鄙びた場所に立地してSNSで発信しながら
ドライブも兼ねて遠く県外からも集客するカフェ、レストラン、ピザ窯もあるけれど
まちなかのカフェは競合も多い。
特に内装に凝っていない。
外装に至ってはもちろん。
できて2年ばかりということもあって
例の飲食店の口コミサイトにも掲載されていない。

メニューは2種類のランチのみ。
価格も手頃で850円〜900円。
車も停めることができる。
ところが店内に入ると
リピーターが思い思いに腰を下ろしている。
(さりとてお店とリピーターが会話を交わしている雰囲気はない)
高価なものかどうかはわからないけれど、
華美でない調度品の心配り、
流れている音楽、会話を妨げないその音量、
もちろん紫煙とは無縁。
(飲食店を法律で禁煙にできない国ってなんだろう?)
この店の常連は最初に入店したときから敷居の高さなど微塵も感じなかったはず。
すべてがさりげなく、素っ気なさなど微塵もない控えめな微笑に満ちている。
飲食店は大変である。
どんなに手間をかけても気配りを用いても値頃感(相場)がある。
ぼくは毎年梅酒と梅干しをつくっているけれど
梅酒3本の原材料費(梅、蜂蜜、35度の焼酎もしくは泡盛)は1万円近い。
原価と手間をもとに価格を付ければ少量の瓶で2〜3万円になる。
そして例のつまらぬグルメサイトのコメントで
客の感想がときに店主の心を痛める。
そのようなことは最初から意図していない、
お客様のことを思えばこそ、そうしているのに―。
そんな飲食店の嘆きの声が聞こえてきそうである。
(1億総評論家の時代だからインターネットの情報は信頼できないのだ。そしてまとめサイトやキュレーションサイトがさらに情報の価値を撹乱する)
満足度とは、顧客が期待する成果と
提供される価値のマッチングであるから
相互に理解しなければ(心が通わなければ)不幸だ。
ありとあらゆる人の嗜好に応えるなどできない。
そして当然だけれど、お客様は神様ではない。
(店は客を選び、客は店を選ぶという社会契約が来店である)
ここのお店に入ると
そしてお客様をお迎えする女性店長の慈愛に満ちた表情。
このままテレビドラマになりそうだ。
主演は、いまより少々若い年齢の吉永小百合か松坂慶子あたり。
華があっても品格が楚々と流れているような。
だから、お迎えを受けると
おだやかな気持ちで席に着くことができる。
奥から運ばれてきた料理は一見地味。

こけおどしの風味や奇をてらった盛りつけの見映えはないから
Instagramに投稿する人は少ないだろう。
しかし一口いただくと、料理をされた方の心に触れる。
素材が口のなかから脳の深いところまでじんわりと広がっていく。
味わいは深くても次の瞬間、舌に残ることはなく消えている。
食事が咽を通らず、外食に気乗りしない体調不良の家人を連れていけば
一心不乱に味わいながら1粒一片として皿に残っていない。

料理人の技もすばらしい。
旨味の足し算からこの技は生まれない。

和食の達人がていねいにつくる魂を込めた料理は
さりげなくも切ない。
特に塩の使い方が絶妙である。

日々の仕事をしずしずと思いを込めてていねいに仕上げるだけ。
そんな心が透けて見える。
(口先だけの政治家を見ていると、市井の人々の至誠が身に染みる)
目標とする売上もなければ、
もっと売れたいという虚栄も感じない。
けれど、いかなるお客もあたたかく迎える覚悟で
店は灯されているように思える。

不思議に思うのは
どのような力学、思いがあって
この店が存在するのだろう、ということ。
きっと静かで感動的なドラマがあるに違いない。

これは徳島市内に実在するカフェの話で
何の誇張もしていない。
ただ、お店に入った瞬間から出て行くときまで
店の方もぼくも心の動きを感じあうことができる。
このようなお店なので
店名はお答えしません。
もったいぶっているのではないのです。
このお店に合う人はグルメサイトやSNSと無縁だと思うから。
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