2018年08月17日

効率主義の社会でこぼれる夢を拾っていきたい―。よろず修理屋、夫婦ではじめました


「音の鳴らなくなったCDラジオプレーヤーを持って来られたお客様がありました」。
その人は、ぼくに静かに語り掛けます。

ことの顛末はこうです。
ここは開業したばかりのよろず修理を行う作業所です。
まだ世間に知られていないし
経営者が器用な人ではなさそうで、それほど繁盛しているように見えません。

ある日、店の電話が鳴りました。
「すみません、古いCDラジオがあるのですが、そちらで修理していただけますか?」
声の主は40歳前後の女性でしょうか。
当店のことを口コミで知った方かもしれません。
「どこへ行っても修理してもらえないんです」と
消え入るような声の調子。
一度見せていただけたら直る可能性があるかどうかがわかります、と店主。
声の主はさらに続けます。
「この子をもう一度鳴らしたいのです」。

(ここからは店主を主語に一人称で)
しばらくしてお店にいらっしゃった女性が持ってきたのは
ソニーが通販専用ブランドでつくっていた商品のようです。
私はさっそく見てみました。

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調べてみるとピックアップ(CD信号の読み取りを行うレンズとその駆動装置)が寿命のよう。
古い機種なので交換部品もすでにありません。
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しかしこの時点で諦めることはありません。
メーカーに部品はなくなっていても
どこかで細々と同じ仕様のものが作られていたり
秋葉原の部品店で在庫があったりするものです。
そこでインターネット検索をするうち
ピックアップの製造元と品番らしきものが判明。

消耗部品のコンデンサーもチェックをしましたが、
(たいがいはコンデンサーの液漏れなど寿命を迎えていることが多いのです)
意外なことに電気的な劣化は見られません。

部品を取り寄せてさっそく組み込んで見ます。
すんなりと音が出ました。
しかし修理完了ではありません。
長い間通電していなかった機械は動作が不安定で
しばらく鳴らしながら様子を見る必要があります。

数日鳴らしているうち、
修理直後は不安定だった読みこみが落ち着いてきて
音飛びしていた箇所で飛ばなくなりました。
もともとのこの機種の特性でしょうか、
ピックアップの感度が高すぎるのも原因かもしれません。
動作を見ていて私は気付きました。
CDを押さえながら回転させるストッパーの滑りにくさも一因ではないかと。
そこで潤滑剤のシリコンを回転部に施してみました。

こうして一週間ほど鳴らすうち再生音が安定しました。
私は修理完了の電話を入れ、
「できればご自身が聞きこんだCDを持ってきてください」とお伝えしました。

しばらくしてご夫婦で引き取りに見えられました。
沈黙していたCDラジオからなめらかに音楽が流れたときの
おふたりの表情は忘れられないものでした。
「まさかこれが直るとは!」
同行のご主人も驚いていました。
奥様はその様子を見て満足そうでした。
ご夫婦は礼を言って帰られました。

それから一週間して電話を入れてみました。
当店では修理後に動作を確認するため
一度だけお電話を入れています。
電話に出られた奥様のお声は弾んでいました。
私たち夫婦もその様子を聞いてうれしくなりました。
(一人称はここまで。ここからは平井が代わります)

ぼくの想像ですが
あのCDプレーヤーはご夫婦にとって大切なものだったのでしょう。
若い頃、ふたりで耳を傾けた音楽を奏でていたのかもしれません。
社会の片隅で大切にしている時間と物語があり、
それを紡ぐ人がいるのです。
なんでも修理する仕事、よろず修理屋。
でもご主人は照れながらぽつりと言いました。
「これでは飯は食えない」(笑)。

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照れ屋のご主人とそれを支える奥様が
今年の春に創業したよろず修理屋のお店を紹介しました。
(サングラスをして強面風ですが、実はやさしく誠実なご主人です)
(修理中の写真は福島ご夫妻の提供)

よろずや修理屋 ADLiB:https://www.facebook.com/yorozuyaadlib/
電送専門サービス ADLiB:https://adlibz.jimdo.com/
ADLiB Hiroko :https://www.facebook.com/adlib.hiroko/?ref=py_c
所在地:徳島市南沖洲1-1-15
福島照男・宏子 
posted by 平井 吉信 at 23:23| Comment(4) | 生きる
この記事へのコメント
ステキなブログでした!!
「非効率」の箇所が、おもしろかったです♪

Posted by 篠原一志 at 2018年08月20日 17:52
効率を求めることが生産性を高めることにはつながらない時代です。
やらなくてもいいことをやめることがまず最初。
(ムダを省くという考えではありません。一見必要に思えることでも本質を見ていけば不要と気付きます。目に見えないところにこそ本質があります)
効率を追うのではなく効果を考えること。
そこに打算や計算ではなく
こうしたいという動機があるはず。
いまの時代にそれが必要ではないかと
福島さんは問いかけています。
Posted by 平井吉信 at 2018年08月20日 23:29
当社も昭和時代に設置されたお店のスピーカーを直していただきました。
すっかり復活し、繊維団地の組合からの連絡が正確に聞こえるようになりました。

とても丁寧な仕事ぶりで、安心してお任せできました。
よろずやADLiBさん、いいお店です。

それにしても、先生のブログ、読ませますね〜。
とても素敵だと思いました。
私も頑張ろうっと。
Posted by てるよ女将 at 2018年08月21日 15:33
「あなたのつきそいしのはらさん」の篠原さんですね、お元気そうで何よりです。
山に関連するお店のてるよ女将さんですね。
夏バテされていないと思います。
おふたりともどこかで、例えば18時30分から21時ぐらいの時間にお会いした方ではないかと思うのですが、久しぶりに文字からお顔が浮かんできましたよ。
Posted by 平井吉信 at 2018年08月21日 21:41
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