モネの庭を出たのは終園間際だった。
そのとき、ひらめいた。
昼の営業が終わっている「いごっそラーメン」が
17時に店を開ける時間ではと。
高知県東部で知らない人はいないラーメン店が
北川村にあることは数年前から知っていた。
それもラーメン一筋に生きてきたという業界物語ではなく
54歳で脱サラして奈良で始めたラーメン店が大当たり。
そして数年前に故郷へ戻られたのはおそらく60代半ば。
現在は70代の前半と推察される方。
人口1,200人の北川村で唯一のラーメン店。

調べてみたら半径2km圏に約1,000人程度の人口しかない。
本来はこんな場所で成り立つ業種ではない。
なお、店の名前が「店長」である。
興味ある人はリンク先をどうぞ。
https://kochi.keizai.biz/headline/156/
動画で見たら、1杯のラーメンにかける気持ちが伝わってくる。
https://www.youtube.com/watch?v=gOU9Cs7xMnc

ただ、おいしく食べてもらいたい、そして北川村へもっと足を運んでくれたら―。
そのお気持ちがこの店を唯一無二の存在にしているのだろう。
ぼくが入店した直後に京阪神のプレートを付けた車が入ってきた。
ブログでご紹介したくなったのはグルメ紹介でもグルメ体験自慢でもない。
(そもそもグルメではないし、徳島ラーメンを食べたのだって記憶にないぐらい遠い昔。それぐらい普段はラーメンと縁がない)
店内には北川村の写真がずらり。店そのものが郷土愛を語っている

そんなぼくが滋味深い食品としてラーメンを食べたくなることがある。
ぼくがわざわざ足を運んでいただいたのは次の4店しかない。
相生町の麺屋藤、牟岐町の牟岐55ラーメン、宍喰町のChannel R55(現在は一時休止中)、室戸の両栄美人(山下のおばあちゃん、閉店されたのかも)。
それにしても四国の東南部にはどうしてこんな魅力的なラーメン店があるのだろう。
(以下、本ブログの記事)
→ Channel R55 手延べつけ麺 寒茶 http://soratoumi2.sblo.jp/article/175212301.html
→ 牟岐55ラーメン http://soratoumi2.sblo.jp/article/118378121.html
→ 麺屋藤 http://soratoumi2.sblo.jp/article/59799683.html
→ 両栄美人 http://soratoumi2.sblo.jp/article/183504308.html
店の名物は塩バターラーメン。
ネギともやしがたっぷりの外観。

野菜の林をかきわけると
麺とチャーシュー(5枚も)が現れる。

スープの後味が良く量が多いのに胃がもたれない。
写真を手早く撮り終えると(それが作り手への礼儀)
一心不乱に麺を口に運びスープをすする。
厨房に見え隠れする田所さんの後ろ姿から
一期一会と思って一杯のラーメンをつくる姿勢が伝わってきて胸が熱くなる。

やさしい風味のスープに
バターが溶けてくると
濃厚な幸福感が顔を出して飽きさせない。
そして好みに応じて店主手作りの柚子胡椒を途中から入れていくと
また別の世界へ連れて行ってくれる。
(北川村、馬路村、木頭村は隣接する柚子の名産地である。柚子の香りでは意外にも上勝産がいい)
スープはできるだけ飲み干したいけれど、体調の許す範囲で。
時間の経過とともに食べる人の生理的な体験を計算して
味わいの変化を提供されている。
でも、店は気取らない、さりげない、気配りがあっても気を使わせない。


食べ終わると身体のバイタルサインが上がったような気がして
次の一週間の元気をもらえる気がした。

店内に貼られた切り抜き記事には
「死ねるまで夢を持ち続けんとね」との田所さんの言葉が掲載されている。
店もラーメンもInstagramに投稿しようという雰囲気ではない。
そこに田所さんのメッセージがあるよう。
見かけじゃないよ、味だけでもないよ。
わかる人にはわかるけど、大切なものがあるよね。

それは、店と客の協同作業でつくっていく料理。
実にこの店のメニューも田所さんと常連さんとで作り上げたと聞いた。
今回は「モネの庭 マルモッタン」にやってきたのだけれど
田所さんは地域が元気になればいいと考え、
その先鞭として自分の店を位置づけておられる。
お客さんとともに盛り上げることは、
地域を盛り上げる力に変えることができるのでは?
小さな店ができうるささやかな挑戦、のような誇りさえ感じられる。
ラーメンにも田所さんの姿勢にも心打たれてしまうのだ。

ここから自宅まで約140kmあるけれど
夕陽の土佐湾を見ながら満ち足りた気分で
(松岡直也を流しながら)
室戸を経由して帰途についた。
追記
「店長」の動画を見て何かお感じになられましたか?
一刻も早くお出ししたい、麺の良い状態で提供したい、
との思いが伝わってくる。
(だから長々と食べる前に撮影してはダメですよ)。
てきぱきとやっているのにバタバタしない。
それは動作にリズムを持って止まる前に制動をかけて
急な動作のなかにもやわらかいつなぎ(時間)を持っていること。
(これはあくまで想像だけど)
もうひとつは、相手を楽しませるパフォーマンスもあるかもしれない。
でも、ぼくが感じるのは
プロフェッショナルは、いつも結果を出さなければならないので
その状況に持って行く儀式を持っているもの。
イチローのルーティンなどスポーツ選手の決まり切った姿勢や習慣もそうである。
この動作をやっていると「無意識」の領域でスイッチが入る。
人の動作でもっとも強くかつ創造的に対応できるのは
「無意識」のときだから。
「できる人」というのは所作に現れる。
(わかる人にはわかるけど、わからない人にはまるで気付かれない)。
「花」がある人は意識してか無意識かは別にして
「所作」「立ち居振る舞い」に、きらめき、艶がある。
それで相手を瞬時に納得させ、賞賛の感情も抱かせるが
安心させたり落ち着かせたりすることもできる。
相手が見る目があると判断したら
「花」を意図的に隠して対応してみる。
そこから相手の反応を見て相手の度量を図ることもできる。
(ぼくはそう思ってときどき実践している)
所作から感情を動かし、感情から成果や共感を導き
さらに所作へ戻っていく。
人が生きていく路はいくつもあれど
路はどこまでも続いていくようだ。
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