およそ植物に興味がある人で、
牧野富太郎博士を知らない人はいない。
いや、植物に興味がなくても知っている人は多いだろう。
きっかけは、高知新聞社が生誕150周年を記念して作成、
北隆館から刊行された「MAKINO―牧野富太郎生誕150年記念出版」を購入したことだ。
この本に興味を持ったきっかけが、佐川町を通ったときに看板に誘われて
越知町の横倉山自然の森博物館にふらりと入ったことだった。
(そのときは仁淀川特集に惹かれた)
http://soratoumi2.sblo.jp/article/176389278.html
高知新聞編集のその本は、
牧野博士の行動をリアルタイムで追いつつ関係者にインタビューを求め、
現在に残る足跡を辿りつつ、伝記からの引用も交えて淡々と牧野富太郎を
再構築させたもの。
そして、本文中には、牧野博士ゆかりの写真、
博士が描いたスケッチ、現在のゆかりの場所の写真、イラストが
ふんだんに散りばめられ、ついつい読み進んでしまう。
現時点での牧野入門の決定版といえる内容である。
http://amzn.to/2bM0E2W
本文を読むと
牧野富太郎の生命力には感心してしまう。
やりたいことをやる純粋な思いと
そのためにはすべてを投げ打つ打算のない生き方、
(だから身内は苦労をすることになるのだろうが)
人生書として読んでも読み応えがある。
いまの日本人が忘れているものではないだろうか。
一方で学術的な価値も高い。
博士の直筆の植物スケッチが残されている。
これが後年の図鑑の基調となっている。
スケッチと写真では、写真が有利だろうと思われがちだが
つぼみや根っこ、果実までもが描写されていることで
花の時期でなくても同定できうることなど
スケッチの利点は少なくない。
一方で写真には直感的にわかるという良さがある。
(そのためには写真の品質とサイズが不可欠である)
扉から数ページに渡って
カラーで牧野博士ゆかりの植物が掲載されている。
(亡き妻に捧げたスエコザサなど)
そのなかにかれんな薄紅色の花に目がとまった。
ヒメノボタン。
全国では和歌山県新宮市の一部を除いて
ほとんど見ることができなくなった絶滅危惧種だが
高知県西部にはいまも野生として見られるという。
しかも開花時期は9月。
実物を見たい、との思いが高まった。
これが後につながるエピソード1としよう。
「MAKINO」では、博士が情熱を傾けた植物図鑑についても触れられていた。
その基準となるのが、「新牧野日本植物圖鑑」(2008年)である。
http://hokuryukan-ns.co.jp/books/archives/2005/09/post.html
北隆館の説明は以下のとおり。
種子植物から地衣類まで5056種を1冊で網羅。牧野図鑑初の試みとして、種子植物・シダ植物について詳細な検索表を追加。最新の命名規約に基づき学名を改めるなど、内容を全面的に改訂。初版以来の伝統を守った、1種類ごとの図と解説で「もっとっも詳しい」「もっとも見やすい」国内最大級の植物図鑑です。用語図解・学名解説付。
http://amzn.to/2bLoR9m
それで牧野図鑑が欲しくなった。
北隆館は明治24年に創立され、牧野博士を支援した出版社である。
その北隆館からでさえ、複数の牧野図鑑が発刊されている。
http://hokuryukan-ns.co.jp/books/zukan.html
上記のURLを別タブで開いていただけると以下の説明がわかりやすい。
このなかからどれを買えばいいのかがわからない。
(どこがどう違うのか)
見本ページがついていれば良いのだが、それもネット上で見当たらない。
そこで出版者に直接電話をかけて相談に乗っていただいた。
営業時間外であったが、ベル1回で電話に出ていただき、
とても感じの良い方がわかりやすくご説明をいただいた。
私の理解を交えているが、ご参考になれば幸い。
牧野博士のスケッチはモノクロである。
それを最大限活かし(モノクロのスケッチである)、
詳細な説明を加えて1冊にまとめたのが
「新牧野日本植物圖鑑」(25,000円+税)である。
博士の筆致をじっくり見たい人には好適である。
図書館で実物を見たが、植物のイラストはそれほど大きくない。
その代わり説明は詳しい。
ある程度、精通された方向きの図鑑と理解した。
博士の著作を基本に、後に判明した新たな要素や修正を3人の編者が反映させているので
時代遅れと言うことはない。
復刻版も出ているが、それは博士のファン向けではないだろうか。
http://hokuryukan-ns.co.jp/books/archives/2005/09/post_1.html
(新牧野)は牧野博士の息吹を現代にもっとも伝えるもの。
(牧野図鑑はいまも売れているのである)
http://amzn.to/2bLs1dv
次に、「APG原色牧野植物大図鑑 I」〔ソテツ科〜バラ科〕、
「APG原色牧野植物大図鑑 U」 〔グミ科〜セリ科〕」について。
この2冊は分冊なのでセットで揃えるべきもの。
「原色」というのは、牧野博士のデッサンに彩色を施してあるからである。
ぼくが子どもの頃によく見ていたポケット図鑑もそうであったが
彩色イラストは直感的にわかる。
牧野博士が存命であったら、
「多くの人にわかっていただくためには色を付けるのが望ましい」とおっしゃるだろう。
この2冊で4,320種類の植物が掲載されている。
DNAによる分類体系を取り入れた2012年の発刊。
高価ではあるが、見ていてゴージャスで愉しい。
「APG原色牧野植物大図鑑 I」〔ソテツ科〜バラ科〕
http://amzn.to/2bLaopb
「APG原色牧野植物大図鑑 U」 〔グミ科〜セリ科〕」
http://amzn.to/2bL9Lfm
最新作は、上記の図鑑(AGP原色牧野)をB5判からA5判へと縮小しつつ
最新のDNAの分類体系の修正を取り入れて
2014年、2015年に「スタンダード版」として発刊されたものである。
「スタンダード版 APG牧野植物図鑑 I」 (ソテツ科〜オトギリソウ科)
http://hokuryukan-ns.co.jp/books/archives/2015/03/apg_ii.html
「スタンダード版 APG牧野植物図鑑 II 」(フウロソウ科〜セリ科)
http://hokuryukan-ns.co.jp/books/archives/2014/09/apg_i_1.html
北隆館からの説明を以下に引用。
■『APG原色牧野植物大図鑑』の情報量をそのままにコンパクト化!
■APG分類体系をさらに最新のものに更新!
■シリーズ全2巻 「4,320種」を掲載!
■第 II 巻はフウロソウ科〜セリ科まで「2,068種」を掲載!
■巻末には「植物用語図解」「植物観察のポイント」「植物標本の作り方」を追加!
近年、DNA解析による植物の分子系統学が発展しました。とくに葉緑体のDNA解析から、被子植物を進化系統分類順に位置付けた研究は近年飛躍的に進歩しました。新しい知見は、APG(Angiosperm Phylogeny Group ) に集約されています。本書は、長年、牧野図鑑で採用されてきたエングラーの分類体系を最新のAPGシステムに変更した最新の改訂版です。
最新の研究成果を取り入れての分類体系の変更はあるが
掲載種は同じ4,320種類である。
もちろん、カラーである。
価格もそれぞれ10,000円+税と
牧野図鑑としては手頃な価格になった。
ぼくはこれを買うことにした。
「スタンダード版 APG牧野植物図鑑 I 」(ソテツ科〜オトギリソウ科)
http://amzn.to/2cpLZu8
「スタンダード版 APG牧野植物図鑑 II 」(フウロソウ科〜セリ科)
http://amzn.to/2cpLpNc
牧野図鑑の長所は、
樹木や身近な植物(園芸種を含む)が掲載されていることである。
(バナナまで掲載されている!)
ヒマワリやアサガオのような慣れ親しんだ植物は
従来の山野草の図鑑にはもちろん掲載されていない。
けれども、花には変わりない(幼い頃よく見ていた図鑑にはサルビアやホウセンカなどの身近な植物が掲載されていたそれは良かった)。
例えば、先日月ヶ谷温泉で見られたベコニアのような植物が
シュウカイドウという名前と判明したのもこの図鑑を購入したからである。
以前に派手なホタルブクロと思っていたのが
図鑑に掲載されていて名前が確定した。
奥深い山中でなぜ園芸種が咲いていたのかは不明として
名前がわかったのはうれしい。
ぼくはこの図鑑はカフェなどで
ぱらぱらめくるのが愉しいと思う。
アメリカからの黒船によるクラウドサービスが開始されているが、
信念を持って経営されている出版社を応援するためにも
文化の灯を消さないためにも
出版者ともども紹介したいと思ったもの。
サンプルページがないので、
以下に写真を掲載する。
(あえて見づらくしているのは複製利用と区別するため)
これを参考に、納得して購入される人が増えてくれればと思っている。
スタンダード版 APG牧野植物図鑑 1(ソテツ科~オトギリソウ科)
http://amzn.to/2bL739A
スタンダード版 APG牧野植物図鑑 2(フウロソウ科‐セリ科)
http://amzn.to/2bL5QPR
写真図鑑の代表作 ヤマケイハンディ図鑑と比べてもそれほど大きくない。

しかし、イラストはなるべく大きく、しかもカラーで掲載されている。
この写真の主の名前がわかった。

こちらのブログから
これも同様(シュウカイドウ)

こちらのブログから
もちろん山野草も同様。
カンアオイの仲間にこれだけあるとは知らなかった。

牧野図鑑を買ってさらに野山を散策するのが愉しくなった。
エピソード1(高知県のヒメノボタン)については後日報告を。
お楽しみに。
→ http://soratoumi2.sblo.jp/article/176903015.html
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