2016年05月08日

かけがえのないこと 宍喰の寒茶のある暮らし そして甘みと旨味が溶け込んだ「寒茶物語」


1億総評論家が飲食店、宿泊施設、家電品を評価する時代。
自分で実際に判断すれば良いことだが、
失敗したくない、自分で判断できない人たちが
レビューを求めてネットサーフィンをする。
そこに途方もない時間が消費されている。
それを増長しているのがスマートフォン。

そこで、わかりやすいキャッチコピーとシズル感のある写真を見せ
限定などの煽りをきかせて買わせるのがマスマーケティング(楽天など)の手法となっている。
それゆえ、このようなサイトや○○○セレクションなどに登録されたものには
良いモノはほとんど見かけない。
(自分が生きていく身の回りのことは自分で実際に体験して判断しようよ)

「匠の技」「こだわりの逸品」「厳選した材料」
「有機JAS認定」「○○使用、だからこれこれ」などのフレーズを用いた商品を、
買わないようにしている。
(あくまで個人のモノサシですが)

その一方で、良いものは、なかなか浸透しない。
「○○産の○○グレードの材料を○○グラム使用して
手間のかかる○○製法でつくった逸品」といった情報はわかりやすいので
先入観(脳が味わう情報)に弱い私たちは飛びついてしまう。

星の王子様は、ほんとうに大切なものは目には見えない、という。
目に見えないことなので文字では伝えにくい。
社会にはほんの一握りだけれど、
目に見えることから、目に見えないものを推し量っていける人がいる。

目に見えることは、「何を」。
目に見えないけれど大切なことは「どのように」と定義すると、
豊かな人生とは、
「何を」ではなく、「どのように」を大切にする生き方と思う。

なぜ、それをつくっているのか?
どんな気持ちで取り組んでいるのか?
何を伝えよう、届けようとしているのか?

////////////////////////////////////////////

徳島県最南端の海陽町宍喰(ししくい)地区には寒茶(かんちゃ)という茶がある。
山に自生している山茶を寒の時季(真冬)に摘み取って製茶していたもので、
全国的に寒茶と自称する製品はあったとしても
このような製法を見つけることは難しい。

茶が自生している宍喰の山中は
水をすくって飲めそうな清流、野根川の上流部。
携帯電話すらつながらない地区である。
そのような場所で、農薬を使わず自然に任せて生育した山茶を
わざわざ一年でもっとも寒い時季に摘み取るのはなぜか?

冬の寒さに耐える分厚い茶葉は
旨味を貯えるとともに、カフェインが少ないからである。
しかし、風味が奥に閉じ込められているので
高温の湯で抽出する必要がある(煮るという感覚に近い)。
だから寒茶は、急須に湯を注いですぐに飲んでも出ない。
やかんに煮だして、野良へ持っていて水筒代わりに飲むこともあったのではないだろうか。
地元では普段飲みのお茶として親しまれてきた。
いわば、暮らしの飲み物である(これが従来の寒茶)。

いまから数十年前、
野根川の夏を楽しみに宍喰町を訪れたとき、
キャンプ場の管理をされていた女性から楽しいお話を伺ったことがある。
山峡の地でそよ風に吹かれるような笑顔の女性は、石本アケミさんという。
そのとき、寒茶の存在を教えていただいた。
(同じ徳島県人にも知られていないのである)


生産者は70歳を越えているだろうか。
もともと、まとまった茶畑があるわけではなく
野根川に落ちる急峻な地形とも相まって
山峡の集落では効率的な生産は望めない。
それを高齢者が細々と
しかし、この茶を子どもや孫たちに伝えたいと
作業に励んでいる。
いまも、集落の高齢者が励まし合いながら寒茶の生産を続けている。

このままでは消えゆく運命にある宍喰の寒茶であるが、
東京からIターンで移住されたご夫婦が
地域と寒茶の可能性を信じて、地元の生産者を支援しつつ
寒茶の可能性を極限まで引き出した製品を開発された。
日比光則さん、裕子さんご夫妻である。

それは、寒茶の地平線を切りひらいたもので
水で抽出することもできるティーバッグ「寒茶物語」として提供されている。
DSCF4218.jpg

コーヒーでも水で抽出すると、まろやかな風味になることは知られている。
しかしそのために、数時間かけて抽出することが一般的である。
その抽出装置もそれぞれ工夫されている。
(私が行きつけの四万十市の喫茶ウォッチもそうである)

しかし、この製品「寒茶物語」は、水で数分で抽出できるよう茶葉を加工したもので、
オリジナルの寒茶とは異なる価値を提案している。

その風味は、茶の甘みが感じられ、飲んだあとに旨味があとを引く。
(すっきり風味のあとの名残感が飲んだ人をなごませる)
もちろん、湯で抽出してもいい。
その場合は、ウーロン茶で感じられるような、心地よい酸味が鼻腔に抜けていく。
この1杯の茶には、それを育てる自然の営みと
真冬の時期だからこそ茶葉に宿る風味を取り出したことと
寒茶のある風土と人々に共鳴して、惜しみなく支援を行ってきた思いが込められている。

寒茶物語の風味は、乳酸発酵で現在ブームとなっている阿波晩茶をはじめ、
一般的な紅茶や緑茶とも異なる風味である。
それでいて、誰が飲んでもすうっと飲める。
(個性と普遍性を高度に両立させているので、お茶に目がない人たちに味わっていただきたい)
そして、胃腸が弱い人や子ども、高齢者が飲んでも身体にやさしいのがいいところ。
(カフェインが少ないので)
真冬の茶葉に閉じ込められた旨味成分を「どのように取り出すか」を研究し
試行錯誤の末に実現できた開発者のひそかな高揚感すら感じられる。

寒茶物語は、徳島県南部の一部の場所でしか入手できない。
インターネットでの販売も検討されているようだが、
現時点では、道の駅宍喰温泉 産直市場「すぎのこ市場」(ホテルリビエラししくいの隣,道の駅宍喰)で入手できる。

facebookすぎのこ市場

ティーバッグなので飲みたいときにすぐに飲める。
けれど、わざわざ寒茶だけを味わい尽くす休日の時間も素敵。
このお茶には、ゆったりとした暮らしを楽しむきっかけが詰まっているから。
DSCF4272.jpg

徳島県最南端の宍喰町久尾の集落へ出かけて
野根川の清流と茶が自生する斜面を見ていただけると
寒茶に託した人々の思いが伝わってくる。
川からの薫風を感じる初夏からせみしぐれの夏、
寒茶の里を訪ねてみては?
(商品を買って産地を応援できるけど、それだけではなく直接現地を訪ねてみては?)

追記

寒茶を練り込んだ手延べ乾めんも完成した。
麺本体だけでも稲庭うどんに匹敵するおいしさである。
この麺は、つるぎ町の製麺所(本田製麺)に特注してつくられたもの。
DSCF4240.jpg

麺になにかを混ぜ込むことはどこでもやっているけれど
たいがいは風味よりも話題性が先行しているように思う。

ところが、「手延べつけ麺 寒茶」は、
麺だけですでに完結している世界観を持つ。

使用している国産小麦は、日比さんがかつて数ヶ月かけて
全国を訪ね歩いて見つけたものを生産者から直接購入されていると伺った。
安全安心とおいしさへの思いは深いが、そのことは売り文句として語らない。

そこに宍喰の寒茶の茶葉を使っている。
麺のゆで汁を飲んでみると
すでに寒茶の旨味が溶け込んでいる。

つけ麺は、日比さん特性の塩だれ。
(もちろん化学調味料や保存料は使用していない)
麺の風味を壊すことなく、塩で麺の甘みと旨味を引き出している。
茹でる時間は、5分程度。ゆであがりを水で締めてできあがり。
あまりにもプレーンでさりげないだけに
夏の暑さをものともしない涼しさを感じさせる。
手延べ乾めんに寒茶の旨味を閉じ込めた
この突き抜けた世界観は唯一無二のものだろう。
「手延べつけ麺 寒茶」は現代の千利休に味わっていただきたいと思う。
DSCF4254.jpg

手延べつけ麺は、日比さんの経営されているChannel R55が全国初と聞いている。
お店でもいただくことができるが、現在は、一時休業されているようである。
再開されれば本ブログでもお知らせしたい。


posted by 平井 吉信 at 17:46| Comment(0) | 生きる
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: