天涯の花、キレンゲショウマ、剣山。
2015年の豪雨でキレンゲショウマの谷が壊滅したとの報道があった。
現場を見に行きたいが、長らく立ち入り禁止となっており、
無事でいて欲しいと願うだけの月日が流れた。
そして2016年7月中旬、
例年よりずいぶん早くキレンゲショウマが咲き始めたと
徳島新聞に掲載された。
とはいえ、8月になっても仕事の都合でなかなか行かれない。
もう盛りは過ぎてしまっただろう。
心残りのまま、この夏を見送るのか?―
この数日間は、険しい顔で夏の入道雲を眺めていた。
ところが、8月上旬のある日、
無理をすれば行けそうな日が一日だけやってきた。
盂蘭盆会の日、ご住職の読経が終わればただちに出かける案である。
登山口にある見ノ越に着くのは午後の太陽が傾いてからとなるが
それでも行かなければと考えた。
キレンゲショウマの無事を確かめるまでは
2016年は幕を閉じることはないと思ったから。
太平洋高気圧が張り出した天気図を眺めていて
夕立は起こらないほうにかけてみたのだ。
時間を短縮したいので
最短距離となる佐那河内〜神山〜木屋平〜コリトリ〜見ノ越の山岳ルートを走る。
(ほとんどの方には高速道路の美馬I.Cが使えてアプローチが短い貞光ルートがおすすめ)
さあ、見ノ越に着いた。
見たことのない花に目を留める。

森を楽しみたいのでリフトは使わない。
森にはハガクレツリフネが朝の滴を宿していた。


リフトの西島駅が見えてきた。

ぼくは花火が苦手で(耳が良すぎてこたえるのだ)
近所で花火があると逃げ出したくなるほどで、
行政には、耳の弱者を考慮して音の出ない花火に変更すべき、
赤ちゃんにもやさしいなどと助言したことがある。
(花火こそ色の無限の変化が楽しめるPJMがふさわしい)
でも、シシウドの花火は歓迎だ。



蜂が遊ぶナンゴククガイソウの群落に遭遇
(D7200+70-200mm /4は手持ちでこんなマクロめいた写真が撮れるのでたまらない)


キレンゲショウマの谷への分岐にさしかかる。

直進して山頂をめざさずに、ここから東へトラバース。

カニコウモリの群落が続く。

その合間にシコクフウロが点在するお花畑



かれんなヒメフウロの群生地を通り過ぎる。
全国でも剣山にしか見られない稀少な花という。



ところが、今年は草丈が50〜60センチもあるヒメフウロが群生する。

シシウドではなく、ツルギハナウド
(人のかたちをしている花びらに注目)


トリカブトのつぼみが美しい
(もしかしたらレイジンソウかもしれないが、よく似ていて区別がつかない)


ソバナとシコクフウロが咲く花畑で足が止まる


しばらくトラバース道を行く。

谷を下るにつれてギンバイソウが多く見られるようになる

テンニンソウにとまる蝶

2015年の崩壊地に出た。
谷へ降りる歩道があつらえられていた。


キレンゲショウマ、と思ったら
同じ色の黄色の花が咲いていた。
葉の下に隠れるように花がぶら下がるという
手の込んだ造形。
これは虫に見つかりにくいかもしれず
どんな意味があるだろう。
キツリフネという。

この黄色はオタカラコウ

谷をさらに下ると、今年も咲いていた。
ここは被害が大きかった南部の自生地だが
むしろ花の数は例年より多いように感じられる。
「増えている!」と興奮して言葉に出る。
キレンゲショウマの谷。


フジX-E2+XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS、XF35mmF1.4 R










ニコンD7200+AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR







キレンゲショウマの谷には誰もいない。
(都会の山野草と山が好きな人には信じられない静寂な時間)
じっくりと1時間ばかり眺める。
終盤になって30人程度のパーティがやってきたのには驚いたけど。
森を抜けるとそこには…

典型的な夏の雲。

ときどき雷鳴が聞こえる。
途中でぱらぱらと落ちたこともあったが
これが夕立に発展しないのが今年の夏の剣山の気象。
(でも、山頂をめざすとリスクはあると判断して一目散に降りる)
帰りは祖谷川源流を経由する。高低差が少なく涼しい。
森の表情になごむ。





山頂まで行くことはできなくても
ジロウギュウや一ノ森まで行けなくても
大剣神社の名水が汲めなくても
剣山はキレンゲショウマの谷に遊んだ。
山の日にはさらに多くの人が訪れるだろう。
2016年8月6日、剣山にて
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