元の「星降る高原」で採れた肉厚のしいたけは
ステーキにしても美味しいもの。
ベーコンを炒めて仕上げに温泉卵をトッピングして鳥の巣をイメージ。
開店当初から一番人気のメニューです。
阿波シカドライカレー
タマネギ、ニンジン、ゴボウ、レンコン、シイタケ、生姜、ニンニク…。
根菜をオリーブオイルで炒めてトマトを煮込み、
地元で採れた新鮮な鹿肉と19種類のスパイスを調合して
この風味に仕上げました。
「日本のジビエを味わうグルメな旅と極上の店」(双葉社)で紹介されました。
アクセスメモ
ナビでガイドすると新宮I.Cからを案内される場合がありますが、
山道に不慣れな方は池田I.Cで降りることをおすすめします。
そこから半時間ぐらい。
国道32号線から分かれて10分ぐらいでカフェに到着します。
その道も狭くなく快適に通れます。
愛媛・高知方面からで山道に慣れた方は新宮I.Cでもいいでしょう。
降りてすぐの霧の森菓子工房で「霧の森大福」を買うこともできます。
冨美さんのひそかな愉しみ
この窓から向かいの山越しに満月が昇るそうです。
そこでテラスに出て、鳥の羽のかたちのスピーカーを外に持ち出して
「ムーンリバー」をかけてうっとりしています。

「葉音」と名付けられたこのスピーカー、お店で販売先を紹介してもらえます。
振動を木でできた羽根から発音する無指向性のスピーカーです。
雰囲気が掴めるよう動画にしてみました。
https://youtu.be/7LfdFYpTa20
音楽家が集まる
とりの巣カフェに村上 “ポンタ” 秀一さんが来てくださったとか。
冨美さんは最初ポンタさんのことを知らなかったそうですが
日本を代表するプロのセッションドラマー、スタジオミュージシャンです。
音楽の企画する人が当店のWebサイトを見て連絡を取られました。
ふんだんに木を使っていてやさしく艶やかな響きがあって
屋根と床が並行でないのでフラッターエコーが発生せず
空気が澄んでいて6等星が見えて
川を見下ろす高台の上にあって…。
2018年10月13日にはポンタさんが再来されます。
ポンタさんは生の音楽を聴かせてあげたいと全国を回っているそうで
カフェでの再開が楽しみです。
これまでにハープのコンサートをはじめ音楽家の方々が口コミで
ミニコンサートを開きたいと来訪されているようです。
往年の名機 ビクターSX−3
ドイツの針葉樹をすき込んだクルトミュラー社の25センチウーファーと
シルクのソフトドームトゥイーターの白木の2ウェイスピーカーは
ビクターが1970年代に売り出したベストセラーのスピーカー。
とりの巣カフェの毎日の音楽はこのスピーカーが奏でている。
(↓個人的な追想)
初めてのデートで入った喫茶店で
SX-3が艶やかな音が流れていたのを憧れを持って聴いていた。
オトナになってその系譜のSX-V1を購入。
(マホガニー無垢のキャビネットに13センチのクルトミュラーのウーファとソフトドームをアレンジしたもの)
その後、いま使っているクリプトンのKX-1も17センチ口径のクルトミュラーコーンを使用。
人生の最初でつながったものはその後も縁があるもの。

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